それは杖ですか?
穴埋めエピソード、最終話は勇者一行の話です。
時系列的には『色が足りません』と『氷の帝王です』の間の話になります。
常夏の町ラマトンにある酒場にて。
「で、これからどうするのじゃ?」
モーリスはフィリップとコロンにたずねた。
「アッシュは見事魔王を倒してくれたのじゃ。だというのに、わしらは材料一つ集めることができておらんのじゃ」
モーリスたちはアッシュとの約束を果たすため、世界中を旅して『絶対に壊れない魔法杖』の材料を探していた。
だが、なかなか材料が見つからないのだ。
これではアッシュに合わせる顔がない。
「よ、予定では、レッドドラゴンの鱗を使うのよね?」
「そのつもりだよ。防具屋を巡ればレッドドラゴンの鱗を使った鎧なり盾なりが見つかると思ったんだけど……」
すでに両手では数えきれないくらいの防具屋を巡ったが、レッドドラゴンの鱗でできた防具は見つからなかった。
とはいえ仮に鱗を見つけたとしても、今度はべつの問題にぶつかってしまう。
「無事に鱗を入手できたとして……アッシュは12歳の頃にレッドドラゴンを倒しておるのじゃぞ?」
アッシュの手にかかれば、レッドドラゴンの鱗で作られた魔法杖だろうと、簡単にへし折ってしまうだろう。
そんなことになればアッシュは『せっかく師匠たちが作ってくれたのに壊しちゃった……』と申し訳なく思うはずだ。
師匠として、最愛の弟子にそんな思いをさせるわけにはいかない。
「わ、わざと壊そうとしなければ壊れない……と思うわ」
「私もコロンと同意見だよ。……ただ、アッシュくんの要望は『絶対に壊れない魔法杖』だからねぇ。正直なところ、アッシュくんに壊せないものはこの世に存在しないと思うよ」
「……では、なにを材料にすればいいのじゃ?」
「それがわかれば苦労はしないさ……」
「まあ、そうなのじゃが……」
モーリスとフィリップは、どうしたものかと頭を悩ませる。
世界の存亡がかかっていないぶん《終末の日》よりは気楽だが、アッシュの要望のほうが達成困難な問題かもしれない。
「た、たとえば土みたいな簡単に手に入るものを圧縮して、強度を高めて、圧縮して、強度を高めて……を繰り返してみるのはどうかしら?」
コロンの意見に、いつの間にかうつむいていたモーリスたちはハッと顔を上げた。
「たしかに、それならいますぐにでも杖作りを始められるのじゃ! よく思いついたのぅ、コロンよ!」
「お、思いつきを口にしてみただけよ……」
コロンは照れくさそうに頬を赤らめる。
「問題は、ありえないくらい重くなることかな」
フィリップの言う通りだ。
アッシュの欲する『絶対に壊れない魔法杖』を作るには大量の土が必要になるし、圧縮するといっても限度がある。
完成品の具体的なサイズや重さなど想像もできない。
ただ、まあ……。
「アッシュに限って言えば、重さや大きさは関係ないと思うのじゃ」
アッシュのことだ。いかに大きく、いかに重たい魔法杖だろうと、軽々と振り回すに違いない。
「たしかに、アッシュくんならどんなものでも持ち上げてしまいそうだね」
「そ、それに魔法を使えば、ある程度は軽くできるわ」
達成困難に思われた問題を解決する糸口が見つかり、モーリスたちの心に希望が宿る。
「土を材料にするなら、念のために防水魔法をかけておいたほうがいいかもしれないね」
「最終的な大きさはわからないけど、綺麗なルーンが描けるように先端は尖らせたほうがいいと思うわ」
「かっこいい模様を入れたら、きっと喜んでくれるのじゃ!」
問題解決の糸口が見つかり、精神的に楽になった途端、次々とアイデアが湧いてくる。
……完成品のイメージとしては『尖塔』が近いだろうか。
そうして『絶対に壊れない魔法杖』の構想を固めたモーリスたちは、『どうせなら最高品質の魔法杖を作りたい』と意見を一致させ、質の良い土を探す旅に出るのだった。
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次話から第3章に突入します!




