まずは相棒を手に入れます
「アッシュさんっ!」
学院長室に入ると、アイちゃんが駆け寄ってきた。
「ほんとうに、よく帰ってきてくださいましたね。必ず戻ってくると信じておりましたが……ご無事な姿を確認できて、ほんとうに安心しました……」
心の底から心配してくれていたのか、アイちゃんは涙目だった。
「心配かけてすみません。まさかここまで時間がかかるとは思わなくて……」
体感時間的には5分でけりがついたけど、現実世界では10ヶ月かかったことになっているのだ。
「アッシュさんが謝ることではありませんわっ。魔王討伐を依頼したわたくしがいけないのです。ほんとうになんてお礼を言ったらいいか……」
「お礼なんていりませんよ。俺も強敵と戦いたいと思ってましたからね」
世界最強の魔王は手招きで真っ二つになったけど、結果的に魔法使いになれたので問題はないのだ。
「とにかく、ご無事でなによりですわ。しばらくはごゆっくりできますの?」
「いえ、魔法使いにはなれましたけど、俺の目標は大魔法使いになることですからね。これからノワールさんと武者修行の旅に出るんですよ」
「もう充分お強いですのに、アッシュさんは努力家ですのね。アッシュさんなら必ず大魔法使いになれますわ」
「その通りじゃ!!」
師匠が声を張り上げて同意する。
「アッシュはわしの自慢の弟子じゃからな! 魔法使いの才能がなかったわしは武闘家の道を選んだが……並外れた努力によって魔力を手に入れてみせたアッシュなら、必ずや大魔法使いになれるのじゃ!!」
「師匠……!」
師匠の声援に、思わず目頭が熱くなる。
いまの俺があるのは師匠のおかげだ。あの日師匠が拾ってくれなかったら、俺は森のなかで野垂れ死んでいたかもしれないのだ。
師匠は俺のことを自慢の弟子だと言ってくれるけど、俺にとってモーリスじいちゃんは自慢の師匠なのである。
「あ、あなたも自慢の弟子だからね」
コロンさんが張り合うように言うと、部屋の隅っこに立っていたシャルムさんが頬を赤らめた。
「な、なぜここで吾輩を引き合いに出すのだね? 自慢されるような手柄は立ててないのだよ」
「そ、そんなことはないわ。あなたは立派よ。たくさんの生徒に慕われているじゃない。あなたを弟子に持てて、とっても誇らしいわ」
「そ、それ以上褒めるのはやめたまえっ」
シャルムさんはプレッシャーに弱いのだ。
俺もシャルムさんは良い先生だと思うけど……言わないほうがよさそうだな。
「ところで、アッシュはどこで修行をするのじゃ?」
モーリスじいちゃんがたずねてくる。
「まずはライン王国に行ってみるよ! 会ってみたい強者がふたりいるからね!」
地図によると、ライン王国にはノワールさんより強い人物がふたりいるのだ。まずはそのふたりに弟子入りし、魔法使いとして強くなるためのコツを学ぶのである。
「ライン王国に行くのかね。だとすると、そのうちのひとりは吾輩の友人かもしれないね」
「シャルムさんのご友人ですか? どういう方なんです?」
シャルムさんはコロンさんのもとで修行を積んだあと、ライン王国で暮らしていたのだ。俺の師匠候補とは、そのときに知り合ったのだろう。
「ティコという女だよ。世捨て人というか、他人と関わるのを面倒がる奴なのだが……吾輩の名を出せば、修行をつけてもらえるんじゃないかね。まあ、なにかわからないことがあれば吾輩に電話するといい。た、頼りにしすぎるのは困るがね」
そう言って、シャルムさんが懐から携帯電話を取りだした。
「アッシュさん、これを。少ないですが、なにかの足しにしてくださいな」
シャルムさんと連絡先を交換したところ、アイちゃんがパンパンに膨らんだ巾着を向けてくる。
受け取って確かめると、大金が入っていた。
「こんなにたくさん……いいんですか?」
「もちろんですわ。アッシュさんにはそれだけのことをしていただきましたもの。ただ……見返りを求めるなんてどうかと思いますけれど……たまに顔を見せてくださいな。そうしていただけると、わたくしはとっても嬉しいですわ」
「それくらいならお安い御用ですよ」
世界中を旅するとはいえ、二度とエルシュタット王国に戻ってこないわけではないのだ。
エファやフェルミナさんとも会いたいし、年に一度は戻ってくる予定だ。
「じゃ、そろそろ行くよ」
長居すると名残惜しくなる。
いつまでもこうしているわけにはいかないため、俺は別れを切り出した。
「わしらは『魔の森』にいるのでな。たまに会いに来てくれると嬉しいのじゃ」
「もちろんだよっ! 今年はできなかったけど、次の誕生日は必ずお祝いするからね!」
「嬉しいことを言ってくれるのぅ……。アッシュに祝ってもらうためにも、長生きせねばな!」
「わ、わたしも、シャルムが結婚するまでは生きてみせるわ」
「プレッシャーをかけるのはやめたまえっ。そんな予定はないのだよ!」
顔を真っ赤にするシャルムさんに、部屋は笑い声に包まれた。
そんな楽しい雰囲気に名残惜しさを感じつつ、俺とノワールさんは学院長室をあとにする。
「まずは駅へ向かうのかしら?」
廊下を歩いていると、ノワールさんがたずねてきた。
「列車に乗るのは買い物を済ませてからだよ」
「なにを買うのかしら?」
その質問に、俺は思わずにやけてしまう。
「なにを買うか聞きたい?」
「……なんだかいつもと様子が違うわ」
ノワールさんは俺の異変に気づいたようだ。
「そりゃ様子が変にもなるよ! なんたってこれから買いに行くのはあの魔法杖だからね!!」
魔法杖――。
それは魔法使いにとって欠かせない、まさに相棒と呼ぶべきアイテムである。生涯の友と言っても過言ではないものなのだ。
ほかにもぶかぶかのローブとか三角帽子とか魔法使いを象徴するアイテムはたくさんあるけど、魔法使いにとって一番大切なものは魔法杖で異論はないはずだ。
幼い頃から欲しい欲しいと思い続けてきた魔法杖が、ついに手に入るのだ!
俺は相棒とともに世界を巡って強くなり、いつの日か大魔法使いになってみせるのである!
そうしてまだ見ぬ相棒に思いをはせつつ、俺は魔法杖ショップへと向かうのだった。
次話は明日投稿予定です。




