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勇者一行が仲間に加わりました

 1週間の旅を経て、俺とノワールさんは最西端の町ムルンに到着した。


 ムルンはのどかな田舎町だった。


 町の向こうには土色の塔がそびえ立ち、その向こうには山が佇んでいる。


 遺跡は、あの山を越えた先にあるのだ。


「私はこの町が気に入ったわ」

「俺もだよ。老後はこういうところに住みたいな」

「そうね。だってここは寒くないもの」

「ああ、そういう理由で……」


 とはいえ、過ごしやすい環境であることは確かだ。


「これからどうするのかしら?」

「まずは宿屋に行くよ。そのあと師匠たちを探そう」


 探すといっても、居場所はわかってる。


 ノワールさんの地図によると、町のなかに一つ、塔のところに二つの赤点があったのだ。


 そうと決めた俺たちは町を歩き、ほどなくして古びた宿屋を見つける。


「アッシュさんじゃないですか!」


 宿屋に入った途端、おじさんが駆け寄ってきた。


「泊まりに来たんですけど、部屋って空いてます?」

「空いてますとも! いやぁ、まさかアッシュさんが泊まりに来るとは思いませんでしたよ!」


 おじさんは熱く語りつつ、部屋の鍵を渡してきた。


「ごゆっくり~!」


 おじさんに見送られ、俺たちは二階の部屋へと向かった。


 そしてドアに手をかけたところで、隣室のドアが開く。



「あ、あら、早かったわね」



 おどおどしながら話しかけてきたのは――コロンさんだった。


 口ぶり的に、俺たちが来ることは前もってアイちゃんに聞かされてたんだろう。


 てことは、魔王のことも聞いてるはずだ。


「師匠たちはなにをしてるんですか?」


 俺は軽く挨拶をしたあと、コロンさんにたずねた。


 町にいるのがコロンさんってことは、師匠とフィリップ学院長は塔のところにいるはずだ。


 あんなところで、いったいなにをしてるんだろう。


 俺の質問に、コロンさんはどこか得意気な顔をする。


「あ、あの塔は――魔法杖ウィザーズロッドなのよ」


 ちょっとよくわからなかったので、俺は師匠たちのところへ行ってみることにしたのだった。



     ◆



 部屋に荷物を置いた俺とノワールさんは、コロンさんと一緒に塔へ向かった。


 そこでは、師匠とフィリップ学院長がぺたぺたと塔にタッチしていた。


 よく見ると、塔に土をくっつけているようだ。


「ひさしぶりだね、師匠」


 俺が話しかけると、師匠たちは作業を中断した。


「む? おおっ、アッシュではないか! ひさしぶりじゃなぁ!」

「ふたりとも長旅で疲れたんじゃないかい? ほら、これを飲むといいよ」


 そう言って、フィリップ学院長が飲み物を渡してきた。


 ひとまず喉を潤した俺は、師匠たちにたずねる。


「これが魔法杖っていうのは本当なの?」


 高さ100メートル、幅5メートルはありそうだ。


 いろんな魔法杖のカタログを読んできたけど、さすがにこのサイズの魔法杖はどの本にも載ってなかった。


「うむっ。アッシュの要望通り、『絶対に壊れない魔法杖』を作っておるところなのじゃ!」


 つまり、俺専用の魔法杖ってわけだ。


「俺のために、わざわざこんな大きな魔法杖を作ってくれるなんて……」


 師匠たちの気持ちに、思わず涙腺が緩んでしまう。


「使いにくそうだわ」


 街角アンケートを採れば全員がノワールさんと同じ感想を抱くだろうけど、俺にとっては使い勝手など些細な問題だ。


「完成まであとどれくらいかかりそうなの?」

「さあ、いつになるかのぅ……。わしらも早く完成させたいんじゃが、材料集めに手間取っておるのじゃ」

「でも、これって土だよね? 材料に困ることはないんじゃないの?」

「これは土であって、土ではないのじゃよ。このあたりにはアイアンワームという魔物が棲みついておってな」


 アイアンワームは家くらいなら丸呑みできるサイズの芋虫だと本に書いてあった。


 まあ、アイアンワームは年中地中深くに潜っているので、基本的に害はないんだけどな。


「そのアイアンワームなのじゃが、年に1度だけ地上に姿を見せるのじゃ。といっても、見せるのはおしりの部分だけじゃがな」

「アイアンワームは、排泄行為のためにおしりを出すのさ。その排泄物は、信じられないくらい硬くてね」

「要するに、じゃ。硬すぎる排泄物を集めて、固めて、圧縮し続ければ――『絶対に壊れない魔法杖』のできあがりというわけじゃ」


 そう言って、師匠はため息をつく。


「といっても、アイアンワームの排泄物は貴重でのぅ。そのほとんどは土と混ざりあってしまっておるのじゃ」

「本当は純度100%の排泄物で作りたかったんだけどね。力及ばず、純度60%くらいになってしまったのさ」


 それでも6割はう●こだ。


 とはいえ土の臭いしかしないし、日光を反射してなんだかかっこよく感じるし、これだけ大きければ好きな模様を入れることだってできるはずだ。


 かっこいい模様を彫れば愛着もわくし、そういう意味ではこのサイズでよかったと思える。


「まあ、足りない部分は我々の魔法でカバーするさ」

「アッシュくんが心配することはなにもないのよ」

「すべてわしらに任せるといいのじゃ」


 師匠たちが、優しくほほ笑んでくる。


 この魔法杖には師匠たちの愛が詰まっているのだ!


 そう考えた途端、魔法杖に愛着がわいてきた。


「俺、魔法使いになったら絶対にこれを使うよ!」

「うむっ! わしらは最高品質の魔法杖を作るのでな。アッシュも頑張って魔力を手に入れるのじゃ!」


 俺は力強くうなずいた。


「俺はそのためにここへ来たんだよ。師匠たちは、遺跡について聞いてる?」

「聞いておるのじゃ。そこにいるノワールちゃんが、アッシュの力になってくれておるのじゃろう? 本当にありがとうのぅ」

「アッシュは私を救ってくれたもの。今度は私がアッシュを救うわ」

「ノワールちゃんは良い子じゃのぅ」


 師匠に褒められたノワールさんは、なんだか嬉しそうにしている。


「それで、遺跡にはいつ乗りこむのじゃ?」

「明日だよ」

「では、わしらも同伴しようかのぅ。ひょっとしたら、アッシュが魔法使いになる瞬間に立ち会えるかもしれんからのぅ」


 そうして、俺は師匠たちと遺跡に向かうことになったのだった。

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