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相棒との別れです

 武者修行を始めて4日が過ぎた。


 この日、俺とノワールさんはしりとりをしつつ草原を歩いていた。


 黙々と歩くより、しゃべりながら歩いたほうがノワールさんも楽しいだろうしな。


 エファやフェルミナさんが相手なら雑談でもいいんだけど、ノワールさんは長時間話すのがあまり得意じゃないので、しりとりをすることにしたのだった。


 同じ単語を使ってもいいルールなので、休憩を挟みつつもかれこれ6時間はしりとりが続いている。


「ねずみ、の『み』だよ」


「……みず」


「ず、ず……図工の『う』だよ」


「……みず」


「図工の『う』だよ……?」


「……水が欲しいわ。私の水筒は空になってしまったもの」


「ああっ、ごめんごめん。――はい、水」


 水筒を渡すと、ノワールさんは飛びつくように受け取り、あっという間に飲み干してしまう。


 これで喉は潤ったはずだけど……ノワールさんの顔色は優れなかった。


「もしかして疲れてない?」

「元気満々だわ」

「でも顔色悪いよ?」

「生まれつきだわ」


 ノワールさんは気丈に振る舞っているが、俺の目は誤魔化せない。


「俺に気を遣う必要はないよ。べつに急いでるわけじゃないからね」


 早く師匠に修行をつけてほしいけど、《北の帝王ノース・ロード》や《南の帝王サウス・ロード》のときみたいにタイムリミットがあるわけじゃないしな。


 のんびり旅したって数日の誤差しかないし、問題はないのだ。


「ほんとはへとへとだわ」


 ノワールさんはやっと本音を明かしてくれた。


 最寄り町をあとにして半日近く経ってるし、あたりは薄暗くなってきている。


 真っ暗になるとノワールさんが転けてしまうかもしれないし、今日の旅はこのへんで切り上げてもいいかもな。


「ちょっと行った先に廃墟があるし、今日はあそこで野宿しよっか」


 5㎞ほど先に朽ち果て気味の建物を見つけて提案すると、ノワールさんは目を細めた。


「……なにも見えないわ」


「俺の目にはちゃんと映ってるよ」


 視力には自信があるのだ。夜目も利くし、これくらいの暗さなら昼間同然に見通せるのである。


「廃墟で休むわ」


「決まりだね。自力で歩ける? 無理そうなら背負うけど……」


「頑張れるわ」


 どことなく凜々しい顔をするノワールさんとともに廃墟へ向かう。


 そして廃墟にたどりついた途端、ノワールさんはその場に座りこんでしまった。


「頑張ったわ」


「偉いね。お疲れさま。……ちょっと散らかってるけど、ここならゆっくり休めそうだね」


「無人かしら?」


「だと思うよ」


 きっと《闇の帝王ダーク・ロード》率いる魔王軍が活動していた頃、魔法騎士団の駐屯地として使われていた建物だろう。


 いくつか部屋を見てまわり、ベッドを発見した。ぼろぼろだけど、床で寝るより疲れが取れやすいはずだ。


 軽く汚れを落としたあと、もう一歩も動けない様子のノワールさんを抱えてベッドまで運ぶ。


「ご飯はどうする? 食べるなら用意するよ」


 携帯食料だけじゃ身体を壊すかもしれないため、食材をいくつか買っておいたのだ。


 ちょっと手間はかかるけど、美味しいご飯を食べたほうがノワールさんも元気になるだろうしな。


「しばらく寝たいわ」


 食欲より睡眠欲を優先させるノワールさん。


「わかった。じゃあ俺は軽く修行をしてくるよ」


「……遠くに行ってしまうのかしら?」


 ノワールさんは不安そうに瞳を揺らしている。


「遠くにはいかないけど……どうして?」


「ここはお化け屋敷に似てるわ」


 俺とノワールさんは『お化けは倒せない』という理由で、お化けに苦手意識を持っているのだ。


 俺は本当にただ苦手なだけだけど、ノワールさんは苦手な上に怖いのだろう。


「だいじょうぶ。廃墟のすぐそばで修行するからね。なにかあったらすぐに駆けつけるよ」


「それなら平気だわ」


 ノワールさんは安心したのか、すぐに寝息を立て始めた。


 風邪を引かないように上から服をかけたあと、俺は廃墟をあとにする。


 夜風になびく草原に立ち、胸に手を当てた。


 心臓がどくんどくんと高鳴っている。



 ついに相棒を――魔法杖ウィザーズロッドを使うときがきたのだ!



 俺はこの瞬間を待ち望んでいた。


 早く使ってみたかったけど、列車の乗り継ぎなどで使う暇がなかったのだ。


 あたりに人影は見当たらないし、ここなら安心して魔法を使うことができる。



「さて、まずは自然体で魔法を使えるようにならないとな」



 俺は数えるほどしか魔法杖を握ったことがないからな。魔法を使うとき、どうしても緊張してしまうのだ。


 そして緊張するのは、俺が精神的に未熟だからだ。


 魔力と精神力は密接に関わっている。


 落ち着いて使えるようになれば精神的に成長したことになり、魔力も上がるはずなのだ。



「よしっ、やるぞ相棒!!」



 気合いを入れるように叫び、俺は懐からサッと相棒を取り出した。




 スパァァァァァァァン!!!!!!!!




 凄まじい風切り音が響き、相棒の柄から先が消滅する。



「……」



 変わり果てた相棒の姿にしばらく呆然とした俺は、はっと我に返る。


 ネムネシアのときと違って横薙ぎだったし、大地は切り裂かれてないけど……いまの音って、カマイタチだよな?


 相棒が短くなったのはショックだけど、俺は大きな教訓を得た。


 魔法杖を取り出すとき、かっこいいからといって早撃ちガンマンみたいに扱ってはならない――魔法杖を使うときは常に落ち着いていなければならないのだ。


 でないと懐から取り出したときの衝撃で魔法杖は根元から吹き飛び、さらにカマイタチが発生してしまうのだ。


 そういう大切なことを学べたので、相棒が短くなったことは……悲しいけど、受け入れる。


 短くなった相棒は御守り代わりにするとして……問題は、カマイタチの行方だ。


「なにも壊してなきゃいいんだけど……」


 祈りつつ、俺はカマイタチの飛んでいったほうへ走るのだった。



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