世界最強の武闘家です
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突然師匠に『お前は世界最強の武闘家になった』と告げられ、俺はめちゃくちゃ困惑した。
いくら最強だからって、武闘家は嫌だ。
武術は前世で死ぬほどやったし……てか、死ぬまでやったしさ。
だから今世では魔法使いになりたいんだ!
「アッシュの気持ちはよくわかる。わしが拾った当時から、魔法使いになりたいと毎日のように言っておったものな」
「そうだよ! 俺は師匠みたいな大魔法使いになりたいんだ! そのために、毎日死に物狂いで修行してきたんだよ!」
師匠は申し訳なさそうな顔をする。
「それなんじゃが……わし、武闘家じゃよ?」
「は!? 武闘家!? その見た目で!?」
詐欺じゃんか! そんなの詐欺じゃんか!
だって師匠、見るからに魔法使いじゃんか!
「そ、そうだ! ほら、俺が骨折するたびに、師匠は俺が寝てるあいだに万象治癒を――回復魔法を使ってくれたでしょ? あんなにすごい治癒能力のある魔法を使うことができる師匠が、ただの武闘家なわけないよ!」
「わしはそんなもの使っておらんよ?」
「そんなわけないよ! だったらどうして、俺の骨は元通りになってたのさ!」
「それは単にアッシュの自然治癒力が凄まじいだけではないかのぅ」
「自然治癒力!? あれ、ただの自然治癒力だったの!?」
意味がわからない。
たった一晩で骨折が完治する自然治癒力って、なんだよ。
俺の身体は、そこまで人間離れしちゃってたのか?
い、いや、いまは俺の身体のこととかどうでもいい!
俺は地面に転がっている師匠の魔法杖を指さした。
「じゃ、じゃあその杖はなんなのさ!? それ、特注の魔法杖じゃないのかよ!」
「あれはただの杖じゃよ」
紛らわしすぎる!
「一〇〇歩譲って師匠が武闘家だとして――どうして魔法使いのふりをしてたのさ!」
俺が師匠のことを魔法使いだと勘違いしていたのは……まあ、俺の責任だ。
けど、それならそうと早く言ってほしかった。
魔法使いではなく、武闘家なのだと教えてほしかった!
「言えるわけないじゃろ! わしのことを立派な魔法使いだと信じて過酷な修行に励むアッシュに『わしは本当は武闘家なんです』だなんて言えるわけないじゃろ! わしだって苦しかったんじゃからな! 良心が痛んだんじゃからな! じゃけど、アッシュを世界最強の武闘家に育て上げるために、心を鬼にしておったのじゃ! そしてアッシュは、わしの期待に見事応えてくれた……いや、期待以上に応えてくれたのじゃ。まさかあの魔王を一撃で殺してしまうとはな……。アッシュさえいてくれれば、世界は安泰じゃ! 現に、自覚はないかもしれんが、お前はいましがた世界を救ったのじゃからな!」
興奮気味にまくし立てたあと、師匠は怖々と言った。
「……わしのことが、嫌いになったか?」
「なるわけないよ。俺、師匠のこと大好きだよ」
俺は即答した。
騙された感は拭えないけど、師匠は俺をここまで育ててくれたんだ。
そんな師匠を嫌うなんてできっこない。
その気持ちを伝えると、師匠は胸を押さえて膝をつき、
「良い子すぎるじゃろぉぉぉ……」
しばらくぶつぶつとつぶやいたあと、気を取りなおすように立ち上がった。
俺は師匠に詰め寄り、
「俺に魔法が使えないって話は、本当なの?」
「本当じゃ。まあ、魔法使いより魔法使いっぽいことはできるがな。風刀とか」
「そういうの、いいから」
俺はうんざりして告げる。
風刀とか、そういう話は聞きたくないのだ。
だって、あれは魔法ではないのだから。
俺が魔法だと勘違いしていただけなのだから。
やった! 俺にも魔法が使えたぜ! ……なんて、うかれてた自分が馬鹿みたいだ。
「どうして俺には魔法が使えないの?」
俺はあらためてたずねる。
「通常、人類には一歳から四歳までのあいだに魔力斑という痣がおしりに浮き出るものなのじゃ。この魔力斑が濃ければ濃いほど、優秀な魔法使いになると言われておる。わしはこの魔力斑が限りなく薄くてな。魔法使いの才能がないから、武闘家になる道を選んだのじゃ」
その結果として勇者になれたのだから、師匠の努力は相当なものだったのだろう。
さすがは俺の師匠だ。
俺はますます師匠のことが好きになった。
「その魔力斑っていうのが、俺にはなかったってこと?」
「極々希に……本当に、一〇〇年にひとり生まれるかどうかってくらい希にじゃが、魔力を持たぬ子どもが生まれるのじゃ。あまりこういう話はしたくないが……アッシュが森に捨てられたのも、魔力斑が浮き出なかったからじゃろうな」
異世界ヘクマゴスでは、ありとあらゆるものが魔力によって動いている。
魔力がないと普通の生活は送れないし、まともな仕事にもありつけないのだ。
そんな苦労をさせるくらいなら、いっそのこと殺して楽にしてしまおう――そう、父さんと母さんは考えたのだろう。
もちろん、父さんと母さんだって悩みに悩んだはずだ。俺は可愛がられてきたし、きっと苦しんだに違いない。
そう考えると、魔力斑を持って生まれなかったことを申し訳なく思ってしまう。
一度捨てた子どもに会うのは父さんたちにとってもつらいことかもしれないが、できることならふたりに会いに行き、俺は元気でやっている、捨てたことは恨んでいない、と伝えてあげたい。
「けど師匠。魔力斑のこととか本に書いてなかったよ?」
「当たり前すぎることは、本に書かれぬものなのじゃ。人間は呼吸しなければ死ぬ、などと本に書いてないのと同じじゃ」
「……けど、ぜったいに魔法使いになれないってわけじゃないよね?」
「いや、ぜったいになれ――」
「なれないってわけじゃないよね!?」
「あ、ああ、そうかもしれぬな……」
「だよね!? 魔力斑がなくたって、魔力に目覚めるかもしれないんだ! 死に物狂いで修行すれば、大魔法使いになれるかもしれないんだ!」
俺は自分に言い聞かせるように叫ぶ。
魔力は精神力を鍛えることで増幅する。
そして俺は、精神的にまだまだ未熟な面がある。
より厳しい鍛錬を積むことで、魔力に目覚めるかもしれないのだ!
だけど、これまで通りに鍛錬を積んだだけでは足りないかもしれない。
なにせこの森に魔法使いはいないのだから。
武闘家しかいないのだから……。
立派な魔法使いになるためにも、しっかりとした施設で教育を受けたほうがいい。そうすれば魔力獲得のアドバイスとかもらえるかもしれないしさ。
それにひょっとすると、俺と似た境遇の奴もいるかもしれないしな。
××年にひとりって、探せば意外と見つかるものだしさ。
「師匠! 俺、学校に通いたい! 魔法使いの学校に通いたいんだ!」
「……魔法が使えないのにか?」
「逆だよ! 使えるようになるために通うんだ!」
「……お前の辞書に『諦める』の文字はないのじゃな」
師匠は感心したように言う。
俺だって、どうでもいいことならすぐにでも諦めていたかもしれない。
だけど、『魔法を使う』というのは前世からの夢なのだ。
そう簡単に諦めてたまるものか。
「いいじゃろう。これまでお前を騙しておった、せめてもの罪滅ぼしじゃ。わしの知る限りで最高の魔法学院を紹介してやるのじゃ」
「ほんとに!? ありがとう師匠!」
「じゃが、無事に入学できるかどうかはお前しだいじゃぞ。ただでさえ入学するのが難しい魔法学院――王立エルシュタット魔法学院に、魔力のない人間が合格したという前例はないのじゃからな」
「何事にもはじめてはあるよ! 俺が初の合格者になってやる! そして魔力斑がなくても魔法が使えるってことを世の中に知らしめるんだ! だって、そうすればもう俺みたいに魔力がないからって捨てられる子どもはいなくなるはずだからね!」
「良い子すぎるじゃろぉぉぉ……」
なぜか泣き崩れる師匠であった。