魔物の王です
町をあとにして5時間――。
「遺跡だっ! ほら見てノワールさん遺跡だよっ!」
地下遺跡につながる階段が見つかり、俺のテンションは急上昇していた。
まさか遺跡への入口を見つけただけでこんなに嬉しくなるなんて思わなかった。
石碑に魔力獲得の方法が記されていたら、嬉しすぎて気絶するかもしれないな。
「もっと時間かかるかもって心配してたけど、あっさり見つかってよかったなっ! ……どうしたんだノワールさん?」
ノワールさんは、ぽかんとしていた。
「雪かきが一瞬で終わったわ」
俺たちの半径5㎞圏内に積もっていた雪は、綺麗さっぱり消滅している。
町の外に積もっていた雪を正拳突きで吹き飛ばして即席の道を作ったあと、俺たちは5時間くらいまっすぐに歩いた。
それから息を吹いて、見渡す限りの雪を吹き飛ばしたのだ。
雪かきしないと地下遺跡への階段は見つからないしな。
「貴方の肺活量はどうなっているのかしら?」
「そんなことより早く遺跡に行こうっ!」
いまは俺の肺活量とかどうでもいいのだ!
「……地下は真っ暗だわ」
階段の奥を覗きこみ、ノワールさんは不安げな顔をする。
お化け屋敷が苦手なノワールさんは、暗闇も苦手なのだろう。
俺は夜目が利くので暗闇だろうと見通せるけど、真っ暗だとノワールさんが転んでしまうかもしれない。
なにより、暗いと石碑を読むことができなくなってしまう。
「だいじょうぶ。ちゃんとランプを持ってきたからな!」
カバンからランプを取り出してみせると、ノワールさんは安心したような顔をした。
そうして、俺たちは階段を下りていく。
5分くらい歩いたところで、ようやく通路にたどりついた。
「広いわ」
大型トラックくらいなら余裕で走れそうな通路だ。
なんとなくダンジョン的なところをイメージしてたけど、通路は一本道だった。
俺たちは迷うことなく通路を歩き、しばらくして立ち止まる。
「行き止まりだわ」
びっしりと文字が刻まれた壁に、行く手を阻まれてしまったのだ。
その壁を見て、俺は興奮する。
「これっ、石碑じゃないか!?」
ここまでの道中にそれらしきものは見当たらなかったし、これが石碑で間違いない。
俺は文字に目を通すが……なにが書いてあるのかさっぱりだ。
「ノワールさん、これ読める……?」
ノワールさんはじっと石碑を見つめ、うなずいた。
「読めるわ」
「よしっ! なんて書いてあるんだ!?」
ノワールさんはあらためて石碑を見つめる。
「この壁の向こうに魔物の王が封印されている……と書いてあるわ」
「魔物の王が?」
それって《氷の帝王》が封印したっていう魔王のことか?
だとすると、この石碑の向こうに封印の間があるのか。
「ここに封じられている魔物の王は、世界一硬いらしいわ」
世界最硬の魔王か。
攻撃が通じないから、《氷の帝王》は封印することにしたのだろう。
「封印の効力は、もって2000年らしいわ」
リングラントさんいわく、《氷の帝王》は『近々封印が解ける』と主張していたらしい。
それから10年以上経つし、封印が解ける日はすぐそこまで迫っているはずだ。
近々封印が解けるなら、いまのうちに倒しておいたほうがいいだろう。
「魔王のことはわかったけど、ほかにはなにか書いてない? 魔力に関することとかさ」
ノワールさんはしばらく石碑を眺めたあと、首を横に振った。
「魔王の悪口しか書いてないわ」
俺はぽかんとしてしまう。
「これ、全部悪口なのか?」
10000字以上はありそうだけど……。
「全部悪口よ」
「そっか……全部悪口か……」
さすがに恨みすぎじゃないかな?
まあ、長々と悪口を書きたくなるくらい、魔王を倒せなかったことが悔しかったんだろうけどさ……。
俺も魔力の情報が手に入らなくて悔しいけど、遺跡はあと三つあるのだ。
ほかの遺跡に俺の望む石碑があると信じるしかない。
「魔王はどうするのかしら?」
「もちろん倒すよ。宿屋のおじさんと約束したしな」
けど、今回の魔王はいままでの魔王とはひと味違うんだよな。
いままでの魔王はワンパンで粉々になるくらいもろかったけど、この先にいる魔王は世界で一番硬いのだ。
俺が魔法使いだったら、多彩な魔法を使って戦うところだけど……俺は武闘家だ。
防御力が高すぎる相手は、拳で戦う俺にとってまさに天敵なのである。
これまでの人生で最も苦戦することは、容易に想像がついた。
だからこそ、逃げるわけにはいかないのだ。
俺はこの戦いで精神的に成長を遂げ、魔力を手に入れてみせる!
俺はぐっと拳を握りしめ、石碑を殴った。
ドゴォォォォン!!!!
封印魔法がほどこされた石碑を破壊すると、広々とした空洞に出た。
そして空洞の奥には……
「フハハハハ! ついに我が身を縛る忌々しい封印が解けたか! しかも目の前に餌が転がっておるではないか! 幸運に思うがよい、ニンゲンよ! 貴様らは我の血肉となり、未来永劫に生き続けることができるのだからな!!」
人間の言葉を話す、巨大なカメがいた。
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