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タイムリミットです

 まずいことになった……。


 朝日が差しこむ自室にて、俺は頭を抱えていた。


 3歳児になって、今日でちょうど3ヶ月目なのだ。


 つまり、いまこの瞬間にもとの姿に戻ってもおかしくないのである。


「おかしいな……。俺の予定では、いまごろ魔法使いになってるはずなんだけど……」


 女装、強敵(魔王×2)との戦い、お化け屋敷攻略など、精神的に成長できそうなイベントには積極的に参加してきた。

 だというのに、俺のおしりに魔力斑スティーゲルは浮かばなかったのだ。


 魔力斑は精神年齢1歳~4歳の時期に浮かぶらしいので、3歳児でいるあいだはチャンスがあるってことだけど……。

 だけど、そのチャンスも今日限りだ。

 3歳児じゃなくなったからといって諦めるつもりはないけど、魔法使いになれる可能性はぐっと下がってしまうのだ。


「こうなったら、あれを使うしかないか……」


 俺はベッドの下に隠しておいた最終兵器を手に取った。


 アイちゃんにもらったアニマルプリントのパンツである。


 今日はタイムリミットにして、昇級試験当日だ。

 大事な試験に女の子のパンツを穿いて挑むなんて、まさに変態だ。

 これを穿けば、俺はものすごい羞恥心に襲われることになるだろう。

 それを乗り越えることで、精神的に成長できるというわけだ。


「よしっ、やるぞ! 俺は女の子のパンツを穿いて、魔法使いになるんだ!」


 気合いを入れた俺は、女児パンツを穿いた。

 ぴったりフィットだった。


     ◆


「どうしたんすか師匠? 具合でも悪いんすか?」


 教室に到着するなり、エファが心配そうに話しかけてきた。

 具合が悪く見えるのは、俺が恥ずかしがっているからだ。


 いつも慕ってくれるエファに女の子のパンツを穿いているなんて知られたら、どんな目で見られるだろう……。

 そんな想像をするだけで不安感が押し寄せ、それを乗り越えることで精神的に成長する。

 つまり、俺は圧倒的スピードで精神的に成長しているはずなのだ!


「ちょっと心配事があってな。まあ今日中には解決するよ」


 そう。上手くいけば俺は今日中に念願の魔法使いになれるのである。

 魔法使いになったら、本格的に魔法の勉強をするのだ。

 そのためにも、上級クラスを維持しないとな。


「師匠が心配事なんて珍しいっすね。もしかして昇級試験のことっすか? わたし、3年生になっても師匠と同じクラスがいいんすけど……」

「ああ、それならだいじょうぶ。ちゃんと勉強してきたし、上級クラスは維持できると思うよ。ちょっと気が早いけど、3年生になってもよろしくな」


 俺が告げると、エファは満面の笑みを浮かべた。


「はいっす!」

「うんうんっ、また同じクラスになれるといいねっ!」


 たったいま教室にやってきたフェルミナさんが会話に加わる。

 エファは運動神経以外は完璧だし、フェルミナさんは文武両道だ。

 ふたりとも間違いなく上級クラスを維持できるだろう。

 問題は……


「ノワールさん……顔色悪いけどだいじょうぶか?」


 俺は目の下に大きなくまを作っているノワールさんにたずねた。


「とても眠いわ」


 そう言って、ノワールさんは大きなあくびをする。

 きっと徹夜で勉強したんだろうな。

 ノワールさんの努力が報われるといいんだけど……。


「ちゃんと30点取れるかしら?」


 ノワールさんは不安げだ。


「あんなに頑張ったんだ。ぜったいに取れるよ」

「とても自信がつくわ。私は、必ず30点取ってみせるわ」


 ノワールさんは眠たそうにしながらも力強く宣言し、教科書とのにらめっこを再開した。


 筆記試験が始まったのは、それから間もなくのことだった。


     ◆


「それじゃあ試験スタートよ!」


 エリーナの言葉に、ノワールはあくびを我慢しつつ問題用紙に目を通す。


 問題用紙には50の問題が記されていた。

 制限時間は120分。

 1問につき2点らしいので、目標の30点を取るには確実に15問正解しないといけない。


(私は、『外カリッ、中もふっ♪ もっちりもちもちほっぺがとろける夢のめろめろメロンパン』を確実に買いたいわ。それにアッシュとも離れたくないわ)


 ノワールにとって、メロンパンとアッシュは世界のすべてだ。

 上級クラスから転落すれば、その二つを同時に失うことになる。


(そんなの、だめよ)


 筆記試験と実技試験でいい成績を残し、大事な二つを死守する。

 そのためにも、まずは筆記試験で30点を取らなければ!


 ノワールは気合いを入れるようにカッと目を見開き、問題を解き始めた。


 第1問は『閃光フラッシュのルーンを正しく描け』だった。

 わからないので、ノワールはスルーした。


 第2問は『自白薬と同様の効果を持つ魔法のルーンを正しく描け』だった。

 わからないので、ノワールはスルーした。


 第3問は『氷槍アイスランスのルーンを正しく描け』だった。


(わかるわ)


 氷槍はノワールの得意魔法の一つだ。

 ルーンを描くのなんて朝飯前である。

 こんな問題が出るなんて……どうやら運は自分の味方らしい。


(この調子で頑張るわ)


 そうしてノワールはメロンパンとアッシュのために、最後まで諦めることなく問題を解き続けるのだった。


     ◆


 筆記試験が終わったあと――。

 実技試験のルールが決まるまで暇なので、俺はフェルミナさんたちと雑談していた。


「アッシュくんは筆記試験どうだった?」

「前回より簡単だったし、100点取れてると思うよ。フェルミナさんはどうだった?」

「あたしは1問だけわからなかったかな」

「ふたりともすごいっすね! わたしは90点取れたかどうかっすよ!」

「とにかく、第一関門突破だねっ。あとは実技試験でいい結果を出せば上級を維持できるよっ」


 実技試験のルールは、下級クラスの生徒が引いたくじによって決まる。

 前回はフェルミナさんとの真剣勝負だったけど、今回はどうなることか……。


「またアッシュくんみたいな強いひとと戦えるといいなぁ」

「わたしは協力プレイがいいっす。真剣勝負だと相手に申し訳なくなるっすもん」


 くじの色が赤だと真剣勝負、青だと協力プレイになる。

 ふたりで協力して『なにか』を成し遂げ、その貢献度によって点数が与えられるのだ。

 俺は真剣勝負のほうがわかりやすくて好きだけど……協力プレイも面白そうだな。


「ノワールさんは赤と青、どっちがいい?」


 俺はノワールさんに話しかける。


「赤よ。早く終わらせて寝たいわ」


 ノワールさんは疲れ果てている。

 たしかに真剣勝負なら、すぐに終わらせることができるだろう。

 なにせノワールさんは、前回の真剣勝負でニーナさんを瞬殺してしまったのだから。


 ……そういえば、ニーナさんはどうしてるかな?

 元クラスメイトのニーナさんは、前々回がエファとの真剣勝負で、前回がノワールさんとの真剣勝負だったのだ。

 くじ運がないと嘆いていたけど……今回はどうなるんだろ。


 ニーナさんのことを考えていると、俺の手元にくじが届いた。

 ほぼ同時に、みんなの手元にくじが届く。


「やったー! 赤くじだよっ!」

「私も赤だわ」

「わたしは青っす! おおっ、師匠も青っすね! お相手は誰っすか?」


 俺は二つ折りにされた青くじを開いた。


 パートナーは、ニーナさんだった。


評価、感想、ブックマークありがとうございます!

次話もなるべく早くお届けできるよう頑張ります!

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