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上手く解釈してくれます

「さあ、ここでありますよアッシュ殿!」


 メルニアさんに案内されたのはドーム状の建物だった。


 内装は学院の闘技場に似ている。


 広場のまわりを客席が取り囲み、そこに100人以上の研修生がいた。


 来年の今頃は、フェルミナさんもあの席に座ってるんだろうな。


「あれってアッシュさん?」

「うわあっ、本物だ!」

「わざわざ来てくれたんだ!」


 研修生が俺を見て口々にそんなことを言う。


「アッシュ殿はここで待つでありますよ」


 俺を広場の中央に残し、メルニアさんは客席に上がった。



『お待たせしたでありますね! 新人研修・夜の部を始めるであります! 夜の部ではアッシュ殿に協力してもらって、魔物を倒すコツについて学ぶであります!』



 メルニアさんが拡声魔法ボイスアッパーを使って言うと、大きな拍手が巻き起こった。


 期待に応えられるといいんだけど……俺、武闘家だしなぁ。


 魔法使いの研修生とは、戦闘スタイルが全然違う。


 魔物を倒すのは簡単だけど、コツを教えるとなると難しそうだ。


『これからアッシュ殿には、魔法で生み出された魔物と戦ってもらうであります! 我々はアッシュ殿がどういうふうに魔物を倒すか、よ~く観察するでありますよ!』


 俺に視線が集まる。


『ではケット殿、お願いするであります!』


 客席に座っていたモーリスじいちゃんと同い年くらいの女性――ケットさんが魔法杖ウィザーズロッドを振るった。


 闘技場の土がぼこぼこと盛り上がり、100体くらいのゴブリンが生み出される。


 これって、見た目だけじゃなくて力も再現してるのかな?

 

 ゴブリンは魔物のなかでも弱いほうだけど、100体以上生み出すとなるとかなりの魔力が必要だ。


 それでもケットさんに疲れた様子はないし、きっと優秀な魔法使いなんだろう。


 大魔法使いと間接的に戦えるなんて……これは俺にとってもいい経験になりそうだ。


『まずはゴブリンの群れと戦ってもらうであります! 1体1体は弱いでありますが、ゴブリンは集団で襲ってくるでありますからね! この数に襲われると厄介でありますよ!』


 ゴブリンの群れが俺を取り囲む。


 その手には、土で作られた剣や棍棒が握られていた。


『ではアッシュ殿、ゴブリン退治のコツを見せてほしいであります!』


 それを合図に、ゴブリンが一斉に襲いかかってきた。


 俺は両腕を水平に広げて、コマのように回転する。


 スパァァァン!!!!


 すべてのゴブリンが真っ二つになり、土に還った。


 い、いまのでよかったかな……?


 どきどきしつつ客席を見上げると、みんなぽかんと口を開けていた。


『なるほど! つまりアッシュ殿は《ゴブリンには個別攻撃ではなく広範囲攻撃が効果的》と言いたいのでありますね!』


 メルニアさんが深読みしてきた。


『確かに数の多さに惑わされそうになるでありますが、1体1体は弱いでありますからね! アッシュ殿のように一撃で全滅させることはできなくても、傷を負わせることができれば動きがにぶくなるであります!』 


 メルニアさんの上手な解釈に、研修生も「広範囲攻撃のあとに個別攻撃をすればいいのか」と納得した様子だ。


『さあ、ケット殿。次の魔物をお願いするであります!』


 ケットさんが魔法杖を振るうと、土の山が一つにまとまり、一つ目の巨人が生み出された。


 あれは……サイクロプスか。


『ゴブリンと違って、サイクロプスは単独行動を主とするであります! だけど1体だからって油断は禁物でありますよ? 身体能力はゴブリンを超越してるでありますからね!』


 サイクロプスの単眼が俺を捉える。


『ではアッシュ殿、サイクロプス退治のコツを見せてほしいであります!』


 パァァァァァン!!!!


 一瞬で間合いを詰めた俺は顔面に拳を叩きこむ。


 サイクロプスは土に還った。


『なるほど! つまりアッシュ殿は《サイクロプスの弱点は目だ》と言いたいのでありますね! 確かにどれだけ身体能力が優れていようと、目が見えなければ恐れることはないであります! 直視するのはちょっと怖いでありますが……あれだけ大きな目なら、狙うのも難しくないでありますね!』


 メルニアさんの上手な説明に、研修生は感心したようにうなずいている。


『さあ、それでは最後であります! 最後は――』


 ケットさんが魔法杖を振るうと、土がドラゴンの形になった。


 研修生が悲鳴を上げる。


『そう。最後は見てわかる通り、レッドドラゴンでありますよ!』


 土の色だけど、レッドドラゴンらしい。


『さすがに強さを完全再現することはできないでありますが、ケット殿には全魔力を振り絞って生み出してもらったであります! 私でも、倒すのは難しいでありますよ!』


 レッドドラゴンが威嚇するように翼を広げ、俺を見下ろす。


『ではアッシュ殿! レッドドラゴン退治のコツを見せてほしいであります!』


 俺はアッパーでレッドドラゴンの頭を吹き飛ばした。


『なるほど! つまりアッシュ殿は《脳しんとうを狙え》と言いたいのでありますね! 鱗を貫くことはできなくても、脳を揺らすことはできるであります! そうして気絶させれば、反撃されることなく攻撃できるであります!』


 メルニアさんの解釈力すげえ!


 俺にそんな意図はなかったけど、言われてみれば納得だ。


 俺が感心していると、メルニアさんが広場に降りてきた。


 最後って言ってたし、いまので俺の仕事は終わったようだ。


「お疲れ様であります。研修生のためにと思っていたでありますが、私も勉強になったでありますよ」

「俺もいい運動になりました。あんなのでよければいつでも協力しますので、ぜひまた呼んでください」

「そう言ってもらえると嬉しいでありますっ。ただ、できれば次は研修生として参加してほしいでありますよ。卒業後は、ぜひ騎士団に来てほしいであります」


 そういえば、卒業まであと1年を切ってるんだったな。


 フェルミナさんやエファはやりたいことが決まってるけど、俺には特にない。


 魔法使いになったあと、俺はなにをすればいいのだろうか。


 ……まあ、それは魔法使いになってから考えればいいか。


「卒業後のことは、卒業してから考えてみようと思います」

「そうでありますか。では、またアッシュ殿に会える日を楽しみに待ってるであります!」


 そうしてメルニアさんと研修生に見送られ、俺は宿に戻るのだった。

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