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走れば余裕で間に合います

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次話もなるべく早くお届けできるよう頑張ります!


 晩飯を食べたあと、師匠はどこかに電話をかけ始めた。


 科学ではなく魔法によって発展した異世界ヘクマゴスにおける科学技術は、地球で言うところの産業革命以前のものだ。

 だが、科学の代わりに魔法技術が発達しているため、現代日本とそこまで変わらなかったりする。


 たとえば師匠が使っている電話は、電波のかわりに魔力を使って遠く離れた人物と交信する魔法の道具――魔具だ。

 魔力の質はひとそれぞれ違っていて、アドレスの代わりに魔力を登録することで、特定の人物と連絡を取りあうことができるのだ。


 師匠はそれを使って、王立エルシュタット魔法学院の学院長に連絡を取っているのだった。


 王立エルシュタット魔法学院の学院長といえばエルシュタット王国の国王であり、かつて師匠とともに魔王と戦った勇者一行のメンバーでもあるすごいひとだ。

 つまり、正真正銘の大魔法使いなのだ。


 そんなすごい人物のもとで魔法の勉強ができるなら、きっと俺にも魔法が使えるようになるはずだ!


 俺はわくわくしつつ、食器を片づけながら師匠の電話に耳を傾ける。


「ああ、わしわし。モーリスじゃよ。いま暇?」


 師匠は軽い調子で国王に話しかけている。


「ちょっと頼みがあるのじゃが……。わしの弟子のことは、前に話したことがあるじゃろ? ……そう、アッシュじゃ。そのアッシュをお前の学校に入学させてやりたいのじゃが……。ああ、うん。魔法は使えないんじゃけどな。なんでそうなったかというと、実はついさっき《闇の帝王ダーク・ロード》が復活したのじゃが――っ!?」


 師匠はケータイを耳から遠ざけた。

 電話の向こうからは、叫び声が聞こえてきている。


「い、いきなり大声を出すでない! ただでさえ聴力が衰えておるのじゃぞ? 聞こえなくなったら、どうしてくれるのじゃ!」


 師匠はぶつぶつと文句を言ったあと、ため息をつく。


「安心せい。魔王は今度こそ完全に死んだ。念のため骨という骨を粉々に砕いてやったのじゃ。……いや、倒したのはわしではない。アッシュじゃよ。しかも、ゲンコツでな!」


 師匠は何度か相づちを打つ。


「というわけで、アッシュは世界を救ったのじゃ。その褒美といってはなんじゃが、お前の学校で預かってやってはくれぬか? アッシュは世界最強の武闘家になったのじゃが、夢は魔法使いなのでな。……なにぃ!? 編入試験は受けてもらうじゃとぉ!? アッシュは世界を救った英雄なのじゃぞ!? ……なにぃ!? それとこれとは話がべつじゃとぉ!?」


 師匠はぎりぎりと歯ぎしりをする。


 ……師匠は、俺のために本気で怒ってくれているんだ。


 旧友とはいえ、国王相手に本気で怒鳴ってくれているんだ。

 俺は、そのことがたまらなく嬉しかった。


「このわしがここまで頼んでおるのじゃぞ!? せめて魔力測定くらいはパスさせてやるのじゃ! あと、学費を免除したうえで生活費を支給してくれたらわしが助かるぞい!」


 うちにはあまり貯金がないのだ。


「ほんとうか!? さすがはフィリップ、話がわかるではないか!」


 おっ、なんか話がまとまったらしい。

 俺が安心していると……しかし、師匠はみるみるうちに顔色を悪くしていった。


「編入試験は明日じゃと!? なに? 書類審査は免除する!? それはありがたいけども、ここから学院までどんだけ距離があると思っておるのじゃ! 間に合わなければ意味がないじゃろ! 一ヶ月後に延期せい! ……それは無理じゃと!? おのれえええええええええ!!」


 師匠のこめかみに青筋が浮かぶ。

 このままだと血管が切れてしまいそうだ。

 俺は師匠をなだめることにした。


「まあまあ、落ち着いてよ師匠。エルシュタット魔法学院って、エルシュタニアにあるんだよね?」


 異世界ヘクマゴスの地理については、幼い頃に本で学んだことがある。

 エルシュタット魔法学院は、エルシュタット王国の首都――エルシュタニアにある。

 そして、ここからエルシュタニアまでは、だいたい青森から鹿児島くらいの距離だったと記憶している。


「うむ。めちゃくちゃ遠くにあるのじゃ。じゃから試験を延期にして――」



「エルシュタニアなら、いまから出れば間に合うよ」



「……は?」


 師匠はぽかんとしている。


「アッシュよ……お前、瞬間移動とか使えぬじゃろ」


 そりゃそうだ。

 瞬間移動は、すごく難易度の高い魔法だからね。

 それが使えるなら、間違いなく大魔法使いの仲間入りだ。


「瞬間移動とまではいかないけど、走れば間に合うよ」

「それ、ほとんど瞬間移動ではないか!?」

「全然違うよ!」


 瞬間移動ってのは、一瞬で目的地に到達できる『魔法』だ。

 一方、俺のは単なる高速移動――ただ走るだけだ。

 俺の憧れる魔法ってのは、身体を動かさずに超常現象を起こせる技なのだ。

 ただの身体能力を魔法と一緒にするのはやめてほしい。


「アッシュの身体能力のほうが、魔法よりよっぽど魔法っぽいのじゃが……とにかく、間に合うのじゃな?」

「間に合うよ」


 俺が自信を持って告げると、師匠は「なんか間に合うっぽい」と学院長に伝え、通話を終えた。


「編入試験は明日の朝から開始されるようじゃ。本来ならば書類審査と魔力測定でほとんどの受験者が落ちるようじゃが、それは免除してくれるようでな。もっとも、実技試験を突破できるかはアッシュの実力しだいなのじゃが……」

「わかった。俺のためにそこまでしてくれて、ありがとね」


 俺が感謝を伝えると、師匠は目を潤ませた。


「アッシュよ。お前はわしにとって子どものようなものじゃ。立派に育ってくれて、わしは嬉しいぞ」

「師匠の育て方がよかったんだよ」

「アッシュよ……。お前と離れるのはつらいが……しかし、世界最強の武闘家になってみせたお前なら、必ずや立派な魔法使いにもなれると信じておるぞ!」

「もちろんさ! 俺、立派な魔法使いになってみせるよ!」

「うむ! アッシュが大魔法使いになるその日まで、なんとしてでも生きながらえてみせるのじゃ!」


 師匠なら、本当にあと一〇〇年は生きそうだ。

 だからといって、のんびりはできない。

 俺は一日でも早く魔法を使ってみたいのだ。

 明日の編入試験に合格し、ほかの魔法使いたちと研鑽を重ね、大魔法使いになるのである!


 俺は荷造りをすませると、住み慣れた我が家をあとにしたのであった。



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