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伝説の魔物です

 朝起きると、ノワールさんが毛布にくるまって震えていた。


「寒いわ……」


 俺が目覚めたことに気づいたノワールさんは、か細い声で報告する。


 温度計によると、いまの気温は氷点下18℃。

 俺は気温の変化に疎い体質だけど、ノワールさんを見ていると寒気が伝わってくる。


 ノワールさんは氷魔法が得意だし、てっきり寒さに強いと思ってたけど……まあ気温が気温だしな。


「靴下もう1足履く?」

「履くわ」


 俺は先日まとめ買いした靴下をノワールさんに渡す。

 

 靴下を受け取ったノワールさんは、かなしそうに眉を下げた。


「手がかじかんで履けないわ」

「俺が履かせるよ」

「頼もしいわ」


 ノワールさんはベッドに腰かけてブーツを脱ぎ、俺に足を向ける。


「これでよし、と」


 ノワールさんに厚手の靴下を履かせた俺は、窓の向こうへ目をやった。


「積もってるなぁ……」


 窓の向こうは一面の雪景色だ。

 1メートルくらい積もってるんじゃないだろうか。


 積雪何メートルだろうと正拳突きによる風圧で道を作ることはできるけど……これ、遺跡見つかるかな?


 東西南北にある遺跡はすべて『地下遺跡』だと本に書いてあったし、入口が雪に埋まっているとしたら、探すのに骨が折れそうだ。


「とにかく、晴れてよかったなっ」


 昨日はずっと吹雪いてたし、このまま立ち往生することになるかもと心配したが、無事に晴れた。


 俺ひとりなら天変地異が起ころうと遺跡に行くけど、ノワールさんを危ない目に遭わせるわけにはいかないしな。


「遺跡までどれくらいかかるのかしら?」

「距離的には歩いて5時間くらいかな。入口を見つけるのに時間がかかるかもしれないけど、今日中には見つけてみせるよ」


 俺たちがルチャムをあとにして、すでに1週間以上過ぎている。


 新学期スタートまで、あと10日だ。


 俺ひとりが遅刻するだけならいいけど、ノワールさんを巻きこむわけにはいかない。


 あまり長居はできないし、天気が崩れる前にさっさと遺跡に行かないとな。


「ご飯を食べたら出発するけど……もうちょっと厚着しとく?」


 ノワールさんはもこもこの服に手袋、マフラーに毛糸の帽子に耳当て、さらにフードをかぶっているが、ぶるぶる震えている。


 すごく寒そうだけど、これ以上の重ね着は難しいだろう。

 重ね着する余地があるとしたら……足もとくらいかな?


 ノワールさんもそれはわかっているのか、再び俺に足を向けてきた。


「靴下をあと1足――いえ、2足重ねるわ」


 俺はノワールさんに靴下を履かせる。


 足もとが温まったことで、ノワールさんの震えが少しだけ弱まった。


「んじゃ、朝食を食べたら出発だっ!」


 俺はカバンを背負い、ノワールさんと1階の食事スペースに向かう。


「おはようございますっ。お出かけですか?」


 暖炉の火加減を調節していた店主のおじさんが、にこにこしながら話しかけてきた。


「出かける前に食事をしようと思いまして」

「ああ、それでしたらすぐに準備しますので、席についてお待ちください。もちろんお代はいりませんよ。アッシュさんは命の恩人ですからねっ」


 この町はネムネシアと同じくらい人口が少ないため、ルチャムみたいな騒ぎにはならないだろうと思い、俺は顔を隠さずに出歩いていた。

 その結果、おじさんに手厚く歓迎されたのだ。


「助かります」


 実を言うと、ノワールさんに大量の服をプレゼントしたことで手持ちが少なくなっていたのだ。

 帰りの旅費を考えると、おじさんの好意は素直にありがたかった。


 次からは、もうちょっと多めにお金を持っていかないとな。


「お礼を言うのは私のほうです! アッシュさんがいなかったら、いまごろ私の家族は魔王に殺されていましたからね」


 それに、とおじさんはウインクする。


「『英雄が宿泊した宿』と宣伝すれば、この宿は大勢のお客様で賑わうはずですっ。本当に助かりますよ!」


 本音を口にするおじさんに、俺は思わず笑ってしまう。


「そういうことでしたら、遠慮なく食事させてもらいますね」

「はいっ。アッシュさんさえよろしければ、何泊してくださっても構いませんからね!」

「ありがとうございます。だけど遺跡に行くだけなので、明日には帰りますけどね」

「遺跡に行かれるんですか!?」


 と、おじさんは嬉しそうに言った。


「そうですけど……遺跡になにかあるんですか?」

「はい。実は、遺跡には怖ろしい魔物が棲みついているという伝説があるのです」


 それって《氷の帝王アイス・ロード》が封印したっていう魔王のことかな?


 誰かが間違えて封印を解いてしまわないように、《氷の帝王》は怖ろしい噂を流して人払いをしたのだろう。


 それが長い年月を経て、伝説になったのだ。


「もちろん伝説ですので実在するかどうかはわかりませんが……もしものことを思うと不安になるんですよね」


 なるほどね。

 だから笑顔になったのか。


「わかりました。見かけたら退治しておきます」

「おおっ、ありがとうございます!」


 おじさんが嬉しそうに頭を下げたところで、ノワールさんのお腹が鳴った。


「ああ、すみません。すぐに食事をお持ちしますので、お連れの方と一緒に席でお待ちください」


 俺たちはテーブル席につき、食事を待つ。

 ややあって、おじさんがシチューとパンを運んできた。


 そうして食事を済ませた俺たちは、宿屋をあとにしたのであった。


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