世界最強の防御力vs世界最強の攻撃力です
「いま奥のほうから声がしたわ」
ノワールさんは目を細めて空洞の奥を見ようとする。
「暗くて見えないわ」
「しゃべるカメがいるんだ」
「カメ?」
「ああ。甲羅にトゲトゲがついてて、全体的にメタリックなカメがな」
「硬そうだわ」
俺は「そうだな」とうなずき、カメを見つめる。
封印の間にいて、硬そうな見た目ってことは……
「お前が魔物の王――魔王だな?」
「フハハハハ! 我のことを知っているか、ニンゲンよ! いかにも、世界最硬の異名を持つ《北の帝王》とは我のことだ!!」
魔王が自信満々に自己紹介をしてくる。
「《北の帝王》ってことは、魔王はあと3体いるんだな」
遺跡の数だけ魔王がいると決めつけていたけど、思った通りだった。
どの方角の魔王が最強かはわからないが、少なくとも一番硬いのは《北の帝王》で間違いないだろう。
「フハハハハ! 面白い、実に面白いぞ! 我を前にして怯えぬとは……」
と、魔王は言葉を呑みこみ、濁った目玉でノワールさんを見る。
「こ、この魂の波動は……! 貴様、まさか――」
ズシン!!!! ズシン!!!!
地響きを立てながら接近してくる魔王に、ノワールさんは怯えた様子であとずさる。
「間違いない! 貴様あの小娘か! まさか封印が解けたその日に貴様と再会することになるとはな! 実に愉快だ!」
「『小娘』っていうのは《氷の帝王》のことか?」
「弱者の名など覚えておらぬ。我が覚えておるのは憎しみだけだ」
その気になれば世界を滅ぼせる魔王を『弱者』呼ばわりか。
けど、実際こいつの身体には傷ひとつついてないんだよな。
最終的に封印されてしまったとはいえ、力の差は歴然だったのだろう。
間違いなく、こいつはいままでの魔王とは比較にならないほど強い。
俺はそう確信した。
「貴方とは初対面だわ」
「我に誤魔化しは通じぬ! 姿は異なれど、魂の波動は一致しておる! 貴様は間違いなく我を封じた小娘の転生体だ!!」
殺気を放つ魔王に、ノワールさんはさらにあとずさった。
「封印されているあいだ、我は貴様を殺すことだけを考えて生きてきた! いますぐ殺してやりたいが、それでは2000年間蓄積された我の怒りは収まらぬ!」
2000年間蓄積ってことは、封印の効力は失われる寸前だったってことか。
「これより貴様を丸呑みし、我が胃袋に封印する! 身体が溶ける恐怖を味わい尽くすがよい!」
「そのときは胃袋を破るわ」
ノワールさんが魔法杖を構えて脅すと、魔王はあごを鳴らして笑った。
「最強の防御力を誇る我に柔らかい部位など存在せぬ! 我の硬さを忘れてしまったというのなら、特別に思い出させてやろうではないか!!」
魔王が濁った目玉を俺に向ける。
「ニンゲンよ、我に立ち向かうがいい。貴様の命をもってして、愚かな小娘に我の硬さを思い出させてやるのだ!!」
魔王が勝負をしかけてきた。
「ノワールさんは通路に隠れててくれ。魔王を殴ったら、破片が飛び散るからな」
俺はカバンを放り投げてノワールさんに告げる。
魔王の硬さがわからない以上、俺はフルパワーで殴るつもりだ。
俺が思っているより柔らかかった場合、魔王は木っ端微塵になるだろう。
いままではガイコツだったので問題なかったけど、こいつが粉々になればいろいろなものが飛び散ることになる。
魔王の肉片をノワールさんにぶつけるわけにはいかないのだ。
「いかなる攻撃を受けようと、この身が傷つくことはない! 我に接触したものは、必ず砕ける運命にある! なぜなら我は世界最硬なのだから!!」
ぐぐっと魔王が四肢を折り曲げた。
突進するつもりか。
真っ向から受けて立つ!
「我は鉄壁! よって無敵! ゆえに最強! 世界一硬い我を殺せる生物など、この世に存在しないのだ!!」
「貴方と一緒に逃げたいわ」
ノワールさんが俺の腕を引っ張り、通路に逃げようと促してくる。
「ごめん、ノワールさん。俺は逃げるわけにはいかないんだ」
ここで逃げれば精神的に成長できるチャンスを逃がすことになる。
それに俺は確かめたいのだ。
俺の拳がどこまで通用するのかを。
俺の拳が世界最硬に勝てるのかを。
世界最硬の魔王《北の帝王》は、俺の実力を測る絶好の敵なのである!
「……貴方が勝つと信じているわ」
俺の気持ちが伝わったのか、ノワールさんはランプを持って通路に引っこんだ。
ノワールさんの想いに応えるためにも、俺はこの拳で魔王に打ち勝ってみせる!!
「世界最硬がいかに硬いか、身をもって味わうがいい!!」
魔王が高々とジャンプした。
てっきり突進してくると思っていた俺は、まさかのジャンプに呆然とする。
こいつ、俺を押し潰すつもりか!?
「防御こそ最大の攻撃なのだあああああああああああああああああ!!!!」
ズンッ!!!!!!!!
俺は魔王に突き刺さった。
パァァァァン!!!!!!
甲羅を破って外に出ると、魔王は死んでいた。
俺の頭が魔王の心臓を貫いたのだろう。
地面には血だまりができていた。
なに自滅してんだよ!
お前は《光の帝王》か!
そう叫びたい衝動をぐっと堪え、俺は甲羅から飛び降りる。
「世界最硬は貴方の頭ね」
ノワールさんが、通路からぼそっとつぶやいた。
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