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努力しすぎた世界最強の武闘家は、魔法世界を余裕で生き抜く。

「俺のおしりに魔力斑スティーゲルが浮かんでるの!?」


 俺は師匠に詰め寄った。


 聞き間違えじゃなければ師匠は俺に魔力斑が浮かんでいると言ったのだ!



「うわあっ、ほんとに魔力斑があるっす!」

「ほんとだっ! あと、アッシュくんのおしりってすごく引き締まってるね!」

「わ、わたくしも見たいですわっ! ……ほんと、よく鍛えられてますわね」

「師匠は全身を鍛えてるっすからね! おしりだってガチガチっすよ!」

「なんだか魔力斑も強そうに見えてきたよっ!」

「たくましいですわねっ」



 エファとフェルミナさんとアイちゃんが俺のおしりを覗きこんで興奮している。


「ど、どこに浮かんでるの!? 俺の魔力斑、どこに浮かんでるの!?」

「ここじゃよ。ほら、ぼんやりと光って見えるじゃろ?」


 師匠が指さしたところを、俺は腰を捻って確かめる。



 ……たしかに、ぼんやりと光って見える。



 俺に発光能力なんてないし、となると原因は一つしか考えられない。




 俺に魔力が宿ったのだ!




 ついに魔法使いになったのである!




「いよっしゃあああああああああああああああああああああ!!」




 ほんとに!? いいの!? 魔法使いになってもいいの!?



 使うよ!? 俺、魔法を使うよ!?



 まずはなにから使おうかなぁ。



 やっぱり魔法使いといえば飛行魔法フライだよな!



 いや、でもその前に系統を確かめないとだよな!



 風系統じゃなかったら飛行魔法は使えないわけだしさ!



 もちろん、どんな系統でも喜んで受け入れるけどね!




「も、ものすごい声が聞こえてきたけど……どうしたのかしら?」

「おおっ、アッシュくんじゃないか! 無事に戻ってきたんだね」




 俺が興奮していると、コロンさんとフィリップ学院長が階段から降りてきた。


 俺の叫び声は外まで届いていたようだ。


「いいところに来たのぅ! なんとアッシュに魔力が宿ったのじゃ!」


 師匠は自分のことのように嬉しそうだ。


 師匠の笑顔を見て、俺はますます嬉しくなる。


「魔力が宿ったのかい!? 本当に不可能を可能にしてしまったんだね……」

「み、見てもいいかしら?」

「もちろんです!」


 俺はコロンさんたちにおしりを向ける。いまの俺に恥じらいなどないのだ。


「……ほ、ほんとに魔力斑が浮かんでるわ」

「うっすらとだけど……色からして、これは風系統かな?」

「ほんとうですか!?」


 フィリップ学院長は力強くうなずいた。


「もっとも、魔力斑の濃さからして、魔力は微々たるものだろうけどね」

「だとしても嬉しいです!」


 0と1では大違いだ。


 魔力は精神力を鍛えることで強くなる! つまり、この状態からでも大魔法使いになることができるのだ!


「見つけてくれてありがとう、ノワールさん!」


 ノワールさんが魔力斑を見つけてくれなかったら、俺は一生気づかなかったかもしれない。


 それくらい、俺の魔力斑は薄いらしい。


「ほんと、よく気づいたのぅ。わしからも礼を言うのじゃ」


 俺と師匠に感謝され、ノワールさんは嬉しそうにじんわりと頬を赤らめる。


「たまたまアッシュのおしりが目の前にあったから、見てただけよ。そしたら、急に光ったわ」


 その言葉に、笑顔だった師匠が真顔になる。


「急に光ったじゃと? じゃが……魔力が宿ったきっかけが魔王討伐なら、魔力斑は封印の間に帰還した時点で浮かんでおったはずじゃろ?」

「いや、きっかけは魔王じゃないと思うよ。弱かったからね」


 あれと戦って精神的に成長できるなら、俺はとっくに魔法使いになっている。


「ではなぜ魔力が宿ったのじゃ?」

「俺にもわからないよ。ただ、考え事をしながら歩いてたら、突然ノワールさんに指摘されたんだ」


 魔法使いじゃなくてよかったと本気で思っていたところ、ノワールさんに指摘されたのだ。


「考え事というのは、具体的にどういうことじゃ?」


 師匠をはじめ全員の視線が集まるなか、俺はあのとき考えていたことを詳細に話して聞かせた。



「きっと、それがきっかけね」

「うむ。確かにそれしか考えられぬのじゃ」

「本気で努力したアッシュくんだからこそ、そうすることで魔力が宿ったんだろうね」



 思い当たる節があったのか、師匠たちは納得顔をする。


「どうして俺に魔力が宿ったんですか?」


 あのとき俺は、魔法使いじゃなくてよかったと本気で思ったのだ。


 師匠たちの口ぶり的に、そう考えたことがきっかけで俺に魔力が宿ったらしいけど……ほんと、どうして魔法使いになれたんだ?




「あなたは魔法使いになるために、死に物狂いで努力したわ。自分に魔力がないとわかってからも、魔法使いになることを諦めなかったわ」



「つまりアッシュくんは、魔力のない境遇を頑なに受け入れようとしなかったのさ。死ぬ気で努力すれば魔法使いになれると信じ続けたわけだね」



「そんなアッシュが、魔法使いではないことを受け入れたのじゃ。死に物狂いで否定し続けた境遇を受け入れるなんて、並大抵の精神力ではできぬからのぅ」




 つまり、いままでの俺は無い物ねだりをする子どもみたいなもので、精神的に未熟だったってことか。


 しかし魔力がないという境遇を受け入れ、ありのままの自分を肯定したことで、ぐるぐる同じところを回っていた俺は一歩前に進んだ――精神的に成長したのである。


 まあ、それはさておき。



「俺、空を飛んでみるよ!」



 念願の魔法使い、しかも風系統の魔力が宿ったのだ。


 こうなったからには空を飛ぶしかない!


「あの魔法杖ウィザーズロッドって、まだ西の遺跡のそばにあるの?」

「うむ。まあ、あるにはあるのじゃが……使うのは無理じゃよ」


 師匠が言うには、『絶対に壊れない魔法杖』はあまりに重くなりすぎた結果、ほとんどが地中に埋まってしまったらしい。


 浮遊魔法でも微動だにしないほどの重さらしく、いまではタケノコみたいに先端がちょろっと出ているだけなのだとか。



「私の魔法杖を使うといいわ」

「わたしのも使っていいっすよ!」

「あたしのも貸してあげるよっ!」



 ノワールさんたちが一斉に懐から魔法杖を取り出した。


 どれを使うか迷うけど……一番早かったし、ノワールさんの魔法杖を使わせてもらうか。


 そうしてノワールさんから魔法杖を借りた俺は、遺跡をあとにしたのだった。



     ◆



 遺跡を出ると、目の前に小屋が建っていた。


 頭上には、雲一つない青空が広がっている。


 飛ぶには絶好の天気である。



「さっそく試してみるよ!」



 師匠たちにそう告げて、俺は魔法杖を軽く握った。


 大地を切り裂いてしまわないように先端を小刻みに動かして、飛行魔法のルーンを完成させる。




 その結果、俺の身体は1ミリたりとも浮かばなかった。




 しかし俺は慌てない。俺の魔力は微々たるものらしいし、きっと飛行魔法を使うには魔力が足りないのだ。


 となると、使うべきはあまり魔力を必要としない魔法か……。


 そういえば昔――俺が親に捨てられる前、5歳児がカマイタチで丸太を薪にしている光景を見たことがあったな。


 見よう見まねだったとはいえ、俺がはじめて師匠に教わった技もカマイタチだったし、そう考えるとなんだか運命的なものを感じるな。


 よし、決めた。最初に使う魔法はカマイタチにしよう!


 小屋のところに転がっていた丸太を手に取り、切り傷がないことを確かめたあと、地面にセットする。


 そして師匠たちが見守るなか、俺はカマイタチのルーンを描き――完成させた。


 しん、と静まりかえったあと、




「……なにも起こらないのじゃ」




 師匠が、ぼそっとつぶやいた。


 たしかに丸太は真っ二つになるどころか、ぴくりとも動かなかった。


 だけど、俺の目は『それ』を捉えていた。




「違うよ師匠! 魔法はちゃんと発動したよ!」




 俺は丸太を手に取り、師匠たちに見せつける。



「ほら、ここ! うっすらと切れ目が入ってるよ! これ、俺がカマイタチでつけた傷だよ!」



 俺は満面の笑みでそう報告した。



 その瞬間、わあっと歓声が上がる。



「私をゴーレムから救ってくれたカマイタチも好きだけど、そのカマイタチも好きだわ」


「本当に魔法使いになるなんて、さすがわたしの師匠っすね! 超かっこいいっす!」


「今日はパーティだねっ! パーティ! みんなの夢が叶った記念パーティだよっ!」


「アッシュさんの夢が叶って……なんだか自分のことのように嬉しいですわ」


「本当におめでたいね。今日という日を国の記念日にしてもいいくらいさ」


「ほんと、よかったのぅ……。これでもう思い残すことはないのじゃ」


「あ、あなた、泣いてるの?」


「弟子の夢が叶ったのじゃ。泣くに決まっとるじゃろ……よかったのぅ、よかったのぅ……」



 みんなが祝福してくれた。



 師匠は泣くほど喜んでくれた。



 俺はそのことが、たまらなく嬉しかった。




「ありがとう、みんな! 俺、みんなと別れたあとは立派な魔法使いになるために武者修行の旅に出るよ!」




 俺は魔法使いになれたけど、ど派手な魔法は使えない。




 5歳児ですら丸太を薪にできるのに、俺には切れ目を入れることしかできなかった。




 魔法使いとしてあたりまえのことができないのだ。




 間違いなく、俺は世界最弱の魔法使いだ。




 魔力が弱すぎると、一生苦労することになる。




 世界最弱の魔法使いに、まともな生活は送れない。




 だけど俺は世界最弱の魔法使いであるのと同時に、世界最強の武闘家でもある。




 死に物狂いで努力しすぎた俺は、苦労を苦労と感じない。




 これから先どんなことが起きても、余裕で切り抜ける自信がある。






 魔法世界を、俺は身体ひとつで生き抜いてきたのだから。








 これにて本編完結です!


 3章に入ってからペースが乱れてしまいましたが、無事にアッシュくんを魔法使いにすることができ、ひとまずほっとしております。


 ここで終わるのが物語として綺麗な幕引きだと思いますが、魔法使いになったあとの話に興味がある方が多数いらっしゃるようでしたら、番外編を投稿しようと思っています。


 番外編のプロットはまだできてないのですが、おそらく魔法杖を振り回して大はしゃぎしながら世界中を旅するアッシュくんと、それに救われる人々の話になるんじゃないかなと。


 その前に活動報告のほうで3章の穴埋めエピソードを募集しますので、なにかありましたらそちらのほうによろしくお願いいたします。投稿再開の時期につきましても、後日活動報告のほうでお知らせできればと思っております。


 また息抜きに本作と同じような雰囲気の新連載(http://ncode.syosetu.com/n4839dh/)を始めてみましたので、そちらのほうもお楽しみいただけると嬉しいです。


 それではここまで読んでいただき、まことにありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
[良い点] あー。いいねこのほとんどだれも不幸にならない感じ。 アッシュおめでとう!!
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