新たなる魔王です
夕日に染まる『魔の森』にて――。
「な、なにをしているの……?」
モーリス宅に到着したコロンは、困惑顔を浮かべていた。
床という床に、へし折れた魔法杖が転がっていたのだ。
「やあ、コロン。思ったより早かったね」
「これで全員集合じゃな……ふんっ!」
と、モーリスが魔法杖をへし折った。
「だいぶマシになってきたが、半分以下の力で折れてしまったぞい」
「硬化魔法をかけたんだけど、それだけじゃ足りないみたいだね」
「こうなってくると素材の問題ではないか? もっと硬い素材で作らねば時間の無駄じゃと思うぞ」
「しかしアッシュくんは12歳の頃にレッドドラゴンを倒したんだろう? あの鱗より硬い素材は見つからないよ」
「困ったのぅ……」
「わ、私も話に参加したいわ……!」
蚊帳の外だったコロンは、床に座りこんでいるふたりのあいだに割って入った。
「アッシュくんは《闇の帝王》に続き、《土の帝王》を倒してくれたのさ。そのお礼に『絶対に壊れない魔法杖』をプレゼントすることになってね」
「じゃが、結果はご覧の有様じゃ」
そう言って、モーリスとフィリップはため息をついた。
コロンはぽかんとする。
「ちょ、ちょっと待って……。《土の帝王》が現れたの……?」
「うむ。わしも先日聞かされたのじゃが、10日ほど前――アッシュがお前さんの薬で3歳児になった日に降臨したらしいのじゃ」
「アッシュくんがいなければ、いまごろ人類は土になっていたところだよ。もっとも、これは終わりの始まりに過ぎないけどね」
ふたりの話に、コロンはびくびくと震えた。
「あ、新たな魔王が降臨したということは……《終末の日》は、すぐそこまで迫ってきているのね?」
フィリップはうなずき、真剣な顔でふたりを見まわす。
「ふたりとも覚えているだろう? 《闇の帝王》が死の間際に『近々魔王が集結し、人類を根絶やしにする。せいぜいつかの間の平穏を楽しむがいい』と言い残したことを」
《闇の帝王》が闇魔法に秀でていたことから、フィリップは『魔王は魔法系統の数(7つ)だけ存在する』と推測した。
そして先日《土の帝王》が降臨したことで、フィリップの推測は現実味を帯びたのだ。
1体でも手こずったのに、残る魔王が一斉に、あるいは次々と押し寄せてきたのでは、人類は滅んでしまう。
かといって、《闇の帝王》の捨て台詞を大々的に発表すれば、せっかく訪れた平穏を壊すことになる。
そこで《闇の帝王》の捨て台詞を耳にした勇者一行の創立メンバーは、『魔王が集結する日』を《終末の日》と称し、秘密裏に対策を講じることにした。
その対策というのは――『自分より強い弟子を育てること』だった。
とはいえモーリス、フィリップ、コロンの3人は世界最強だ。
それより強い弟子を見つけるのは難しく、最初の弟子を見つけたときには魔王討伐から50年近い月日が流れていた。
「弟子を探すのに苦労したが、わしの目に狂いはなかった。たった11年で、アッシュは世界最強の武闘家になってみせたのじゃ!」
「たしかにアッシュくんは強すぎるけど、私の弟子も負けてないよ。11年前――学院に推薦入学させた頃には、すでに私を超えていたからね」
「わ、私の弟子だって、15歳の頃には闇魔法を極めていたわ。薬師としても一流だし、アッシュくんにも後れを取らない……と思うわ」
モーリスがアッシュを褒めた途端、フィリップとコロンが対抗心を燃やしてきた。
モーリスはぎりぎりと歯ぎしりをする。
「アッシュは強いうえに良い子なのじゃ! なにせ毎年わしの誕生日を祝ってくれるのじゃぞ!? つまりアッシュこそ最も――」
キィィィィィィィン!!!!
なんの前触れもなく甲高い音が響き渡り、モーリスたちはびくっとした。
「ま、まさか魔王が現れた……とかではないわよね?」
コロンが最悪のケースを口にする。
実際に《闇の帝王》が降臨したこともある場所なので、その可能性は否定できない。
「……この森には頻繁に《時空の歪み(アビスゲート)》が発生するのじゃ。きっとただの魔物じゃよ」
モーリスはコロンを安心させるような口調で言った。
「とにかく外に出てみないかい?」
「じゃな」
モーリスたちは緊張の面持ちで家の外に出る。
パキィィィィィィン!!!!
10メートルほど向こうで空間が割れ、そこから1体の魔物が姿を見せた。
それは――黄色いマントを羽織ったガイコツであった。
おかげさまで200万PVを突破することができました!
評価、感想、ブックマークたいへん励みになっております!
次話もなるべく早くお届けできるよう頑張ります!




