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実在しました

 エルシュタットをあとにして1週間――。


「ついに到着じゃな!」


 飛空艇と列車を乗り継ぎ、俺たちは最東端の町ランジェにたどりついた。


 ランジェは落ち着いた雰囲気の町だった。


 山のふもとに築50年くらいありそうな家々が建ち並んでいて、そこかしこに田畑が広がっている。


「遺跡はあの山の向こうにあるんじゃったよな?」

「うん。遺跡まであと5㎞ってところだよ」

「このまま直行するのかしら?」

「そのつもりだけど……疲れてるなら明日でもいいよ」

 

 ノワールさんの地図によると、魔王は遺跡から動いてないし、封印は解けていないはずだ。


 遺跡に石碑があると思うといてもたってもいられないけど、1日くらいなら休憩しても問題ない。


 ノワールさんが疲労で石碑を読み間違えでもしたら大変だしな。


「疲れてないわ。だけど、出発する前に聞いておきたいことがあるわ」

「聞いておきたいこと……?」


 って、なんだろ?


「魔力を手に入れたら、貴方はどうするのかしら?」

「もちろん大魔法使いになるために修行するよ!」


 修行に修行を重ね、魔力を高め、いつかアニメキャラクターみたいにど派手な魔法を使いこなせるようになる。


 それが前世の頃からの夢で、魔法使いになったあとの目標だ。


 そのためにはガンガン魔法を使って、魔法を使うコツを身につけないとな!


「アッシュがすぐに修行を開始できるように、わしらも早く魔法杖ウィザーズロッドを完成させるのじゃ!」

「俺も完成が楽しみだよ! でも無理のないペースでいいからね」


 できれば師匠たちには俺のことではなく、自分たちのことに余生を使ってほしい。


 師匠たちはこれまでの人生を魔王討伐に費やしたのだ。


 この先に控える魔王を倒せば、師匠たちの努力は報われる。


 俺のために時間を割いてくれる気持ちは嬉しいけど、自分たちのやりたいことをやってくれたほうがもっと嬉しい。


 ……でも、そんなことを言うと師匠たちはがっかりしてしまうかもしれないので、心に留めておく。


「修行って、具体的にはなにをするのかしら?」

「世界中を旅して、いろんな魔法使いと話をして、そして……いろんな魔物と戦うよ」


 まずは地図に表示されていた赤点のひとたちに会ってみようと思っている。


 ノワールさんより強いってことは、かなり優秀な魔法使いってことだからな。


 きっとためになる話が聞けるだろう。


「いろんな魔物と戦うということは、卒業後は魔法騎士団に所属するのかしら?」

「いや、所属はしないよ」


 メルニアさんに勧誘されたけど……みんなが期待しているのは武闘家としての俺だ。


 だけど、俺は魔法を使いたいんだ。


 それに定職に就いたら、旅ができなくなるしな。


 だから俺は定職に就かず、自由気ままに暮らしたいのである!


「要するに、卒業後は冒険家になるってことさ」


 キュールさんも冒険家として生計を立ててるし、きっとなんとかなるだろ。


 お金もけっこう貯まってるしな。


「その冒険、私もついていきたいわ。……だって、私にはなにもないもの」

「なにもない?」


 ノワールさんはうなずいた。


「エファには家族がいるわ。フェルミナには夢があるわ。だけど、私には貴方と『外カリッ、中もふっ♪ もっちりもちもちほっぺがとろける夢のめろめろメロンパン』しかないわ」


 ……なるほどね。


 ノワールさんには俺とメロンパンしかない。


 つまり卒業と同時に、どちらも失ってしまう――なにもなくなってしまうってことか。


 メロンパンなんてそこらの店で売ってるけど……ノワールさんにとって特別なのは購買限定販売の『外カリッ、中もふっ♪ もっちりもちもちほっぺがとろける夢のめろめろメロンパン』だけなのだ。


「……製造工場で働くとか、どうかな?」

「それも考えたことがあるわ」


 ああ、考えたことはあるんだ。


「だけど、熟考の末に諦めたわ。パン工場で働くと、貴方に会えなくなるもの」

「ノワールさん……」


 ノワールさんは、メロンパンを捨ててまで俺を選んでくれた。


 だったら、断るわけにはいかないな。


「俺と来ても退屈かもしれないけど、それでもいいなら大歓迎だよ」


 一人旅より二人旅のほうが楽しいしな。


「退屈ではないわ。だって、貴方といると楽しいもの」

「決まりだね。そうと決まれば、なんとしてでも魔力を手に入れないとな! そして大魔法使いになるんだ!」

「私はちゃんと卒業できるように勉強するわ」


 そうして決意表明をした俺たちは、遺跡へと向かって歩きだしたのだった。



     ◆



 ランジェをあとにして3時間。

 

 ノワールさんの地図を頼りに山を越え、草原を歩いた俺たちは、地下遺跡へと続く階段を発見した。


「いよいよ、最後の遺跡か……」


 いままではテンションが上がったけど、今回は発見の喜びより緊張感のほうが強い。


 この遺跡で魔力が手に入らなかったら、ふりだしに戻ってしまうのだ。


 だけど、いつまでも緊張しているわけにはいかない。


 俺はランプを手にして階段を降り、通路に出る。


 西の遺跡では壁に石碑が埋まっていたので、見落とさないように注意しながら歩いていく。


 ……けっきょくなにも見つからないまま、通路の最深部にたどりついた。


 相変わらず、壁にはびっしりと解読不能の文字が刻まれている。


「読むわ」


 そう言って、ノワールさんはじっと石碑を見つめる。



「……ここにいる魔王は、世界最強だわ」



 ややあって、ノワールさんはつぶやいた。


「世界最強? それって、世界最硬とか世界最速みたいな意味で?」


 これまでの魔王は世界最硬や世界最速などの異名を持っていた。つまり今回の魔王は、世界最強という異名を持っているのだ。


 いままでの魔王は『世界最速こそが世界最強だ!』みたいな言い方をしてたけど……今回の魔王は純粋に強いってことなのかな?


 これは期待が高まる。


 あまり考えたくはないけど……もしこの石碑に魔力獲得に関する手がかりが記されていなかったとしても、強敵に立ち向かうことで精神的な成長を遂げ、魔力斑スティーゲルが宿るかもしれないのだ。


 正直魔王には期待していなかっただけに、魔力獲得のチャンスが増えた気分だった。


 とはいえ、石碑に手がかりが記されているなら、それに越したことはないんだけど。


「ほかにはなんて書いてある?」



「……いままでの魔王が《伝説の魔物レジェンドモンスター》なら、ここにいる魔王は《伝説の伝説の魔物ハイパーレジェンドモンスター》だと書いてあるわ」



「「……実在したのか」」


 俺と師匠がハモると、ノワールさんは不思議そうに首を傾げたのだった。


評価、感想、ブックマークありがとうございます。

これですべての前振りを回収できたのでは、と思います。

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