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勇者の弟子が揃いました

 文化祭の出し物が決まって10日が過ぎた。

 授業時間を利用して文化祭の準備をしていた俺は、アイちゃんに呼び出されて学院長室へと向かっていた。


 フィリップ学院長とコロンさんの弟子が到着したらしいのだ。


「アイちゃんはフィリップ学院長からどこまで聞かされてるんですか?」


 俺は廊下を歩きつつアイちゃんにたずねた。

 魔王の群れが押し寄せる《終末のラグナロク》は極秘扱いだ。

 実の娘だろうと、フィリップ学院長は秘密にしているかもしれない。


「先日、すべて聞かされましたわ。それからというもの、生きた心地がしませんの」


 アイちゃんはエルシュタット魔法騎士団の総長だ。

 もしものときに迅速な指示を出せるように、話を聞かされていたのだろう。


「ですが、わたくしが怯えるわけにはいきませんわ。姫として、総長として、常に堂々としていなければ……でないと、みんなを不安にさせてしまいますものね」


 アイちゃんが力強く宣言したところで、学院長室に到着する。


 学院長室には、ふたりの女性がいた。


「やあ、きみがアッシュくんかい!? それともアッシュちゃんかな!?」


 そのうちのひとり。

 ショートカットのお姉さんが、にこにこ笑いながら話しかけてきた。


「はじめまして。モーリスじいちゃんの弟子の、アッシュです。こんな格好してますけど、男です。ええと、あなたは……」


「僕はキュール! こんな見た目だけど女だよ! 趣味は遺跡巡りさ! きみも一緒に巡らないかい!?」


 キュールってことは……このひとがフィリップ学院長の弟子か。

 タイプ的にはフェルミナさんに似てるかな?

 すごく気さくそうなひとだし、すぐに打ち解けられそうだ。


「遺跡にも興味がありますけど、その前に……」


 俺は床に座りこんでいる長髪のお姉さんを見る。


「シャルムさんですか?」


 いわゆるゴスロリな格好をしたお姉さんは、大きなくまのある目で俺を見てきた。


「ああ……。吾輩はシャルムだよ」


 シャルムさんは気怠げだ。

 長旅で疲れてるのかな?

 キュールさんはともかく、シャルムさんとは俺のほうから積極的に接しないと打ち解けられそうにないな。


「シャルムさんって、お仕事はなにをされてるんですか?」


 仲良くなるため、俺は話題を振ってみた。


「……吾輩は無職だよ」

「だったら僕と遺跡巡りしない!?」

「却下だよ! さっきも断ったはずだがね」

「心変わりしているかもと思ったのさ!」

「吾輩のモットーは初志貫徹なのだよ!」


 シャルムさんは叫び、げほげほと咳きこんだ。


「シャルムさんって無職なんですか?」

「な、なぜ二度も言わせるのだね!? 遺跡巡りだって仕事とは言えないだろうに……!」


 シャルムさんが悔しげにうなると、キュールさんがお腹を抱えて笑いだした。


「あははっ! たしかに僕は無職さ! だけど毎日が充実してるよ! どうだい、シャルムくんも一緒に遺跡を巡ろうじゃないか!」


 三度勧誘され、シャルムさんは深々とため息をつく。


「吾輩は働きたくないのだよ。死ぬまでお家でごろごろしていたいのさ」

「ごろごろ……ですか? だけどシャルムさんって、壮大な夢の実現に向けて毎日お家で計画を練ってるんですよね?」

「ど、どこ情報だねそれはっ!」 

「コロンさんが言ってましたよ」


 シャルムさんは頭を抱えた。


「師匠は吾輩を高く評価しすぎなのだよ……。昔から口を開けば『シャルムはすごいわ』『シャルムは将来英雄になるのよね』と期待してきて……。吾輩はプレッシャーで不眠症になってしまってね。自作の睡眠薬を飲まねば眠れなくなってしまったのだよ」


 それでくまができているのか……。

 俺は師匠に『まだまだ未熟』と言われ続けてきたけど、コロンさんは褒めて伸ばす方針だったようだ。

 まあ、コロンさんが叱ってるところとか想像できないんだけど。


「そういうときこそ遺跡巡りさ!」

「きみは吾輩になにか恨みでもあるのかね!?」

「だけど、たしかにキュールさんの言う通りですね。せっかく闇魔法を極めたんですから使いましょうよ!」


 シャルムさんはため息をつく。


「吾輩が闇魔法を極めたのは、将来的に楽するためなのだよ。やろうと思えばいつでもお金を稼げるのでね。昔頑張ったぶん、いまはごろごろしたいのさ」


 楽するためだろうとなんだろうと、努力したことに変わりはない。

 闇魔法を極めることができたのだから、シャルムさんは死に物狂いで努力したのだろう。


 いったいどんな努力をしたのか。

 魔法使いを目指す身としては修行内容が気になるところだけど、そろそろ本題に入ったほうがいいだろう。

 ……けど、なにから話せばいいのかな?


「話をスムーズに進めるためにも、まずはリーダーを決めないかい?」

「いいですね。問題は誰がリーダーになるかですけど……」

「そりゃもちろん一番強い人物がなるべきさ」

「どうやって決めるのだね? 吾輩は面倒……よけいな争いは避けたいのだが」

「それなら心配いらないさ。戦わなくても、すでに最強は決まっているからね!」


 キュールさんはそう言って、俺を指さした。



「アッシュくん。きみが人類最強さ!!」



「どうしてそう思うんですか?」

「僕には他人の力がわかるのさ! これがあるからね!」


 キュールさんは懐から大陸が描かれた地図を取りだした。

 大陸には一つの青点と五つの赤点が記されている。

 キュールさんがエルシュタニアに触れると、地図が拡大された。


「ここに青点と赤点があるよね。この青がシャルムくんで、赤がアッシュくんなのさ」

「どう違うんですか?」

「青は僕と同じくらい、赤は僕より強い生物を意味しているのさ!」


 キュールさんの言う『強い』ってのは『魔力量』ではなく『戦闘力』を意味してるんだろう。

 じゃなきゃ、魔力のない俺が赤ってことはありえないしな。


「これ、なんていう魔法ですか?」


 こんな魔法があるなんて、どの本にも書かれていなかった。


「これは僕が発見した魔法なのさ。といっても、遺跡にあった石碑を解読しただけなんだけどね」

「遺跡って、そんなものがあるんですか!?」


 遺跡には魔法のことが記された石碑が存在しているらしい。

 もしかすると魔力を獲得する方法についても書かれているかもしれないのだ。


「俺、遺跡に行ってみたいです!」

「本当かい!? 嬉しいよ! 実はきみの力を借りたいと思っていたところなのさ!」


 そう言って、キュールさんは地図を縮小させた。

 大陸の東西南北――遺跡のある位置に、計四つの赤点があった。


「これって……遺跡にキュールさんより強い『なにか』がいるってことですか?」

「うん。つまり遺跡の調査は命懸けなのさ」


 だからこそ、俺の力を借りたいわけか。


「もっとも、その『なにか』は強力な結界が張られた壁の向こうに封印されているけどね」


 キュールさんの話では、その『なにか』を封印している壁には解読不能の文字が記されているらしい。

 その文字を解読して遺跡の謎を解き明かすのが、キュールさんの夢なのだとか。


「石碑を解読できたってことは、壁の文字も読めるんじゃないですか?」

「一部だけね。僕が読めたのは、遙か昔にノワールという魔法使いが『なにか』を封印した、ということだけさ」


 肝心な『なにか』の正体はわからないってことか。

 それにしても、ノワールか……。

 遙か昔の話なのでノワールさんとは関係ないだろうけど、知り合いの名前が登場してちょっと驚いた。


「それで、リーダー。吾輩たちはどうすればいいのかね?」


 と、シャルムさんが気怠げに聞いてくる。


 これからどうするか、か……。

 キュールさんの地図があれば魔王の降臨先は特定できるし、あえて担当地区を決める必要はなさそうだ。

 魔王が現れたら瞬間移動を使えるキュールさんに足止めしてもらい、俺が全力疾走で現場に急行。シャルムさんには怪我人のために薬を用意してもらう。

 いまのところ、これがベストだと思う。


「魔王が現れるまでは、自由時間ということにしましょう」


 俺の言葉に、シャルムさんは嬉しそうに顔を輝かせた。


「きみがリーダーでよかったよ! 一歩間違えれば、魔王が現れるまで遺跡巡りをしようと提案されるところだった」

「そこまで空気読めなくないさ!」

「自分の言動を振り返ってみたまえ!」

「遺跡巡りは魔王を倒してからにするさ。それに、アイナ様に臨時講師になってほしいと頼まれたからね。個人的にも将来有望な調査団員を見つけたいし、引き受けたのさ」

「本当ですか!?」

「うん。ちなみに、シャルムくんも臨時講師を引き受けていたよ」

「ほ、ほんとは働きたくないのだがね。働いたら師匠が安心するし……そ、それに生活費がなくなってきたのでね」


 キュールさんとシャルムさんの授業か……。

 ふたりとも大魔法使いだし、どんな授業をしてくれるのか楽しみだ!

 俺は心からそう思うのだった。

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