魔王の密会です
その日、ひとつの世界が滅んだ。
『フハハハハハハ! 水だ! 水だ! 水の時代の幕開けだ!!』
青いマントを羽織ったガイコツ――《水の帝王》は哄笑を上げていた。
大空に舞う《水の帝王》の眼下には、水没した世界が広がっている。
つい先日まで平和な暮らしが営まれていた大陸は、いまとなっては水の底だ。
自然災害によって滅んだのではない。
魔王の手によって沈められたのである。
『我の創る水の時代に生物はいらぬ!』
世界が水の底に沈んでも、水棲生物は生き延びる。
魔王はそれが許せなかった。
だからこそ、魔王は毒の雨を降らせたのだ。
あらゆるものを死に至らしめる《毒雨》によって、この世界の生物は完全に死に絶えたのである。
『あいかわらず悪趣味じゃのぅ――《水の帝王》よ』
ガチャガチャと歯を鳴らして悦に浸っていると、頭のなかにしわがれた声が響いた。
振り返ると、そこには赤いマントを羽織ったガイコツが浮いていた。
『ひさしいな――《炎の帝王》よ。我と決着をつけに来たのか?』
およそ2000年ぶりに再会する《炎の帝王》に、《水の帝王》は悪態をつく。
『否。わしと貴様とでは勝負にならぬじゃろう』
『くくくっ。確かに貴様の言う通りだ』
そう言って、《水の帝王》は愉快そうに歯を鳴らした。
べつに《炎の帝王》の実力を認めているわけではない。
ただ、水と炎とでは相性が悪すぎて決着がつかないのだ。
『して。我と勝負しに来たのではないとなると――貴様はなにしに来たのだ?』
『脳を失い、記憶まで失ってしもうたのか? 再会の時がすぐそこまで迫っておるのじゃ』
『フハハハハ! そうであったな! 水の時代を創るのに夢中で、すっかり忘れておったわ!』
だが、と《水の帝王》は言葉を続ける。
『再会の時を待たずとも、我が新たな序列1位となることは明白だ。なにせ我は15000もの水の時代を生み出したのだからな!』
その報告に、《炎の帝王》は愉快そうに歯を鳴らした。
『残念じゃな。わしも15000の炎の時代を生み出したのじゃよ』
『……なに?』
『さらに残念な報告じゃ。《光の帝王》は15500じゃよ』
その報せに、《水の帝王》は忌々しげに奥歯を噛みしめた。
『序列通りの順位だというのか……!』
『そうでもないのじゃ。《風の帝王》は100未満だと聞いておるでな』
『バカな! あの《風の帝王》がか!?』
驚いたものの、《風の帝王》の性格を考えれば納得がいく。
最凶の魔王こと《風の帝王》は、時代創りにとあるこだわりを持っているのだから。
『くくくっ、《風の帝王》に目をつけられた世界は不運極まりないな。どうせ滅びる運命なら、我の手にかかったほうが楽に死ねただろうに』
あらゆる生物を等しく殺す《水の帝王》と違い、《風の帝王》は女と子どもしか殺さない。
そのため《風の帝王》が降臨した世界は男だけになり、繁殖ができずにゆっくりと滅んでいくのである。
『さて、本題に入らせてもらうのじゃ』
と、《炎の帝王》はあらたまった口調で言った。
『再会の時まであと2ヶ月――。わしと貴様が協力して時代を創れば、《光の帝王》の記録を抜くことができるのじゃ』
『同列1位になれと言うのか?』
その問いに、《炎の帝王》はうなずいた。
『あの忌々しい《光の帝王》に取りこまれるほうが嫌じゃろう? 同列1位ならば、我々が素体になれるのじゃ。すべてを奪われるよりは、マシじゃと思うがのぅ』
『……よかろう。宿敵である我と貴様が手を組めば、《光の帝王》などザコに過ぎぬ!』
交渉が成立し、《炎の帝王》はガチャガチャと歯を鳴らした。
『では急がねばな。こんな世界に用はなかろう。次なる世界へと移るのじゃ』
そうして魔王は《世界移動》を発動させ、次なる世界へと移るのだった。
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