必殺技の練習です
最近出番が少なめだったので、エファ回です。
休日1日目。
その日の朝、俺とエファは学院の広場に立っていた。
買い物は明日することに決め、今日はエファの訓練につき合うことにしたのだ。
「今日は師匠に見せたいものがあるっす!」
魔王のことは伏せているが、エファには旅に出ることを告げている。
俺との訓練がしばらくできなくなるからか、今日のエファはいつも以上に気合いが入っていた。
「見せたいものって?」
俺がたずねると、エファは得意気に笑った。
「必殺技っす!」
「おおっ! 必殺技を習得したのか!?」
ちょっと見ない間に、エファはかなり成長していたようだ。
師匠として、嬉しい限りである。
「はいっす! 魔物相手に通用するかどうか、師匠に見てほしいっす!」
「魔物相手に、か……」
必殺技を編み出したのはすごいけど……魔物相手に通用するかと言われると、ちょっと厳しい評価になりそうだ。
甘い評価を下してしまえば、エファは本当に魔物と戦おうとするかもしれないしな。
「さっそく見せてくれ」
なんにせよ、実際に必殺技とやらを見てみないことには評価のしようがない。
エファは目を閉じて、深呼吸する。
そうして精神統一したエファは、カッと目を見開き、
「てや!」
空中を切り裂くようにチョップしたあと、てのひらをパーの形にして、
「2色っす!」
空中にビンタを放った。
そして、満面の笑みで俺を見てくる。
「どうっすか!」
「……」
どうと言われても……。
「俺の目が正しければ、チョップとビンタにしか見えなかったけど」
「師匠の目は正しいっす!」
やはりチョップとビンタだったようだ。
「ちなみに、『2色っす』ってかけ声にはどんな意味があるんだ?」
「師匠のマネっす! 魔王を倒した師匠の必殺技に感動して、頑張って練習してきたっす!」
あれは思わず手が出たって感じだったし、べつに必殺技のつもりでビンタしたわけじゃないけど……まあ、『必ず殺す技』という意味では間違ってない。
「俺、チョップとかしたっけ?」
「師匠はチョップで大地を切り裂いたっす!」
「ああ、あのときの……」
あれはチョップではなく、魔法杖を振り下ろしただけだ。
まあ俺にそのつもりはなかったとはいえゴーレムを倒したし、そういう意味では『必ず殺す技』になるんだけど。
「それで、どうだったっすか? わたし、ちゃんと師匠の必殺技を再現できてたっすか?」
「そうだな……」
威力はともかく、動きはそっくりだった。
きっとエファは俺の姿を目に焼きつけ、来る日も来る日もチョップとビンタの練習を繰り返したのだろう。
……できれば、もうちょっと実のある訓練をしてほしかったけど。
でも、ちゃんと稽古をしていたわけだし、ここは褒めてやるべきところだろう。
「俺がもうひとりいるのかと思ったよ」
「ほんとっすか!? やったー!」
ガッツポーズを作ったエファは、キラキラとした眼差しを向けてきた。
「わたし、もっともっと師匠の必殺技を習得したいっす! ほかにどんな技があるっすか!?」
「技か……」
「はいっす! 魔王を倒した技を教えてほしいっす!」
「魔王を倒した技となると……ゲンコツとか、パンチとか、裏拳とか、くしゃみとかかな」
あとの魔王は自滅したしな。
ちなみにゲンコツは《闇の帝王》に、パンチは《土の帝王》に、裏拳は《風の帝王》に、くしゃみは《南の帝王》に使った技だ。
……いや、くしゃみを技と言っていいのかはわからないけど。
「なるほど! そのなかで一番習得しやすそうなのはくしゃみっすね! わたし、くしゃみの練習するっす! ――へくちっ! どうっすか!?」
「いいくしゃみだ。けど、必殺技の練習だけしても武闘家にはなれないぞ」
エファはきょとんとする。
「そうなんすか? ……じゃあ、どうすれば師匠みたいになれるっすか?」
「まずは身体を鍛えることだ。そうすれば必殺技の威力も増すからな」
「なるほど! わたし、さっそく身体を鍛えるっす!」
「よしっ。じゃあ残り時間は一緒に筋トレするか!」
「はいっす!」
そうして、俺とエファは日が暮れるまで筋トレを続けたのだった。
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