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これからの話をします

 魔王が木っ端微塵になったあと――。


「迷惑かけてすまんのぅ。もう平気じゃよ」

「お、おかげで魔力もそこそこ回復してきたわ……」

「アッシュくんには本当に世話になるね」


 魔王との戦いで衰弱していた師匠たちが回復し、俺は胸を撫で下ろす。


「本当によかったです。あっ、すぐに夕飯作ります」

「そ、そこまでしてくれなくていいのよ……。夕飯なら、あとで私が作るわ」

「それにアッシュよ、明日は学校じゃろ? 早めに戻って、ゆっくり寝て、今日の疲れを落としたほうがいいのではないか?」


 魔王との戦いから5時間は経っている。

 いまから出ても、学院にたどりつくのは明朝だ。

 どうせ1、2時間しか寝られないなら、徹夜してでも師匠たちと話をしたい。


「平気だよ。ちっとも疲れてないからね」

「一応、魔王と戦ったあとなんだけどね……」


 フィリップ学院長は戸惑っているけど、俺だって戸惑っている。

 まさか一歩も動かずに魔王を倒せるとは思わなかったし、あれでは疲れようがないのだ。


「食事はわしらでなんとかする。それより、アッシュに大事な話があるのじゃ」

「大事な話……?」

「うむ。わしらは《終末のラグナロク》と呼んでおるのじゃが、実は――」


 師匠は真剣な顔で、俺に話を聞かせてくれた。

 師匠の話を要約すると『近々魔王が一斉に押し寄せてくるかもしれない』というものだった。

 フィリップ学院長の推測通りなら、残りの魔王は4体らしい。


 どうせ来るならまとめてかかってきてくれたほうが手間がかからずに済むので、どちらかというと《終末の日》は俺にとってありがたい情報だった。


 問題は『魔王がいつ、どこに降臨するか』だ。

 いままでは偶然が重なって魔王と鉢合わせていたけど、これから先もそうなるとは限らないのだ。


「――というわけで、アッシュにはフィリップとコロンの弟子に会ってほしいのじゃ」

「そして担当地区を決めてほしいのさ」


 いつどこに魔王が現れても迅速に対処できるように、あらかじめ守備範囲を決めておいてほしいってことか。


 それなら俺はエルシュタット王国を担当したいんだけど……あとのふたりって、どこに住んでるのかな?


「お弟子さんたちは、どこにいるんですか?」

「わ、私の弟子――シャルムは、ライン王国にいるわ」


 ライン王国は、エルシュタット王国の隣国だ。

 この森からだと、走って半日はかかるほどの距離である。


「私の弟子――キュールは遺跡巡りをしていてね。いまどこにいるのかはわからないよ」

「遺跡って……大陸の東西南北にある、あの遺跡ですか?」


 大陸の東端、西端、南端、北端には遺跡があると本に書いてあった。

 この森と同じくらい《時空の歪み(アビスゲート)》発生率が高いらしいので、遺跡調査はほとんどされていないらしい。

 けどまあ、フィリップ学院長の弟子くらいになれば魔物なんてたいした脅威じゃないんだろうな。


「よく知っているね。キュールは昔から良くも悪くも好奇心旺盛でね。ここ数年は遺跡にご執心なのさ」

「なるほど。つまりキュールさんに会うためには、遺跡に行かなきゃいけないってことですか?」


 フィリップ学院長は首を横に振った。


「キュールは瞬間移動を使えるからね。事前に集合日時を伝えておけば、向こうから来てくれるよ。要するにコロンの弟子しだいってわけさ」

「なるほど。シャルムさんはなにかお仕事とかされてるんですか?」


 俺がたずねると、コロンさんはびくっと震えた。


「お、お仕事というか、シャルムは無しょ……い、いえ、壮大な夢の実現に向けて毎日お家で計画を練っているわ。た、たぶん忙しい……と思うけど、誘いには応じるわ」


 シャルムさんの壮大な夢ってなんだろ。

 想像もつかないけど……コロンさんの弟子だし、薬の力で世界中から病による苦しみをなくすとかかな?

 キュールさんといい、シャルムさんといい、いろいろとためになる話が聞けそうだ。


「シャルムは瞬間移動を使えないから……準備期間を含めて、エルシュタニアまで10日はかかると思うわ」

「だったら、キュールには2週間後にエルシュタット学院の学院長室に来てほしいと伝えておくよ。アイナにもそう伝えておくからね」


 キュールさんとシャルムさんが来たら、アイちゃんが報せてくれるってわけか。

 俺はふたりの顔を知らないし、そうしてくれると助かる。


「ところで、フィリップ学院長は学院に戻らないんですか?」

「わしらはしばらく冒険の旅に出るのじゃ」


 と、師匠が言った。


「冒険の旅?」

「うむ。アッシュの魔法杖ウィザーズロッドを作るために、世界を巡って硬い素材を探すのじゃよ」


 俺の魔法杖って、《土の帝王アース・ロード》を倒した褒美のことだよな。

 まさかここまで壮大な話になっているとは思わなかった……。


「俺、なんとしてでも魔力を手に入れてみせるよ!」


 師匠たちにここまでしてもらったんだ、魔力を手に入れないわけにはいかない。


「アッシュくんは努力家だからね。いつかきっと魔力を手にする日が来るさ」

「はいっ。……あと、ひとつ聞きたいことがあるんですけど」

「なんだい?」



「リングラントさんって、いまどうしてますか?」



 リングラントさんには、ノワールさんの前世の記憶を消した疑惑がかかっているのだ。


「小石をゴーレムだと思いこんでいるよ」


 最後に会ったときのままってわけか。


「まあ、最近小石で遊ぶ回数も減ってきたらしいからね。じきに正気に戻るんじゃないかな。リングラントは刑務所にいるから、なにか用があるなら面会するといいよ。刑務所のほうには、私から連絡しておくからね」

「わかりました」


 と、それから俺は師匠たちと夕飯を食べ、名残惜しく思いつつも『魔の森』をあとにしたのであった。


今回の話で2章の前半は終了となります。

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