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トラップは通用しません

 翌日の昼下がり。


 ムルンの町をあとにした俺たちは、山の向こうにある平原にやってきていた。


「こ、ここから地下遺跡への入口を探すのは骨が折れそうだわ」

「ノワールさんの地図があれば、おおよその場所はわかりますよ」


 地下遺跡への入口は、魔王を示す赤点の近くにあるはずだ。


「それで、ノワールちゃん。わしらはどっちへ行けばいいのじゃ?」

「……あっちよ」


 俺たちはノワールさんの指し示したほうへ向かう。


 10分くらい歩いたところで、地下遺跡へと続く階段を見つけた。


「このなかに石碑があるよ! 早く行こう!」


 やっぱり遺跡が見つかるとテンション上がるなぁ。


 封印が解ける前に石碑を解読してもらい、さっさと魔王を倒してしまおう。


「真っ暗じゃのぅ。フィリップよ、魔法で明かりを灯すのじゃ」

「わかっているさ」


 フィリップ学院長がルーンを完成させると、通路の奥が明るくなった。


 やっぱり魔法っていいなぁ。


 俺も早く魔力を手に入れて、こういうことができるようになりたい!


 いてもたってもいられずに、俺は階段を下りていく。


 長い階段を下りると、広々とした通路に出た。


 北の遺跡と同じく一本道だ。


 300メートルくらい先は行き止まりになっていて、その壁にはびっしりと文字が刻まれていた。


 石碑だ!


「奥は行き止まりになっておるようじゃのぅ」

「あの壁が石碑なんだよ。あそこに文字が書かれてるんだ」

「ここから文字が見えるのかい? 目がいいねぇ……」

「なにせアッシュはわしの弟子じゃからな! アッシュは15㎞先を見通す目を持っておるのじゃ!」

「ど、どういう修行をしたらそうなるのかしら……?」

「とにかく、先を急ぎましょう……って、どうしたのノワールさん?」


 ノワールさんは俺たちとは違う方向をじっと見つめていた。


「……石碑だわ」


 ノワールさんが壁を指さす。


 壁には表札サイズの石碑が埋めこまれていて――


「文字が書いてある!」


 短いが、解読不能の文字が刻まれていたのである!


「な、なんて書いてあるんだ!?」

「……この地図の作り方が書いてあるわ」


 地図の作り方って……強者の居場所を示す魔法のことだよな。


 てことは、キュールさんが一部だけ解読できたのって、この石碑だったのか。


「ほかになにか書いてある?」

「……魔王が逃げたらこの魔法を使うべし、と書いてあるわ」

「逃げたとき?」


 ノワールさんは、こくりとうなずく。



「ここにいる魔王は、世界最速らしいわ」



 なるほどね。


 いままでの魔王は堂々としていたけど、今回の魔王は逃げる可能性がある。


 世界最速ってことは、一度見失ったら見つけるのは難しい。


 だから《氷の帝王アイス・ロード》は強者の居場所を示す魔法を石碑に刻んだのだ。


 なんにせよ、悪口以外の記述が見つかったのは嬉しい。


 ここになら、魔力に関する手がかりも残されているかもしれない。


「ここにはそれしか書いてないわ」

「わかった。あとは向こうの石碑を確かめるだけだね!」


 待ちきれなくなった俺は、さっそく石碑へ向かって歩きだした。


 パリィィィィン!!


 いきなり耳元でなにかが砕ける音がした。


「アッシュ!? 無事か!」


 師匠が慌てて呼びかけてくる。


「いま変な音がしたけど……なにか割れた?」


 俺がたずねると、師匠は足もとを指さした。


 俺の足もとに、粉々になった氷の破片が散らばっていた。


「突然壁から氷柱が飛び出してきたのじゃよ。まあ、砕けてしまったがのぅ」


 俺の頭に命中した瞬間、氷柱は粉々に砕け散ったのだ。


「怪我はして……おらんようじゃな」


 怪我どころか、師匠が教えてくれるまで氷柱が当たったことにすら気づかなかったからな。


 いつもは肌に触れられて気づかないなんてことはないけど……意識を石碑に向けすぎて、氷柱が命中したことに気づかなかったのである。


「アッシュは世界一硬いのよ」

「そのようじゃな。しかし、トラップとは驚いたのぅ。いままでの遺跡もこうじゃったのか?」

「南はわからないけど、北にはトラップなんてなかったよ」

「ここが特別なのかもしれないね。ちょっとキュールに聞いてみるよ」


 フィリップ学院長は懐から携帯電話を取りだした。


「やあ、キュールかい? いまアッシュくんたちと西の遺跡に来ているんだけどね。ここってトラップがあるのかい? ……なるほどね。それじゃあ身体に気をつけるんだよ」


 フィリップ学院長は携帯電話を懐にしまう。


「キュールが以前訪れたときは、トラップなんかなかったらしいよ」

「いまになってトラップ魔法が発動したというわけじゃな」

「ま、まさか魔王の封印が解けつつあるのかしら?」

「かもしれませんね」


 俺はコロンさんの推測に同意する。


 このトラップは復活した魔王をしとめるために用意されたものなのだ。


 キュールさんが来たとき発動しなかったということは、そのときはまだ封印魔法の効力が残っていたということになる。


 逆に言うと、トラップ魔法が発動したということは……


「ノワールさん。もう1回地図を見せてくれない?」

「見せるわ」


 ノワールさんは地図を広げる。


 魔王の居場所は……変わってなかった。


 けど、封印の効力が切れつつある可能性は高い。


「とにかく急ごう!」


 石碑が壊される前に解読してもらわないと!


「じゃ、じゃがトラップがあったのではノワールちゃんが近づけぬのじゃ」

「トラップはすべて俺が引き受けるよ」


 この通路は一本道だ。


 魔王をしとめるチャンスは一度きりだし、永続的にトラップを発動させる必要はない。


 つまりトラップ魔法の効力は一度発動したら消えるのだ!


 そんな予想が正しいかどうか確かめるべく、俺は石碑に向かって前進する。


 パリィィィィン!!!!


 パリィィィィン!!!!


 パリィィィィン!!!!


 パリィィィィン!!!!


 上から下から右から左から氷柱が放たれ、俺に触れた瞬間に砕け散る。


 そうして石碑までたどりついた俺は、来た道を引き返した。


 思った通り、トラップの発動は一度きりだった。


「これで安全だよ」

「身体硬すぎじゃろ」


 俺の身体に驚いている師匠たちと通路を進み、何事もなく石碑にたどりつく。


 あいかわらず、石碑にはびっしりと文字が刻まれていた。



「すべて悪口だったわ」



 あいかわらず、石碑にはびっしりと悪口が書かれていた。


 って、またかよ!


 どんだけ恨んでるんだよ魔王のこと!


 同じ魔王同士仲良くしようよ!


 残る遺跡は一箇所しかないし……こうなったら東の遺跡に期待するしかないな。


「じゃあ壊すよ」


 師匠たちに確認を取り、俺は石碑を殴りつけた。



 ドゴォォォォン!!!!



 石碑が砕け、空洞が現れる。


「……ま、魔王がいないわ」


 コロンさんがきょとんとして言った。


 封印の間に、魔王の姿はなかったのだ。


「……あそこ」


 と、ノワールさんが壁を指さす。


 壁には、ぽっかりと穴があいていた。


 その奥から、ガリガリと掘削音が聞こえてくる。



「魔王が穴掘って逃げたのじゃ!」

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