魔王とかワンパン余裕です
「ったく、なんだったんだ、いまの魔物は?」
突然目の前に現れてガチャガチャと歯を鳴らしていたガイコツの頭部を殴って粉砕してやった俺は、独り言のようにつぶやいた。
「い、いまの――アッシュがやったのか!?」
師匠が信じられないといった様子で詰め寄ってくる。
「え? そうだけど……」
なんかまずいことしちまったかな?
「い、いったいどうやって倒したのじゃ?」
「どうって……拳で、ぱこーんって」
俺はゲンコツの仕草を作り、師匠にそう説明した。
「ぱ、ぱこーんじゃと? そんな子どもを叱るようなノリで倒したのか……?」
「うん。ていうか本気を出すまでもないでしょ、あんなの」
「あんなのじゃと!?」
「なにを驚いてるのさ? 見るからにザコだったでしょ、あれ」
だってガイコツだぜ?
最初から死んでるようなもんだろ。
「まさか、ここまでの実力差があったとは……わしの目に、狂いはなかったようじゃな」
師匠は真剣な目で俺を見る。
「アッシュよ。お前はわしを――元勇者であるこのわしを超えた。超越しておる。お前に教えることは、もうなにもない!」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ師匠! 教えることはなにもないって……俺、まだ風刀しか教わってないよ!?」
しかも見よう見まねで使えるようになっただけだ。
直接教わったわけじゃない。
「俺、風を操って空を飛んだりしたいんだ! 光を操って透明になったりしたいんだ! とにかく――いろんな魔法を使ってみたいんだよ!」
「無理じゃよ」
「な、なんで無理とか言うんだよ!」
無理というのは俺が世界で一番嫌いな言葉だ。
俺が詰め寄ると、師匠は目をそらし、
「だって、アッシュには魔力がないし……」
驚きの台詞を口にした。
「お、俺に……魔力が……なんだって?」
「ない」
「ない!? 魔力がないの!? 俺に!?」
「そうじゃ」
「そ、そんなわけないだろ!? 魔力がない人間なんているわけないよ! それに俺、魔法使ってるじゃないか! 風刀を使いこなしてるじゃないか!」
「あれは魔法ではない。ただの風圧じゃ」
「風圧!?」
「うむ。手刀で風を起こしているだけじゃ。それが風刀の正体なのじゃよ」
「そ、そんな馬鹿なことあるわけないだろ! ていうか人間業じゃないよそれ!」
「わしとアッシュにはそれができておるのじゃよ。もっとも、わしの風刀は五メートル先に届かせるのが限界じゃがな」
ちなみに、俺の手刀は一五キロ先の魔物を切り裂くことができる。
「お前は……強くなりすぎた。間違いなく世界最強の――武闘家じゃ!」
「……」
俺は言葉を失ってしまった。
世界最強になれたのは嬉しい。
師匠に認められたのも光栄だ。
けど、武闘家ってどういうことだ?
この世界には、当たり前のように魔法が存在するんだぞ?
どれだけ身体を鍛えたところで、魔法使いには勝てないだろ。
そんな弱い世界でチャンピオンになったって、それは井の中の蛙だ。
「俺は魔法使いになりたいんだ! 武闘家みたいなザコは嫌なんだよ!」
「ザコだなんてとんでもない! お前は全盛期の勇者一行が束になっても倒せなかった《闇の帝王》を――魔王を一撃で倒したのじゃぞ!」
「そんな奴倒してないよ!」
「そこに転がっておるじゃろ」
「これ!? これ魔王なの!? このクソ弱いのが!?」
俺は頭部の粉砕されたガイコツを足蹴にする。
粉々になった頭部が、さらさらと風に運ばれて消えていった。
こんなザコが魔王だなんてありえないだろ。
俺は強くそう思った。
けど、師匠がうそをつくとは思えない。
もしかすると……
俺は、本当に強くなりすぎてしまったのかもしれない。
そりゃ、俺だって強くなるのは嬉しい。
けど、ちょっと待ってほしいんだ。
「俺、魔法使いになりたいんだけど!? 武闘家になりたいなんて、一言も言ってないんだけど!?」
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