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発光能力ではありません

「それで……あれから何年経ったんだ?」


 ノワールさんは両手を開き、パーの形にした。


 まさか10年経ったのか!?


 でもノワールさんの成長ぶりからして、それくらいが妥当だよな……。



「あれから10ヶ月が経ったわ」

「10ヶ月でそんなに成長したの!?」



 そんなに時間が経ってなくて安心したけど……いったいノワールさんになにがあったんだ?


「貴方がいなくなってから、たくさんご飯を食べたのよ」


 ノワールさんが急激に成長したのは、ストレスによる過食が原因らしい。


 俺と会えないストレスを発散するため食事に食事を重ね、背が伸びたのだとか。


 ノワールさんの主食はメロンパンだったし……きっといままで栄養が足りてなかったんだろうな。


 それにしても10ヶ月か……。


 体感時間的には5分くらいしか経ってないし、10ヶ月経ったと言われても実感はない。


「あれから10ヶ月経ったってことは、卒業式は終わったんだよね?」

「2週間前に終わったわ。貴方の卒業証書は、私が預かってるわ」

「俺の卒業証書? だけど俺、出席日数が足りないだろ?」

「出席扱いにされてるわ」

「……ああ、そっか」


 そういえば旅立ちの前、アイちゃんが『出席扱いにする』って言ってたっけ。


 10ヶ月というのはさすがに休みすぎな気がするけど、とにかく俺は無事に卒業できたようだ。


 ……まあ、そもそも俺は魔法使いになるために魔法学院に通ってたわけだし、武闘家のまま卒業したって嬉しくないんだけどな。


 とはいえエファたちは卒業しただろうし、近況報告を聞くためにも、ひとまずエルシュタニアに戻ってみるか。


「ところで、モーリスじいちゃんはどうしてる?」

「モーリスは遺跡の外にいるわ」

「近くにいるの?」


 てっきりフィリップ学院長たちのところに帰ってると思ってた。


「遺跡の外に小屋を建てて、貴方の帰りを待ってたわ」


 ノワールさんは遺跡通いを日課にしていたらしいけど、ランジェから遺跡までは片道3時間くらいかかる。


 それを見かねたモーリスじいちゃんが、遺跡のそばに小屋を建てたのだとか。


 きっとモーリスじいちゃんは俺の帰りを待つのと同時に、ノワールさんを見守っていたのだ。


 モーリスじいちゃんは責任感が強いし、ノワールさんをひとり残して帰ることはできなかったのだろう。


「じゃあモーリスじいちゃんと合流して、それからみんなに会いにエルシュタニアに戻ろうか」


 職場の近くに引っ越してるかもしれないし、エファたちがエルシュタニアにいる保証はないけど。


 とにかくアイちゃんに結果を報告するためにも、一度エルシュタニアに戻らないといけないのだ。


「エファとフェルミナも外にいるわ」

「ふたりも来てるの!?」

「卒業旅行と言ってたわ」


 卒業旅行先に大陸の果てを選ぶとは思えないし、きっとノワールさんに会いに来たのだろう。


「てことは、卒業証書はふたりが持ってきてくれたのか」

「卒業証書は学院長の代理人が持ってきたわ」

「アイちゃんも来てるのか」

「1週間前からいるわ。代理人は、ずっと貴方のことを心配してたわ」


 俺に魔王討伐を依頼したのはアイちゃんだ。


 べつに依頼されなくても魔王と戦うつもりだったけど……俺がなかなか戻ってこないから、アイちゃんは責任を感じているのかもしれないな。


 みんなは遺跡の外にいるらしいし、早く顔を見せて安心させてやらないと。


 そうして封印の間をあとにしようとしたところ、通路の向こうから足音が聞こえてきた。


 足音はどんどん大きくなり、


「おおっ、師匠じゃないっすか!」

「ほんとだっ! 戻ってきてたんだねっ!」

「ほら、わしの言った通りじゃろ! アッシュが魔王ごときに負けるわけがないのじゃ!」

「は、はい……ほんとうに無事でなによりですわ……」


 エファとフェルミナさん、モーリスじいちゃんとアイちゃんが現れた。


 きっとノワールさんがなかなか戻ってこないから、心配して様子を見にきたんだろう。パッと見た感じでは、4人の外見に変化はなかった。

 

 まあ10ヶ月だしな。ノワールさんみたいに成長するほうが珍しいのだ。


「おひさしぶりっす、師匠!」

「ああ、ひさしぶりだな!」


 俺にとっては1週間ぶりだけどね。


「あたしのこと覚えてる!?」

「忘れるわけないよ」


 俺にとっては1週間ぶりだからね。


「アッシュよ、目的は果たせたのか?」

「目的は果たせなかったけど、魔王は倒したよ」

「そうですか……」


 アイちゃんはほっとしたような顔をしたあと、深々と頭を下げてきた。


「アッシュさんには、なんてお礼を言ったらいいか……」

「お礼なんていりませんよ。魔王を倒したのは、あくまでついでですからね」

「だとしても、アッシュさんが世界を救ってくださったことに変わりはありませんわ。ですので、なにか欲しいものがありましたら遠慮なく言ってくださいね。どんなものでも用意してみせますから」

「だったら、ご飯が食べたいです」


 今日は(といっても10ヶ月前だけど)朝からなにも食べてないのだ。


 いまが何時かはわからないけど、俺にとっては昼飯時である。


「それでしたら、お父様とコロンおばさまが上で食事の準備をしてますわ」

「ふたりも来てるんですか?」

「フィリップとコロンは、3ヶ月ほど前から遺跡近くの小屋に住んでおるのじゃ」


 こっちに滞在してるってことは、魔法杖ウィザーズロッドは完成したのかな?


 とにかくコロンさんたちが待ってるなら、早く戻ったほうがいいだろう。


 そうして封印の間をあとにした俺は、広々とした通路を歩きながらエファたちと会話をする。


「ふたりとも就職はできたのか?」

「できたっす! わたしは地元の学校の先生になったっすよ!」

「おおっ、おめでとう! ちゃんと体育の先生になれたんだな!」

「はいっす! 荷物は実家に送り届けてるっすから、仕事が始まるまでは師匠と一緒にいたいっす!」

「あたしもアッシュくんと一緒にいたいなっ! 仕事が始まったら、なかなか会えなくなっちゃうもん!」

「フェルミナさんの仕事っていうのは、騎士団だよな?」


 フェルミナさんは力強くうなずいた。


「もちろんだよ! 討伐部隊に所属することは決まったけど、どこに配属されるかはまだわからないかな」

「確か新人研修のあとに決まるんだったよな」

「うんっ! 来月の新人研修がいまから楽しみだよ!」


 新人研修にはメルニアさんに誘われて参加したことがある。


 あれから1年近く経ったんだな……。


 ようやく実感が湧いてきた。


「もちろん理想は北方討伐部隊だよっ! お父さんが副団長だし、メルニア様が団長だし、それにネムネシアも管轄区だもん!」

「卒業してからも一緒に遊びたいっすからね! フェルミナさんが近くにいてくれたら妹たちも喜ぶっすよ!」

「うんっ! とにかく討伐部隊に所属できて一安心だよっ!」


 俺がいない間に、ふたりは夢を叶えていた。


 俺は魔法使いになれなかったけど……でも、羨ましいとは思わない。


 大事な友達の夢が叶って本当によかったと、心からそう思う。




 ほんと……武闘家でよかったよ。




 俺は自然とそんなことを思っていた。



 いままでは武闘家になんてなりたくなかったと思っていた――魔法使いになりたかったと思っていた。



 だけど、いまは違う。



 もし俺がほかのみんなと同じように魔法使いになっていたら、親に捨てられることはなかった。



 モーリスじいちゃんと出会うこともなかったし、身体なんて鍛えようとも思わなかっただろう。



 そうしたらノワールさんをゴーレムから救うこともできなかったし……アイちゃんの言う通り、この世界は魔王によって滅ぼされていたはずだ。



 俺は魔法使いになることができなかった。



 だけど、そのおかげで大事なひとたちと出会い、守ることができたのだ。



 魔法使いになりたいと本気で思い続けてきたけど……



 いまは魔法使いじゃなくてよかったと本気で思っている。



 武闘家でよかったと、心の底から思っている。




「……光ってるわ」




 そんなことを考えながら遺跡の階段を上っていると、うしろを歩いていたノワールさんがぼそっとつぶやいた。


 振り向くと、ノワールさんは俺のおしりを食い入るように見つめていた。


 そういえば、俺の服は《南の帝王サウス・ロード》の炎によって、ところどころ燃えているのだった。


 ノワールさんにおしりを凝視されるのは普通に恥ずかしいので、俺は両手でおしりを隠した。


 するとノワールさんは顔を上げ、



「光ってたわ」

「なにが?」

「貴方のおしりよ」

「俺のおしりが……光ってた?」



 ちょっと意味がわからない。


 身体を鍛えすぎて、ついに発光能力を手に入れてしまったのか?


 俺が本気でそんなことを思っていると、師匠が顔色を変えた。



「アッシュよ、ちょっとおしりを見せるのじゃ!」



 師匠になら見られたって恥ずかしくない。


 俺は師匠にだけ見えるようにおしりを向けた。



「こ、これは……!」



 師匠が俺のおしりを見て驚いている。



 えっ、俺のおしりってそんなに変なの?



 地味にショックを受けていると、師匠が叫んだ。





魔力斑スティーゲルが浮かんでおるのじゃ!!」


次で本編完結です。

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