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タケノコみたいになりました

活動報告のほうで募集しました穴埋めエピソード、2話目はフィリップ学院長とコロンさんの話です。

時系列的には『ボスラッシュです』と同じ頃の出来事になります。



 大陸最西端の平原にて。


「も、もうこれ以上は圧縮できないわ」

「想定していたより大きくなってしまったね」

「アッシュくんなら使いこなせるでしょうけど……こんなに大きなものをもらって喜ぶかしら?」

「きっと喜んでくれるさ」


 尖塔のような物体を見上げ、コロンとフィリップはやり遂げた顔をしていた。


 アイアンワームの排泄物が混ざった土を集めて固め、圧縮魔法をかけてできた『絶対に壊れない魔法杖ウィザーズロッド』である。


 材料探しを始めて約1年。当初は材料が集まるか不安だったが、いよいよ完成が間近に迫り、ふたりは安堵していた。


「できればモーリスにもこの瞬間に立ち会ってほしかったわ」

「しかたがないさ。モーリスには、ノワールくんを見守るという大事な役目があるからね」


 最東端の遺跡にてアッシュが消息を絶って約8ヶ月。ノワールは遺跡の近くでアッシュの帰りを待ち続け、モーリスはそんな彼女を見守っているのだ。


「アッシュくん、いつごろ戻ってくるのかしら?」

「いつになるかはわからないけど……必ず魔法使いになって戻ってくるさ。だからこそ、我々は魔法杖を作るんだよ」

「そ、そうね。それで、あとはなにをすればいいのかしら?」

「アッシュくんが気に入りそうな模様を入れたら完成さ」


 これだけ大きいと模様を入れるだけでも数週間はかかりそうだが、アッシュの喜ぶ顔を想像するだけで疲れは吹き飛んでしまうのだ。


「問題はアッシュくんの好みがわからないことね。なんとなく、男の子はギザギザ模様が好きそうだけど……どうかしら?」

「私は好きだけど、アッシュくんが好きかどうかはわからないからね。モーリスに聞いてみるのが確実さ」


 アッシュの育ての親であるモーリスなら、彼の好みを知っているはずだ。


 フィリップは懐から携帯電話を取りだし、さっそくモーリスに電話をかけてみる。


『どうしたのじゃ?』

「ついさっき魔法杖の圧縮が終わってね。あとは模様を入れるだけなのさ」

『おおっ、ついにそこまで来たかっ! 模様というと、アッシュの好きそうな模様を入れるのじゃな?』

「そのつもりさ。いまのところ第一候補はギザギザ模様だけど……アッシュくんの好みの模様に心当たりはあるかい?」

『アッシュは魔法陣が好きじゃよ』


 魔法使いに憧れるアッシュらしい好みだった。


『アッシュは本当に魔法陣が好きでのぅ。小さい頃は独自の魔法陣を描いて、わしに見せてくれたのじゃ。どんな効果なのか聞いたら、わしの腰痛を治す魔法だと言ってくれてのぅ……。アッシュの喜ぶ顔が見たくて、わしは気合いで腰痛を治したのじゃよ。それに――』


 しばらく思い出話にふけったあと、モーリスは満足したように通話を切った。


「長電話だったわね……。それで、アッシュくんの好みはわかったのかしら?」

「アッシュくんは魔法陣が好きらしいよ」

「アッシュくんらしいわね。素敵な魔法陣を刻んで、喜ばせてあげたいわ」

「じゃ、もうひと頑張りといこうか」


 そうしてフィリップとコロンは刻印魔法を使い、イメージ通りの魔法陣を刻もうとする。


 だが、魔法杖の表面には傷一つつかなかった。


 硬すぎるのだ。


「こ、この結果は喜ぶべきよね?」

「そうだね」


 アッシュの要望は『絶対に壊れない魔法杖』だ。表面に傷がつかないことは、むしろ喜ぶべきことだろう。


「あとは東の遺跡に運ぶだけね」

「これだけ大きいと船に積むのはまず無理だし、浮遊魔法で運ぶしかなさそうだね」

「そうね。だけど……浮かぶかしら?」


 集めて固めて圧縮を繰り返したため、想像を絶する重さになっているはずだ。


 アッシュなら軽々と振りまわせるだろうが、フィリップたちの浮遊魔法が通じるだろうか……


「ちゃんと浮かぶか試してみるかい?」

「それがいいわね」


 安全のため杖から遠ざかり、ふたりは息を合わせて浮遊魔法を使用する。



 びゅわっ!!



 浮遊魔法のルーンが完成した瞬間、魔法杖は100メートルほど急上昇した。その結果に、コロンは慌てた様子だ。


「ご、ごめんなさい。浮かぶかどうかわからなかったから、全力を出してしまったわ」

「私もさ。とはいえ浮かぶことがわかって一安心だね。本番では魔力を1割程度に抑えて……」


 フィリップは息を呑んだ。


 信じられない勢いで魔力が減っているのだ。


「ま、魔力の消耗が激しいわ……重すぎるのよ……!」


 コロンの顔は真っ青だ。フィリップと同じく、魔力が切れかかっているのだろう。


「な、なるべく急いで下ろしたほうがよさそうだね」

「わ、わかったわ…………あっ」


 コロンがその場に膝をついた。


 魔力が切れたのだ。


「くっ……!」


 コロンが脱落した瞬間、フィリップの負担が激増した。魔力は瞬く間に減っていき、地上まで残り50メートルというところで限界が訪れた。


 魔法杖が隕石の如く降ってくる。


 そして――



 ドゴォォォォォォォォン!!!!!!



 凄まじい地響きが襲いかかってきた。幾筋もの地割れが走り、石つぶての混じる土煙が雪崩の如く押し寄せてくる。


 そして土煙が晴れたとき……



「う、埋まってしまったわ……」

「埋まってしまったね……」



 魔法杖は、地面に深々と突き刺さっていたのだった。


「じ、地割れは魔法で元通りにするとして……魔法杖はどうすればいいかしら?」

「魔力が回復したら、浮遊魔法で回収するさ。そのあとは……もう、アッシュくんに取りに来てもらうしかないね」


 コロンは疲れたようにうなずいた。


「さ、賛成だわ。これはちょっと……わたしたちの手に負えないわ」


 そうして魔力の回復を待ったあと、ふたりは魔法杖の回収作業に取りかかる。


 しかし地中深くに突き刺さった魔法杖は微動だにしなかったため、ふたりは泣く泣く地割れごと魔法杖を埋めてしまうことにしたのであった。


穴埋めエピソードは次話で完結となります。

アッシュくんが世界を旅する番外編ですが、今月中には投稿開始したいと思っております。


また、強くなりすぎた元令嬢が世界最強の結婚相手を求めて拳で婚活する話(http://ncode.syosetu.com/n4839dh/)も連載中ですので、そちらのほうもお楽しみいただければ幸いです!


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