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明らかにパーツ不足です

 入場券に組みこまれていた転移魔法テレポートでお化け屋敷に送りだされた俺は、ノワールさんに抱きつかれていた。

 正面から抱きつかれているので、目の前は真っ暗だ。


「あのさ、ノワールさん。前が見えないんだけど……」

「私も見えないわ。目を閉じているもの」


 怖いのはわかるけど、これじゃあなにもできない。

 俺はノワールさんにお願いして退いてもらい、薄暗い室内を見まわした。


 これは……病院がモチーフなのかな?

 そこらじゅうに血まみれの機材が転がっていて、心療ベッドにはガイコツが倒れていた。


 一瞬魔王かと思ったけど、ここはお化け屋敷なのだ。

 ガイコツの1体や2体いても不思議はない。


「私はどうすればいいのかしら?」


 ノワールさんは怖いものを見てしまわないように薄目になり、俺に聞いてきた。

 だからこそ、ノワールさんは『これ』に気づいていないのだろう。


「ここに書いてある通りに行動すればいいんじゃないかな」


 壁にはでかでかと血文字でルールが書かれていたのだ。

 どうやら病院のどこかにひそむ悪霊を退治すればゲームクリアとなり、教室に転送されるらしい。

 悪霊退治の方法は、生前の正体を見抜くことだ。

 悪霊はシルエットとして現れ、その正体を言い当てることで消滅するのだとか。


「馬よ」


 ノワールさんは当てずっぽうでゲームクリアを狙う。


「仮に正解でも、悪霊の目の前で言わないと意味ないっぽいよ」

「残念だわ。……貴方が望むならリタイアしてもいいわ」


 入場券を破れば転移魔法が発動し、教室に戻れるのだ。


「俺はゴールを目指すよ」


 クラスの一員としてお化け屋敷のクオリティアップを手伝いたいし、なにより逃げたくない。

 ここで逃げれば、俺は精神的に成長できなくなるのだ。


「私もついていくわ」

「べつに怖いなら戻ってもいいんだけど」

「貴方と一緒なら怖くないわ」


 ノワールさんは俺の肩をぎゅっと掴み、きりっとした顔で言った。


「それじゃあ一緒に頑張ってみるか!」

「ええ。頑張るわ」


 ノワールさんが力強くうなずいたのを見て、俺はドアノブに手をかけた。


 ガチャリ……


 背後から聞こえた物音に振り返ると、ベッドに倒れていたガイコツが起き上がっていた。

 ドアノブに触れたら起き上がる仕組みだったのかな?


「倒すわ」


 ノワールさんが懐から魔法杖ウィザーズロッドを取りだした。

 氷槍アイスランスのルーンを描き始める。


「ちょ、待って! ここで魔法を使っちゃだめだって!」


 ノワールさんが魔法を使えば、お化け屋敷は壊滅状態になるだろう。

 文化祭まで1週間しかないのに破壊するわけにはいかない。


「破壊しなくても、ガイコツは襲ってこないって」


 このガイコツはエファたちが作ったものだし、この屋敷は文化祭の出し物なのだ。

 お客さんを襲うように作っているとは思えない。


 現に、ガイコツは起き上がったまま動こうとしないしな。

 突然起き上がって俺たちを驚かせることが、このガイコツの仕事なのだ。


「それを聞いて安心したわ」


 ノワールさんの顔色が少し良くなったところで、俺たちは部屋をあとにする。

 廊下に出ると、そこらじゅうに血だまりができていた。


「転んだら制服が汚れてしまうわ」

「お化け屋敷としての見栄えはいいけど、これはちょっと危ないかもね」


 びっくりさせるのが目的なら……血だまりじゃなくて、壁に血の手形をつけるとかどうかな?

 教室に戻ったらエファたちに伝えてみるか。


 そんなことを考えながら廊下を進み、角を曲がる。

 廊下の突き当たりに、大きな鏡が見えた。

 ……俺とノワールさんのうしろに、ゾンビが映っていた。


「「――!」」


 俺たちは同時にうしろを振り向く。


「……なにもいないわ」

「鏡のほうに仕掛けがあるのかな?」


 俺たちは再び正面を向く。


 目の前にゾンビが立っていた。


「う、わぁ……びっくりしたー……」


 まさかの二段構えに、俺の心臓はバクバク鳴っている。

 ゾンビはふらふらとした足取りで俺のとなりを素通りし、どこかへ歩き去っていった。


「いまのはびっくりしたね。……ノワールさん?」


 ノワールさんは立ち尽くしていた。

 膝ががくがく震えている。


「……貴方、トイレに行きたくない?」

「べつに行きたくはないけど……」

「そう。……早く教室に帰りたいわ」


 お化け屋敷としては大成功だろうけど、怯えるノワールさんを見ていると、かわいそうになってくる。

 さっさと悪霊を退治して教室に戻るとするか。


 通路を進んで角を曲がると、手術室にたどりついた。

 ……手術室かぁ。


「ぜったいになにかあるわ」


 ノワールさんが涙声でささやいてきた。

 俺もそう思うけど、ここまで一本道だった。

 ほかにドアはなかったし、ゴールするには手術室を通らないといけないのだろう。


 俺は手術室のドアを開けた。

 べったりと血のついたベッドに、腐乱死体が寝かされていた。

 腐った手足はベルトで固定されていて、その指先には鍵が引っかけてある。


 なるほどね。

 あの鍵がないとドアは開かないってことか。

 俺はルールに従って鍵を取った。


「ウヴァアアアア!!」


 瞬間、腐乱死体が暴れ出した。

 手足を拘束されているので起き上がれないみたいだけど、いまのはちょっと心臓に悪いな……。


 俺はドキドキしつつもドアを開け、手術室をあとにした。

 その後もどこからともなく聞こえてくる赤ちゃんの泣き声、悲鳴を上げる絵画、曲がり角から突然飛び出してきたガイコツ、壁の裂け目から手を伸ばしてくるゾンビなどに驚かされつつ、俺とノワールさんは通路を進んでいく。


「これ、どうしよっか?」


 俺はノワールさんに血のりがべっとりついた緑の風呂敷を見せる。

 風呂敷のなかには、バラバラになったガイコツが入っている。

 突然曲がり角から飛び出してきたので、びっくりして腕で払いのけてしまったのだ。

 その結果、バラバラに吹き飛んでしまったのである。


「接着魔法でつなげるといいわ」

「けど、明らかにパーツが足りないんだよな……」


 床に転がった骨を必死になって集めたけど、明らかに足りなかった。

 あばら骨は1本残らず粉々になったし、骨盤もない。

 無事なのは頭蓋骨と手足だけだ。


「それはそれで怖いわ」


 俺は頭蓋骨に手足がくっついている姿を想像してみる。

 ……たしかに、それはそれで不気味だな。

 あとでエファに頼んでパーツをくっつけてもらうとするか。


「――っと、ついに悪霊の部屋か」

「やっと帰れるわ」


 ドアにはご丁寧に『悪霊の部屋』と血文字で書いてあった。

 さっそく部屋に入ると、カーテンには『なにか』のシルエットが浮かんでいた。

 あのシルエットは――


「馬よ」


 ノワールさんの言葉によって、馬の悪霊は消滅したのだった。


評価、感想、ブックマークたいへん励みになります。

第2章も終わりに近づいてきました。

次話もなるべく早くお届けできるよう頑張ります!


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