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英雄として扱われます

 長期休暇2日目の朝。

 俺は大きなリュックを背負い、校門へと向かっていた。

 今日はフェルミナさんの実家へ遊びに行くことになっているのだ。


 待ち合わせ場所の校門前に到着すると、そこにはノワールさんの姿があった。


「おおっ、早いなノワールさん!」


 まだ待ち合わせ時間まで30分は余裕があるのに、ノワールさんは眠気を堪えて早く来たのだ。

 その姿勢に感心していると、ノワールさんは大きなくまのある目を俺に向けてきた。


「……もしかして寝てないのか?」


 昨日はフェルミナさんの部屋で『上級クラス維持できておめでとうパーティ』を開催したのだ。

 俺は旅行に備えて早めに帰ったが、ノワールさんたちは夜通しガールズトークしていたのだろう。


「日が昇る前にはここにいたわ」


 さすがに早すぎない?

 そう思ったけど、中途半端な時間に寝たら寝坊するかもしれないしな。


 遅刻を避けようとする心がけは立派だ。

 だけど眠たそうに頭をふらふらさせてるし、いきなり倒れたりしないか心配だな……。


「ああ、そうだ」


 俺はカバンから気力薬エナジードラッグを取り出し、ノワールさんに差し出した。


「これ、よかったら飲む?」


 気力薬は疲労回復や眠気除去に効果がある薬だ。

 いまのノワールさんには打ってつけである。


「助かるわ」


 ノワールさんは気力薬を受け取り、俺のカバンに不思議そうな視線を向けた。


「1泊2日にしては大荷物だわ」

「いろいろと予定があってね」

「どこかへ行くの?」

「まあね」

「いつ戻ってくるのかしら?」

「2週間後くらいかな」

「そう……」


 ノワールさんはなんだか寂しそうに目を伏せ、気力薬をちびちびと飲み始めた。


 俺はフェルミナさんの実家で一晩過ごしたあと、魔力獲得の手がかりを見つけるために遺跡へ行ってみることにしていた。


 まだ誘ってないけど、そのときはノワールさんにもつきあってほしいと思っている。


 というのも、キュールさんとリングラントさんの話をまとめると『《氷の帝王アイス・ロード》は東西南北の遺跡に魔王を封印した』ということになるのだ。

 つまり《氷の帝王》の転生体であるノワールさんなら、石碑を解読できるかもしれないのである。


 本当はキュールさんにもついてきてほしかったけど、エリーナ先生と旅行の約束があるとかで断られてしまったのだ。


 そんなわけで、遺跡に行く場合はノワールさんとふたりきりだ。

 もちろんノワールさんがついてきてくれるなら、数日分の着替えとか旅費なんかは俺が全額支払うつもりだ。


 問題は、どうやって旅行に誘うかだ。


 石碑を解読できた場合、ノワールさんは『どうして読めるの?』と困惑するだろう。

 そうならないためにも、あらかじめ真実を伝えておいたほうがいいはずだ。

 俺としても、ノワールさんに嘘はつきたくないしな。


 ただ、前世にまつわる話は、ノワールさんにとって重要なことだ。

 ちゃんとした場を設けて伝えたほうがいいだろう。


 この旅行中に、『ちゃんとした場』を用意できるといいんだけど……。



「おっはよー!」

「時間ぎりぎりになっちゃったっす!」



 ノワールさんが気力薬を飲み終えたところで、エファとフェルミナさんが駆け寄ってきた。

 ふたり同時に来るってことは、昨日はフェルミナさんの部屋で一夜を過ごしたのだろう。


「ふたりとも早いねっ!」

「今日も師匠が一番乗りだったんすかっ!?」


 ふたりとも寝不足なのか、深夜テンションだ。


「今回はノワールさんが一番乗りだったよ」

「そうなんすか!? 夜遅くまで起きてたのに一番乗りなんてすごいっすね!」

「寝てないのよ」


 早くも気力薬が効いてきたのか、ノワールさんはシャキッとした顔で言った。


「もし眠いなら、列車のなかで寝ればいいよっ!」

「フェルミナさんの実家って、たしかルチャムにあるんだったよな?」


 ルチャムはエルシュタニアから200㎞くらい北にある町だ。

 まだ朝早いし、昼前には到着するだろう。


「列車で3時間くらいかなっ? 乗り換えとかないからゆっくり休めるよ!」

「それは助かるっす! わたし、めちゃくちゃ眠いっすからね!」

「あたしもだよっ!」

「ルチャムについたら俺が起こすから、エファたちは寝てていいよ」


 エファとフェルミナさんは嬉しそうな顔をした。


「ありがとうアッシュくんっ!」

「お言葉に甘えさせてもらうっす!」

「……眠気が覚めたばかりだわ」


 中途半端な時間に眠気が来ることを悟り、ノワールさんは眉を下げたのだった。


     ◆


 列車に揺られること3時間。

 俺たちはルチャムに到着した。


 駅前の広場にはたくさんの露店が並び、いろいろな食べ物が売られている。

 ついさっきまで眠っていたエファたちは、あまりの賑々しさに眠気が吹き飛んでしまった様子だった。


「すごく盛り上がってるっすね! 今日はお祭りっすかっ!?」

「いつもこんな感じだよ! ほらっ、あそこの串焼き肉がすっごく美味しいんだよっ! うちに荷物を置いたら食べに行こうねっ!」

「フェルミナさんの家は近いのか?」

「うんっ。歩いて15分くらいかな? こっちだよっ!」


 フェルミナさんを見失わないようにしつつ、俺たちは広場を歩く。



「あ、あのっ、もしかしてアッシュさんですか!?」



 広場を歩いていると、女の子に呼び止められた。


「そうですけど」


「やっぱりアッシュさんだ!! 私、魔王との戦いを見てあなたのファンになったんです!!」


 その声を聞きつけ、広場にいたひとたちが俺の周りに集まってくる。


「師匠、大人気っすね! 弟子として誇らしいっす!」


 エファが嬉しそうに言った。


 エルシュタニアでも同じように囲まれたことがあるけど、魔王との戦いから時間が経つし、それなりに落ち着いてきた。


 だが、ルチャムのひとたちは『魔王放送』でしか俺を見たことがない。

 はじめて目にする『生アッシュ』に興奮してしまっているのだろう。


「サインください!」

「握手してほしいです!」

「私、パンツ買いました!」


 やめてくれ!

 握手でもサインでもなんでもするから、パンツの話はしないでくれ!


 今度から、はじめて訪れる土地では顔を隠して出歩いたほうがいいかもしれないな。

 じゃないとまともに外出できない。


     ◆


「ここが我が家だよっ!」


 背中にタッチされたり腕をにぎにぎされたりしつつも歩き続け、フェルミナさんの実家にたどりつく。


「自分の家だと思ってくれていいからねっ!」


 そうして家に入ると、フェルミナさんの両親に出迎えられた。


 事前に聞かされていたので驚きはないけど、フェルミナさんの父親は《土の帝王アース・ロード》との戦闘時に俺が土のなかから引きずり出した騎士団のひとだった。


「あのときは本当に助かりました。どうかゆっくりしていってください」

「本当にうちの主人を助けていただいて、なんとお礼を言ったらいいか……」


 友達の親に頭を下げられるの、ちょっと気まずいな……。

 お礼ならフェルミナさんに散々されたし、べつに気にしなくていいのに。


「もうっ! 堅い話はやめてねって電話で言ったでしょ! ほら、アッシュくん困ってるじゃない!」


 フェルミナさんは眉をつり上げて言った。


「この通りうるさい娘ですが、いつまでも仲良くしてくれると嬉しいです」

「娘もアッシュさんのことはとても気に入っているようですし、今後は家族ぐるみでおつきあい――」


「もうっ! そういう話もしないでって電話で言ったでしょ!」


 フェルミナさんは顔を真っ赤にして叫び、俺の手をがしっと掴む。


「部屋に案内するからね。こっちだよ」


 俺はフェルミナさんに手を引かれ、二階へ向かう。


「ここがあたしの部屋だよっ。今日は3人ともうちに泊まるんだよね?」

「そのつもりっす。わたしは明日の昼には帰らなきゃいけないっすから、今日はルチャムを堪能するっすよ!」

「案内なら任せてよっ! アッシュくんとノワちゃんも明日帰るんだっけ?」

「俺は明日の昼頃帰るよ」


 明日からは遺跡巡りを始めるのだ。


 俺ひとりなら走れば日中には最北端の遺跡にたどりつけるけど、ノワールさんと一緒に行くつもりなので交通機関を使うことになる。


 休暇が丸々潰れるかもしれないし、早めに出発したほうがいいだろう。


 まあ、ノワールさんの予定次第では遺跡巡りは延期なんだけど……。


「私も明日の昼頃帰るわ」


 ふたりきりで話をしたいし、前世について話すのは明日の昼にしようかな。


第3章スタートです!

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