ガイコツなら平気です
魔王を倒して3日が過ぎた。
この日、俺は教室で焦りを感じていた。
「それでは文化祭の出し物は『お化け屋敷』でいいですね? ほかになにか案がある方は挙手を願います」
クラス委員長が教室を見まわしながら確認する。
1ヶ月後の文化祭に向けて、クラスの出し物を決めているところだった。
ここは世界最高峰の教育機関だけど、一年中勉強漬けというわけではない。
勉強しすぎると疲れが溜まってしまうため、たまにこうした息抜き行事が開催されるのだ。
俺が編入する少し前には、体育祭とか修学旅行が催されたらしい。
期日が迫れば放課後も文化祭の準備に費やすことになるだろうけど、基本的には授業時間を利用するため試験勉強の妨げにはならない。
気分をリフレッシュして昇級試験に臨めるという意味でも、文化祭はいい息抜きになるはずだ。
……だけど、ちょっと待ってほしい。
俺は、お化けが苦手なんだよ!
見た目ガイコツの魔王だってお化けみたいなものだけど、あれは殴れば消滅するので怖くない。
けどお化けは――幽霊は違う。
霊体は、殴ろうにも殴れないのだ。
そんなわけで、俺はお化けに苦手意識を持っている。
お化け屋敷などもってのほかだ。
「お化け屋敷楽しみだねっ!」
俺が反対意見を唱える寸前、フェルミナさんが先手を打ってきた。
「フェルミナさんは、お化け屋敷が好きなのか?」
「好きじゃないよ」
「だったら――」
「好きじゃなくて大好きなんだよ!」
「……」
キラキラと目を輝かせてお化け大好きアピールをするフェルミナさんに、俺は言葉を失ってしまった。
「おおっ、気が合うっすね! わたしもお化け屋敷は大好きっすよ! だってドキドキするっすもん!」
「さっすがエファちゃん、わかってるねっ! そこがお化け屋敷のいいところなんだよねっ!」
「日常生活であんなにドキドキすることって滅多にないっすからね!」
「うんうんっ。ああいうドキドキって、魔物と対峙したときのドキドキに似てると思うんだよねっ! つまりお化け屋敷で平常心を保つことは、強くなるための修行になるんだよっ!」
フェルミナさんの持論に、クラスメイトたちは同意するようにうなずいている。
俺は魔物と遭遇してもドキドキしたりしないけど……フェルミナさんの持論には説得力があった。
だとすると『お化けが苦手』という子どもじみた理由で反対するのはやめたほうがよさそうだな。
「……ん?」
ちょんちょん、と背中をつつかれ、俺はうしろの席を振り向いた。
「どうしたんだノワールさん? ……ノワールさん?」
ノワールさんは顔を真っ青にして、『いやいや』と首を横に振っている。
……もしかして。
「ノワールさん、お化け屋敷が苦手なのか?」
ノワールさんはこくこくうなずく。
「お化けは倒せないわ」
俺と同じ理由で苦手なのか……。
「だけど、反対できる雰囲気ではないわ」
「だな」
すでにクラスメイトの心は一つだ。
いまさら俺とノワールさんが反対したところで、お化け屋敷は覆らないだろう。
「まあでも、そこまで怖がらなくてもいいと思うけどな」
「なぜ?」
「ほら、俺たちは驚かせる側だろ?」
そう。クラスの企画ってことは、俺たちは驚かせる側なのだ。
俺とノワールさんが客として――驚かされる側としてお化け屋敷に乗りこむことは絶対にないのである!
「たしかにそうだわ」
ノワールさんの顔色がみるみるうちによくなっていく。
「アッシュくんとノワちゃんもお化け屋敷に賛成だよねっ!?」
フェルミナさんが賛同を求めてきた。
俺はお化けが苦手だけど……苦手意識があるということは、精神的に成長するチャンスってことだ。
3歳児でいられる時間も2ヶ月半を切っているし、ちょっと焦りを感じ始めていたところである。
お化け屋敷は、魔王以上に期待が持てる。
このチャンスを逃す手はないのだ。
「俺、お化け屋敷に賛成するよ」
「さっすがアッシュくんっ! ノワちゃんはどうかなっ?」
「私は驚かせる側だわ」
「おおっ、乗り気だねっ!」
俺とノワールさんの意見を受け、クラス委員長はパンパンと手を叩いた。
「それでは満場一致により、二年A組の出し物は『お化け屋敷』に決定です!」
そうしてクラスの出し物が決まった。
魔力斑が浮かぶチャンスの到来に、俺は希望を抱くのだった。
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