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旅立ちの日です

後日談スタートです!

 東の遺跡で念願の魔法使いになったあと。


 エファやフェルミナさんと楽しいひとときを過ごした俺は、みんなと一緒に列車に乗り、エルシュタニアへ向かっていた。


「そろそろエルシュタニアに到着だね」


「いよいよっすか……。しばらく会えなくなるっすね」


 ついさっきまではしゃいでいたエファとフェルミナさんは、寂しそうな顔をする。


 ふたりはエルシュタニアに到着したあと、すぐに列車を乗り換えて別々の町へ向かうのだ。来週から仕事が始まるため、今日中に出発しないと遅刻するかもしれないのである。


「エファの職場はわかってるからな、たまに遊びに行くよ。もちろん配属先がわかったら、フェルミナさんにも会いに行くよ」


 エファの職場はネムネシアの小学校だ。


 万能の魔力を持つエファは、本来ならどこだろうと就職できた。そんな彼女の選んだ仕事は、魔法を使わない体育の先生だったのだ。


 仕事にしたいと思うくらい、エファは俺との修行を楽しんでいたのである。そのことが、俺は本当に嬉しかった。


 エファがどんな授業をするのか気になるし、たまに様子を見に行くつもりだ。妹たちともひさしぶりに会いたいしな。


 最後に会ってから2年くらい経つし、どういうふうに成長しているのかいまから楽しみである。俺のことを覚えてくれてるといいんだけど……。


「師匠が遊びに来てくれたら、妹たちも大喜びっす!」


 話を聞いた限りでは、ちゃんと覚えてくれてるみたいだな。


「エファちゃんたちが安心して暮らせるように、あたしもお仕事頑張るよ!」


「フェルミナさんが守ってくれるなら安心っすね!」


 フェルミナさんはずっと憧れていたエルシュタット魔法騎士団への就職を決めたのだ。


 友達の夢が叶って、俺は自分のことのように嬉しかった。



「私は無職だわ」



 ノワールさんは不安そうにしている。


 友達が就職を決めたから焦ってるのかな?


 励ましてあげたいところだけど、俺も無職だしなぁ。あと10年は働かずに暮らせるだけの貯金があるけど、いつかはお金を稼がないとな。


 職業は冒険家で、いまは武者修行の旅をしているキュールさんは、どうやって生活費を稼いでるんだろ? 今度会ったときにでも聞いてみるか。


「しばらくは働かなくていいよ。俺が面倒見るからね」


 さておき、俺はノワールさんにそう告げた。


 ノワールさんは俺の旅についてくるのだ。旅に同伴すると決めたのはノワールさんだけど、俺としても彼女にはついてきてほしいと思っていた。


 なので武者修行中は面倒を見ることにしているのだ。


「安心したわ」


 ノワールさんはほっとしている。


「アッシュくんには世界を救ってもらったからね。お金に困ったら私やアイナを頼るといいさ。アイナもアッシュくんに会いたがっているからね」


 ノワールさんとのやり取りを聞いていたのか、フィリップ学院長が話しかけてきた。


 正しくは『元学院長』だ。


 俺が《伝説の伝説の魔物ハイパーレジェンドモンスター》と戦っている10ヶ月のあいだに、学院長と国王の座をアイちゃんに譲ったのである。さらに魔法騎士団総長という仕事もあるため、アイちゃんは大忙しだ。


 そんななか、アイちゃんは俺に会いたいと言ってくれたのだ。この機を逃せばいつ会えるかわからないし、会えるときに会っておかないとな。


「アッシュならお金がなくても生きていけるじゃろ」


「そ、そうね。アッシュくんなら、どんな環境でも余裕で生き抜けるわ」


「確かにそうだね。ともかく、旅立ちの前にアイナに会ってやってくれんかね? ずっとアッシュくんのことを心配していたからね」


「もちろんです!」


 俺としてもエルシュタット魔法学院に用事があるしな。


 武者修行の旅に出るのは、やるべきことを終わらせてからだ。


 順調にいけば今日中には出発できるはずだ。



 ――と、列車のスピードが緩やかになっていく。



 いよいよエルシュタニアが近づいてきたみたいだな。


「アッシュくん、アッシュくん」


 窓の外に広がる懐かしい景色を眺めていると、フェルミナさんが呼びかけてきた。


「どうしたの?」


「駅に着いたらバタバタして渡しそびれちゃいそうだから、いまのうちに渡しておこうかなって。はいこれ」


 フェルミナさんが小包を差し出してくる。


「これは?」


「わたしとフェルミナさん、それとノワールさんからの贈り物っす! 師匠を驚かせようと思って、途中下車した町でこっそり買ってきたんすよ!」


 やけにノワールさんがそわそわしてるなぁと思ってたけど、こういうことだったのか。


「ありがと、嬉しいよ! でも、俺の誕生日はまだ先だよ?」


「これは誕生日プレゼントじゃなくて、魔法使いになったお祝いっす!」


「実用的なものを選んだからね! 大切にしてくれると嬉しいな」


「もちろん大事にするよ!」


 実用的なものかー。なんだろ? フェルミナさんが選んだってことは、肉かもしれないな。けど、肉だとこのサイズの箱には収まらないよな。


 なんであれ、みんなが俺のためにプレゼントを用意してくれたことはとても嬉しい。


 俺はさっそく小包を開けてみた。


 そこに入っていたのは……



「うおおっ! 携帯電話だ!!」



 魔力を持っている者しか使うことを許されない魔具――携帯電話だったのだ!


 まさか携帯電話を持てる日が来るなんて……夢みたいだ。


 俺はあらためて魔法使いになったのだと実感するのであった。


「あたしたちの連絡先は登録済みだからねっ!」


「師匠の電話ならいつでもどこでも大歓迎っす!」


「わしも登録していいじゃろうか?」


「わ、わたしも登録しておくわ。なにかあったら、いつでも頼りにしてね」


 モーリスじいちゃんやコロンさん、フィリップさんが俺の携帯電話に触れ、次々と連絡先が登録されていく。


 魔力の質はひとそれぞれだ。携帯電話に魔力を流すことで、その人物の連絡先が登録される仕組みになっているのである。


 そうして連絡先を登録した俺は、今度はみんなの携帯電話に魔力を流していく。


「……登録されてないわ」


 ノワールさんが携帯電話を見つめ、悲しげに言った。


 最後に触れたノワールさんの携帯電話にだけ、俺の連絡先は登録されていなかったのだ。


「あれ? おかしいな……」


 もう一度試してみたけど、結果は変わらなかった。


 もしかして……。



「きっと俺の魔力が尽きたんだ。回復したら登録するよ」



 世界最弱の魔法使いである俺の魔力量は、やはり世界一少ないようだ。


 体力に例えると、一歩歩いただけでスタミナ切れになるようなものである。


 だけど、どれだけ弱くたって魔法使いであることに変わりはない。


 18年かかったけど、俺はようやく魔法使いになれた――スタートラインに立てたのだ。


 同じ時間か、ひょっとしたらそれ以上かかるかもしれないけど、俺は立派な魔法使いになってみせる。



 武者修行の旅を通して魔力を鍛え、いつの日か大魔法使いになるのである!



「普通は魔力が尽きたら強烈な目眩に襲われるのだけど……身体を鍛えすぎると常識は通じないのね」


 コロンさんが驚いたようにつぶやいたところで、列車はエルシュタニア駅に到着したのであった。


次話は明日投稿予定です。

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