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ボスラッシュです

『くっくっく。貴様は誰だ?』




 パァァァァァン!!!!




 俺はさっそく正拳突きで《闇の帝王ダーク・ロード》の頭蓋骨を粉砕した。


 試練の間の1秒が現実世界の1日に相当するため、のんきにしゃべっている余裕はないのだ。


 すでに現実世界では2週間くらい経ってるわけだしな。


 さっさと《魔の帝王デビル・ロード》と激闘を繰り広げて精神的な成長を遂げ、魔法使いとして現実世界に戻らないと。


 じゃないと時代が変わってしまう。


「さあ、次の魔王は誰だ!」


 真っ暗な空間に問いかけると、《闇の帝王》の亡骸が淡い光に包まれた。


 光の粒子となり、消滅していく。


 ここはあの世とこの世の境目にあるらしいし、きっと《闇の帝王》はあの世へ向かうのだろう。


「転生するなら、今度は善人に生まれ変われよな……っと、新たな魔王のお出ましか?」


 さっきまで《闇の帝王》が転がっていた場所に魔法陣が浮かび、新たなガイコツが出現した。


 マントの色的に、こいつは――




『さあ――土の時代の幕開けだ!!』




 パァァァァン!!!!



 やはり《土の帝王アース・ロード》だったか。


 土のない環境でどんな戦法を見せるのか気になったけど、じっくり戦う余裕はないのだ。


「同じ世界に転生して、俺のことを覚えていたら――そのときは、じっくり戦おうな」


 まあ、前世の記憶を持つひとに魔力斑スティーゲルは浮かばないんだけどな。


 もっとも、努力次第で魔法使いになれることを、これから俺が証明するわけだけど。


「さあ、次はどの魔王だ!」


 俺が叫ぶのとタイミングを同じくして、《土の帝王》の亡骸が完全に消滅する。


 次の瞬間魔法陣が浮かび、新たなガイコツが現れた。




『――《追体験リライブ》!!』




 そして粉々に弾け飛んだ。


 マントの色を確認する暇もなかったけど……死因的に《光の帝王ライト・ロード》だよな?


 きっと死の直前の記憶は、粉々になったショックで失われるのだろう。じゃないと学習能力がなさすぎる。


「転生したら、地道に修行して強くなろうな」


 とにかく、これで3体の魔王を倒したことになる。


 どうやら『強い順』ではなく『俺が倒した順』に登場するっぽいし、となると次はあの魔王か……。


 俺の予想した通り、新たなガイコツは緑のマントを羽織っていた。


 お化け屋敷でそうとも知らずに倒してしまった《風の帝王ウィンド・ロード》である。




『サテ、ドウヤッテ殺ソウカ』




 パァァァァァン!!!!



 考える時間は与えない。


 正拳突きによって歪な形になった《風の帝王》は、その場に崩れ落ちた。


「来世では、もっと有意義なことを考えような」


 けっきょく《風の帝王》の戦闘スタイルを確かめることはできなかったけど、悔いはない。


 なにせ《魔の帝王》は世界最強なわけだしな! 


 世界最強というからには《風の帝王》より遙かに強いに決まっているし、《魔の帝王》との戦いに時間を割いたほうが有意義だ。


 そうして4体の魔王を撃破した俺は、次なる魔王の登場を待つ。


 俺の予想では《炎の帝王ファイア・ロード》か《水の帝王アクア・ロード》だったけど、魔法陣から現れたのはそのどちらでもなかった。




『我が名は《虹の帝王レインボー・ロード》!!』




 パァァァァン!!!!



 正々堂々真正面から顔面に正拳突きを放ち、これを撃破する。


 まさか合体したまま現れるとは思わなかったけど……生前に合体したことで魂も一つになったのだろう。


 おかげで時間が短縮できたし、俺としては万々歳である。


「来世では七色になれるといいな」


 試練の間に来て何分経ったかはわからないけど、倒した魔王は5体目だ。


 いまのところ順調に進んでるし、このペースならすぐに《魔の帝王》のもとへたどりつけるだろう。


 とはいえ《魔の帝王》との戦いに時間を割きすぎると知り合いがいなくなるので、一撃で倒すつもりで勝負を挑むことにする。


 まあ《魔の帝王》は世界最強なわけだし、さすがにワンパンで死ぬなんてことはありえないけどね。


 とにかく。




『我は世界最硬の異名を――』




 スパァァァァァン!!!!



 とにかくいまは全速力で残りの魔王を片づけよう。


「……にしても、《風刀カマイタチ》で真っ二つになるのか」


 前回は自滅したので、俺の攻撃が世界最硬に通じるかどうか確かめることはできなかった。


 ひょっとしたら《北の帝王ノース・ロード》には通じないかもと思ったけど……俺の風刀に切り裂けないものはないってことか。


「まあ《魔の帝王》には通じないかもしれないけどな」


 むしろ通じないでほしい。


 世界最強というくらいだし、防御力も最強なのだろう。


 油断できる相手ではないし、最初から全力で攻撃しないとな。




『ホッホッホ』




 パァァァァン!!!!



 不敵に笑いながら現れた世界最熱の魔王こと《南の帝王サウス・ロード》を、俺は拳で撃破した。


 燃えるかもしれないという恐怖心に打ち勝つことで、精神的に成長する――


 前回はくしゃみで倒してしまったため、今回は拳で立ち向かってみることにしたのだ。


 もっとも、くしゃみで消えるような炎に恐怖なんて感じるわけがないし、精神的に成長したとも思えないけど。


 とにかく、これで7体目だ。


 あと1体倒したら、ついに《魔の帝王》との死闘が幕を開ける!


 夢にまで見た命懸けのバトルが間近に迫り、わくわくが止まらない。



 パァァァァン!!!!



 魔法陣から現れた《西の帝王ウエスト・ロード》を瞬時に撃破した俺は、ぐっと拳を握りしめた。



「さあ――出てこい《魔の帝王》!」



 どきどきしつつ呼びかけると、どこからともなく怪しい笑い声が聞こえてきた。



『ククク……。想像以上の早さだ! まさかここまでやるとは思わなかったぞ! ククク! こうなっては認めざるを得まい! 貴様は真の強者だ! 我がじきじきに戦うに値するニンゲンだ! よかろう、貴様の望み通り――我が相手になってやる!!』



 真っ暗な空間に、ひときわ大きな魔法陣が広がった。


 そしてそこから――




 ホワイトドラゴンが現れた。




 サイズ的には12歳のときに倒したレッドドラゴンと同じくらいだけど、強さは比較にならないだろう。


 なにせこいつは世界最強なのだから!


「お前が世界最強の魔王――《魔の帝王》だな!?」


 

『いかにも! 我こそが世界最強にして唯一無二の魔王――《魔の帝王》だ! 我の姿を目にできたことを光栄に思うがよい、ニンゲンよ! そして――』



「ご託はいい! それよりさっさと戦おうぜ!」



 魔王の長台詞は聞き飽きた。


 俺は早く戦いたくてウズウズしているのだ。


 しゃべっている隙を突いて殴ろうかとも思ったけど……不意打ちではなく、正々堂々立ち向かったほうが精神的に成長できるはずだ。



『ククク……! 死に急ぐか、強者よ! ニンゲンの一生は短いのだ、どうせすぐに死ぬとはいえ、なにも生き急ぐことはあるまい! だが、貴様が死を望むというのであれば、我も遠慮なく行かせてもらう! なにせ貴様は、我の強さを遺憾なく発揮できる唯一にして無二の存在なのだからな! もっとも――』



「いいから! そういうの、もういいから! しゃべるのはあとにして、早く戦おうぜ!」



『ククク……フハ、フハハハハ!! 愉快! 実に愉快だ! これほどまでに愉快な気持ちになったのはいつ以来だろうかッ! そこまで我との勝負を渇望するとは! まさに真の強者と呼ぶに相応しい勇敢ぶりだ! だが、同時に愚かでもある! 貴様は知らぬのだ、世界には――』



「だからいいって! 俺と戦うために試練を受けさせたんだろ!? ほら、俺もう試練クリアしたからさ! だから早く戦おうぜ!」



『フハハハハ!! だから貴様は愚かだと言うのだ! 試練を突破しただけでいい気になりおって!! 試練などほんの小手調べに過ぎぬ! あの程度、突破できて当たり前なのだ! これより貴様は知ることになる! いままでの相手がいかに弱かったかを! これから戦う相手がいかに強いかを! なぜなら――』




「いいから早く戦えよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」




 スパァァァァァァァァァァァン!!!!!!




 世界最強が真っ二つになった。




「な゛ん゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!」




 おまっ、ふざけんなよ!?


 俺が! どんだけ! 期待したと思ってんだ!!


 100歩譲って! 100歩譲ってワンパンで死ぬならわかるけど!


 俺、手招きしただけだよ! 


 確かに全力の手招きだったけど、《風刀カマイタチ》で死ぬなよ!


 そういうの見飽きたよ!!



 キィィィィィィィン!!!!



 《魔の帝王》の亡骸を前に呆然としていると、真っ暗な空間に亀裂が走った。


 亀裂はみるみるうちに広がっていき、そこから光が差しこんでくる。


 次の瞬間、ガラスが割れるような音とともに空間が砕け散り――





 気づいたとき、俺は封印の間に立っていた。





 どうやら本当に世界最強を倒してしまったらしい。


 正直なところ、めちゃくちゃショックだけど……落ちこんでたってなにも始まらない。気持ちを切り替えないとな!


 立ち直ることで、精神的に成長できるかもしれないしな!


 ポジティブに考えることにした俺は、空洞内を見まわした。


 ノワールさんたちは……さすがにいないか。


 きっとエルシュタットに戻ったのだろう。


 ひとまずランジェの町で服を買って、それからエルシュタットに帰るとするか。


 そうと決めた俺は封印の間から出ようとして――足音が近づいてきていることに気がついた。


 1人分の足音だ。


 走っているのだろう、足音はみるみるうちに大きくなり、女のひとが空洞に駆けこんできた。


 ノワールさんにそっくりだけど……でも、ノワールさんより髪は長いし、背も高い。


 ノワールさんに姉妹がいるなんて話は聞いたことがないけど……『ノワールさんのお姉さん』という表現がぴったりな女性だ。


「……ノワールさん?」


 おそるおそるたずねると、女のひとは首を横に振った。



「ノワールは、私のご先祖様だわ」



「……え」


 ご先祖様って……まさか、あれから300年くらい経ったのか!?


 そんなに時間はかからなかったと思うけど……《魔の帝王》が無駄にしゃべってたからなぁ。


「ほ、ほんとにノワールさんじゃないの!?」


 詰め寄って問いかけると、



「ほんとはノワールよ。……深刻そうな顔をしてたから、なごませようとしただけよ」



 ノワールさんは慌てた様子でそう言った。


 どうやら冗談だったようだ。


「心臓が止まるかと思ったよ……」


 とはいえノワールさんの成長を見るに、かなりの日数が経っているのは確かだ。


 髪は伸びてるし、背も伸びてるし、胸は……そうでもないけど、とにかく成長しているのは間違いない。


 聞くのは怖いけど、聞かないわけにはいかないよな。


 俺はドキドキしつつ、ノワールさんに質問をぶつけるのだった。


 

「それで……あれから何年経ったんだ?」




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