レッドドラゴンなら12歳の頃に倒しました
ここ最近、俺は魔の森でとある魔物を血眼になって探す日々を送っていた。
一六歳になった俺は毎日のように師匠に『さすがに、そろそろ杖がほしいんだけど』と告げていたのだ。
お金はあるので買おうと思えば買えるのだが、師匠の許可なしに魔法杖を手に入れるわけにはいかない。
俺は師匠を尊敬しているし、なにより恩を感じているから。
理由はわからないが、俺は両親に捨てられた。
身寄りのない俺を、師匠は本当の息子のように愛し、育ててくれたのだ。
こうして一六歳になれたのも、モーリスじいちゃんのおかげなのである
そんな師匠が、先日俺に新たな課題を出した。
「この森のどこかにひそむ伝説の魔物レッドドラゴンを倒すことができたら、そのときはわしが最終試験をつけてやる」
「けど師匠、レッドドラゴンなら一二歳の頃に倒したぜ?」
俺がそう言うと、師匠はぎょっとした。
「そうじゃったっけ?」
「言ってなかったっけ? 師匠が町に出かけてたとき、《時空の歪み(アビスゲート)》が発生してね。森のなかにレッドドラゴンが現れたんだ。まあ、ワンパンで倒したけどさ」
「そ、そんな大事なことを、なぜいままで黙っていたのじゃ!?」
「え? いや、だってザコだったし、あえて話すまでもないかな、と」
「……さ、さすがはわしの弟子じゃな。まさか、一二の頃にわしを超えておったとは」
「冗談きついよ。レッドドラゴンを倒した程度で、師匠を超えるなんてあるわけないじゃないか。……にしても、あれって伝説の魔物だったんだね。てことは最終試験をつけてくれるってこと?」
「ああ、いや……ちょっと間違えたのじゃ。アッシュに倒してもらうのは伝説の伝説と呼ばれる魔物……その名も……ええと……《伝説の伝説の魔物》じゃ」
師匠はとってつけたような名前を口にする。
「そいつは魔の森に棲んでるの?」
「う、うむ。そういう言い伝えがあるのじゃ。そいつを倒すことができたら、最終試験をつけてやるのじゃ」
「わかったよ! 俺、そいつを倒してみせるよ!」
……と、まあ。
そんなやり取りから一ヶ月が経ったのだが、《伝説の伝説の魔物》が見つかる気配はなかった。
「さすがは伝説の伝説だぜ」
そうこうしているうちに日が暮れてきた。
食事の準備は俺の仕事だ。
そろそろ戻って夕食の準備に取りかからないと。
俺は住み慣れた我が家へと帰還する。
拓けた場所に出ると、家の前に師匠が立っていた。
俺に気づくと、師匠は深刻そうな顔で近づいてくる。
「どうしたの、師匠? 《伝説の伝説の魔物》なら見つからなかったよ?」
師匠は迷うように目を伏せたあと、震える声でこう言った。
「じゃろうな。そんな魔物、この世に存在しないのじゃからな」
「それくらい珍しいってことだね? わかってるよ」
「良い子すぎるじゃろ!」
「ど、どうしたの師匠?」
「両親に捨てられ、普通なら性格が歪み、不良になってしまってもしかたがないというのに、なんでそんなに良い子になってしまったのじゃ!?」
「師匠の育て方がよかったんだよ」
「良い子すぎるじゃろ! なぜわしを褒めるのじゃ!」
「師匠が立派な人間だからさ」
「あぁあああああああ!!」
師匠は地面に膝をつき、
「良心が痛い!!」
思いきり叫んだ。
「どうしたの、師匠? 気分が悪いならベッドまで運ぶよ? そして、温かくて身体に優しい食べ物を食べさせてあげるよ?」
「わしを殺す気か!?」
くわっと目を見開く師匠。
ほんと、今日の師匠は様子が変だ。
いったいどうしてしまったんだ?
心配する俺をよそに、師匠はよろよろと起き上がった。
「いいじゃろう。最終試験をつけてやるのじゃ」
次話は昼頃更新します。