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冒険の幕開けです

 その日の朝。


 俺はフェルミナさんの寝室で目覚めた。


 手頃な空き部屋がなかったため、みんな揃ってフェルミナさんの寝室で寝ることになったのだ。


 フェルミナさんの両親も俺を信用してくれているのか、娘の寝室で寝ることに反対はしなかった。


「早起きね」


 俺が身体を起こすと、ノワールさんが言った。

 ベッドに腰かけたノワールさんは、すでにパジャマから普段着に着替えていた。


「ノワールさんこそ早いな」


 そう言って、俺は室内を見まわす。


 フェルミナさんはベッドで寝息を立てていて、エファは俺のとなりで毛布にくるまっている。


 昨日はエファの買い物につきあったり、フェルミナさんの買い食いにつきあったり、ノワールさんが迷子になったりした。


 思う存分にルチャムを満喫したことで疲れがたまったのか、日が暮れる頃にはノワールさんたちはへとへとになっていた。


「充分寝たわ」


 ノワールさんたちはシャワーを浴びてすぐに寝てたし、たしかに睡眠時間としては充分だ。


 いつ起きるかわからないし、エファたちが眠っているうちにノワールさんの予定を確かめておこうかな。


「ノワールさんは休日の過ごし方とか決めてるのか?」

「決めてないわ」

「そっか。じゃあさ、もしよかったら俺につきあってくれない?」

「つきあうわ」


 ノワールさんは即答した。

 まだなにをするかも話してないんだけど……。


「んんっ、もう朝かな?」

「ふわあ……おはようございますっす、師匠」


 俺たちの話し声で、ふたりが目を覚ました。


 ノワールさんに予定がないことはわかったし、具体的なことはふたりきりになってから話そうかな。


     ◆


 その日の昼下がり。


「それじゃあまた学院でねっ! ばいばーい!」


 フェルミナさんに見送られ、俺たちは駅へと向かう。


 昨日の経験から顔はフードで隠しているため、誰にも正体がばれることなく駅にたどりつくことができた。


「あれ? どうしたんすか師匠? きっぷ売り場は向こうっすよ」


 駅前で立ち止まると、エファが不思議そうにたずねてきた。


「ちょっと用事があってな。もうしばらくルチャムにいるよ」

「もしかして、わたしを見送るためについてきてくれたんすか?」

「まあ、そんなところだ。しばらくエファに会えなくなるしな」


 俺の言葉に、エファは嬉しそうな顔をした。


「わたし、お家に帰っても毎日修行するっす! また師匠とノワールさんに会える日を楽しみにしてるっすよ!」

「ああっ。また学院で会おうな!」

「はいっす! それではおふたりともお元気で!」


 ぺこりと頭を下げ、エファはきっぷ売り場へと歩き去っていった。



 ……さて。


「あのさ。ノワールさんに大事な話があるんだけど」

「聞くわ」

「ここじゃ騒がしいし、もうちょっと静かなところで話すよ」


 俺はノワールさんをつれて、ひとけのない場所を探す。


 町外れに静かな公園を見つけ、俺たちはベンチに腰かけた。


 近くには誰もいないし、ここなら落ち着いて話ができそうだ。


 俺はさっそく話を切り出す。


「単刀直入に言うけど……実は俺、ノワールさんの前世に心当たりがあるんだ」

「なにかしら?」

「落ち着いて聞いてほしいんだけど……ノワールさんの前世は《氷の帝王アイス・ロード》っていう魔王だったんだよ」

「そう」


 ノワールさんは本当に落ち着いて聞いてくれた。


 ……ていうか、さすがに落ち着きすぎだ。


 あまりにも薄すぎるリアクションに、俺は戸惑ってしまう。


「びっくりしないのか?」

「びっくりしないわ。前世に興味はないもの」


 ノワールさんは本当に興味がなさそうだ。


「実は、ノワールさんの前世の記憶はリングラントさんが消したんだ。そのせいで、ノワールさんの記憶力は落ちてしまったんだよ」

「嬉しいわ」


 思い切ってすべてを打ち明けると、ノワールさんに喜ばれた。


「どうして嬉しいんだ?」

「記憶力がよかったら、貴方に勉強を教えてもらえなかったもの」


 まさか俺との勉強をそこまで楽しんでくれているとは思わなかった。


「大事な話は、それで終わりなの?」

「ここからが本題だよ。俺はこれから遺跡を巡るんだけど、ノワールさんについてきてほしいんだ」

「ついていくわ」


 またしても即答するノワールさんに、俺は石碑について話して聞かせた。


「……私に解読できるかしら?」


 ノワールさんはなんだか不安げだ。

 

「俺は解読できるって信じてるよ」


 リングラントさんは『従順な実験体』を手に入れるためにノワールさんの記憶を消したと言っていた。


 リングラントさんにとって邪魔だったのは《氷の帝王》だった頃の想い出であり、それ以外は消す必要はなかったはず。


 つまりエピソード記憶は消されていても、言語記憶は残っているかもしれないのだ。


 言語記憶が残っていれば、石碑を解読することができるのである。


「なんにせよ、実際に遺跡に行ってみないと確かなことは言えないんだけど……」

「私は貴方についていくわ。貴方といると楽しいもの」

「ありがとうノワールさんっ。俺もわくわくしてきたよ!」


 石碑に魔力に関する手がかりが記されていれば、俺は魔法使いになれるのだ!


 魔法使いになったらやりたいことが山ほどある。


 まずは飛行魔法フライで町へ行き、携帯電話を手に入れる。

 そして、いままでお世話になったひとたちと連絡先を交換するのだ!


「よしっ、それじゃあ腹ごしらえをしたら出発だっ! まずは北の遺跡を目指すよ!」


 そうして俺とノワールさんの冒険が幕を開けたのだった。


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