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衝撃波に気をつけます

「魔王が穴掘って逃げたのじゃ!」


 師匠の声が封印の間に響いた。


 すでに封印は解けていたのか、魔王が壁に穴を掘って逃げたのだ。


 ノワールさんを狙ってると思ってたけど、今回の魔王は復讐に興味がないのだろうか。


「は、早く追いかけないと魔王に逃げられてしまうわ」

「地上で待ち伏せし、出てきたところをアッシュに殴ってもらうのじゃ!」

「卑怯かもしれないけど、それが確実な方法だね。いますぐ通路を引き返そう」

「さあ、行くぞアッシュよ!」


 俺は天井を指さした。


「俺、天井を突き破るよ」

「貴方ならそう言うと思ったわ」


 ノワールさんが落ち着き払って言うと、師匠たちは顔を見合わせた。


「ち、地上まで100メートル以上あるけど……アッシュくんなら、頭突きで貫通できそうね」

「じゃが、わしらがまねしてもたんこぶができるだけじゃ!」

「私たちは普通に通路から出よう!」


 師匠たちが空洞から走り去ったのを確認し、俺はジャンプした。


 ズボボッ!!!!


 一直線に土を貫いて外に出ると、15メートルくらい向こうで土が盛り上がった。


 土のなかから現れたのは、大きなトラだった。


「お前――魔王か?」


 瞬きしている間に消えるかもしれないので、目を見開いたままトラに問いかける。


「ホゥ! 吾輩を知っておるのか! いかにも、世界最速の異名を持つ《西の帝王ウエスト・ロード》とは吾輩のことだ!! そういう貴様は――あの忌々しい小娘の仲間か?」


 忌々しい小娘ってノワールさんのことだよな。


 穴を掘って逃げようとしたんだと思ってたけど、魔王は地上で戦うつもりだったのかな?


 まあ、確かにあの空洞じゃせっかくのスピードが活かせないもんな。


「仲間だ」

「フハハハハ! そうか仲間か! では貴様を八つ裂きにすれば、あの小娘はさぞかし絶望するのだろうなぁ! そして貴様を八つ裂きにしたあとは、ゆっくりと、じっくりと、あの小娘を痛めつけてやる! 吾輩が受けた2000年の苦しみを、あの小娘にも味わわせてやるのだ!!」


 魔王はガチガチと牙を鳴らす。


「まずは貴様から八つ裂きにしてくれる! だが、ただ八つ裂きにしたのでは面白くない。吾輩は狩りが大好きでなぁ。吾輩に追いつかれ、かみ砕かれる瞬間に見せるあの表情がたまらぬのだ! さあ――ニンゲンよ、死にたくなければ逃げまわるがよい! 狩りの時間の幕開け――」



「アッシュよ! 無事じゃったか!!」



 師匠の声が降ってきた。


 見上げると、師匠たちは空に浮いていた。


 フィリップ学院長に魔法をかけてもらったのだろう。


「アッシュよ! 早く魔王を倒すのじゃ! 世界最硬の魔王を倒したアッシュなら、そいつを倒すことくらい朝飯前じゃろ!」


 空を見上げていた魔王が、ぎょろりと俺を見る。


「ホゥ。貴様、あの《北の帝王ノース・ロード》を葬ったのか」


「その通りじゃ! しかもアッシュは《南の帝王サウス・ロード》も倒しておるのじゃ! 次はお前の番じゃ!」


「フハハハハ! 吾輩をほかの魔王と同列に考えているのであれば、やはりニンゲンは愚かだと言わざるを得んな! 吾輩は世界最速――何人たりとも吾輩に触れることはできぬのだ! あの《北の帝王》を倒したということは攻撃力に自信があるのだろうが、世界最速の前には無力に等しい!!」


「世界最速を名乗るのは、俺とスピード勝負をしてからにしろ!」


「スピード勝負じゃと!? なにを言っておるのじゃ! そいつは世界最速なのじゃぞ!? いくらアッシュでも、速さで競うのは分が悪いのじゃ!」


 俺は師匠を見上げる。


「だからこそ、俺はスピード勝負がしたいんだ。そうしないと、魔法使いになれないんだよ」


 俺は死に物狂いで修行した結果、世界最強の武闘家になれた。


 魔王を一撃で倒せるくらい強くなれたのだ。


 だけど、俺がなりたかったのは魔法使いだ。


 魔力獲得の手がかりが見つからなかった以上、精神を鍛えて魔力を手に入れるしかない。


 でも、たぶんこいつはワンパンで死ぬ。


 世界最硬の魔王であの脆さだったのだ、こいつは触っただけで粉々になるかもしれない。


 そんな魔王をワンパンで倒したって、精神力を鍛えることはできないのだ。



 だけど――スピード勝負ならどうだろうか?



 世界最速とスピードで競えば、師匠の言うように俺は負けるかもしれない。


 つまり不利な勝負に挑むことで、俺は精神的に成長できるというわけだ。


「スピード勝負の最中に、行方をくらますかもしれぬのじゃぞ!? お、お前たちも黙ってないでアッシュを説得するのじゃ!」

「私はアッシュを信じるわ」


 ノワールさんの言葉に、フィリップ学院長はうなずいた。


「ノワールくんの言う通りさ。私の知っているアッシュくんに、不可能はないよ」

「そ、そうね。私の知っているアッシュくんは、魔法を使うこと以外はなんでもできるわ。スピードで魔王に勝つことだってできるはずよ」


 フィリップ学院長とコロンさんの言葉を受け、師匠はぺちっと頬を叩く。


「まったく。わしとしたことが、どうしていつも肝心なときに弟子を信じてやれぬのじゃ……。アッシュの凄さは、わしが一番わかっておるというのに……」


 師匠が真剣な眼差しで俺を見下ろしてきた。


「確かに《西の帝王》は世界最速じゃったのかもしれん! じゃが、それはずっと昔の話じゃ! さあ――アッシュよ! 魔王に現代っ子の足の速さを見せつけてやるのじゃ!!」


「任せてよ!」


 俺は力強くうなずき、魔王を見据える。


「さあ、勝負だ魔王!」

「フハハハハ! 吾輩にスピード勝負を挑んだ愚かなニンゲンは、さすがに貴様がはじめてだ! いいだろう! 2000年間封印され、身体がなまっておったところだ! 全人類を八つ裂きにする準備運動にちょうどいい!!」


 魔王が俺の足もとを見る。


「ニンゲンよ! そこの石を空に投げるのだ! それが地面に落ちた瞬間、スピード勝負の幕開けだ!」


 俺は拳サイズの石を拾い上げ、500メートルくらい向こうにある樹を指さした。


「ゴールは……あの樹でいいな?」

「よかろう! 一瞬で決着をつけてくれるわ!」


 魔王は自信たっぷりに叫び、俺のとなりに移動する。


「俺から離れたほうがいいぞ。衝撃波で死ぬかもしれないからな」

「それはありえぬ! なぜなら吾輩は世界最速! 貴様が一歩踏み出す前に、吾輩はゴールしておるわ!!」


 魔王は聞く耳持たない。


 衝撃波が発生しないように、気をつけてスタートしないとな。


 石を投げた俺は、クラウチングスタートの構えを取る。



「くくくっ! 愚かなニンゲンよ、光栄に思うがよい! 貴様は世界最速の走りをその目で見ることができるのだからな! もっとも、ニンゲン如きに吾輩の動きを捉えることはできぬだろうがなぁ! だからといって吾輩は手加減などせぬ! なぜなら世界最速はいかなるときでも最速でなければならぬのだ! フハハハハ! 貴様はすぐに理解することになるだろう! 世界最速の速さを! 世界最速の怖ろしさを! 世界最速に勝負を挑んだ自身の愚かさを! この世には、けっして敵にまわしてはならぬ――」



 パァァァァァァン!!!!!!



 となりですごい音がした。



 振り向くと、魔王は死んでいた。


 石が隕石の如く落下して、魔王の頭を貫いたのだろう。


 やけに長々としゃべるなぁと思ってたけど……ちょっと高く投げすぎたらしい。


「びっくりしたわ」


 ノワールさんの言葉に、俺は心から同意するのだった。

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