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彼女にも前世があるはずです

 3歳児になって10日が過ぎた日の放課後。

 学院の広場にて、俺はエファに稽古をつけていた。


「よしっ、最後に今日のおさらいだ。エファ、今日教えたことをやってみてくれ」


 稽古を始めて1時間くらいしか経ってないけど、最近は日が暮れるのが早くなってきた。

 暗いなかで稽古をすればエファが怪我してしまうかもしれないため、早めに切り上げることにしたのだ。


「こうして、こうして、こうっすね!?」


 エファは右パンチ、左パンチ、ハイキックをして、すてんと転ぶ。

 最後はしりもちをついてしまったけど、最初に比べれば遙かに改善されている。

 あの頃のエファは、屈伸しながら正拳突きしてたもんなぁ……。


「ちゃんと成長してるな。偉いぞ」

「ほんとっすか!? やったぁ!」


 エファは嬉しそうにぴょんぴょん跳びはねる。

 弟子の成長を見るのは、自分のことのように嬉しかった。


 一方で、俺は成長していない。

 こうしてお姫様みたいな格好をしてるってのに、魔力斑スティーゲルは浮かばないのだ。

 こうなったら最終兵器ぱんつを使うしかないんだけど……まあ、あまり期待しないほうがいいかもな。

 羞恥心を克服する以外の方法で、精神的成長を促そう。


「それでは師匠、また明日もよろしくお願いするっす!」

「あぁ、悪い。明日はちょっと用事があるんだ」

「どこかにお出かけするんすか?」

「まあな。ほら、明日は休みだろ? 午前中は買い物して、午後は師匠の家に行こうと思ってるんだ」


 明日は師匠の誕生日なのだ。

 ここから『魔の森』までは1000㎞以上離れてるけど、師匠の誕生日を祝うためなら、たとえ世界の裏側だろうと駆けつけてみせる。


「お邪魔でなければ、わたしも買い物にお付き合いしたいっす。そろそろ妹たちのお土産を買っておきたいっすからね」

「んじゃ、明日はふたりで買い物だな。集合時間は――」


 そうして明日の予定を立てたあと、俺は図書館へと向かった。


     ◆


 図書館に到着すると、ノワールさんが机に教科書を広げていた。


「遅いわ」

「ごめんごめん。ちょっとエファと話してたんだ」


 俺はノワールさんのとなりに腰かける。


「私は賢くなりたいわ。アッシュだけが頼りなのよ」


 ノワールさんは切実そうに語る。

 ここ最近、俺はノワールさんに勉強を教えてやっていた。

 というのも、昇級試験まで残り3ヶ月を切っているのだ。


 次の昇級試験の結果によって、3年生のクラスが決まる。

 ノワールさんはどうしても上級クラスを維持したいらしく、筆記試験でいい点数を取るために、俺に勉強を教えてほしいと頼んできたのだ。

 ノワールさんいわく、目標は30点である。


「今日の勉強を始める前に、まずは昨日の復習だ。ノワールさん、昨日教えたルーンを描いてみてよ」

「やってみるわ」


 ノワールさんは意気込み、ノートにルーンを10個描いた。


「できたわ」

「おおっ、早いな。どれどれ……」

「どうかしら?」


 じっと見つめてくるノワールさんに、俺は首を振った。


「全部不正解なんだけど……」

「残念だわ。正解が気になるわ」

「ああ、うん。正解はこうだよ」


 俺はノートに正しいルーンを描いていく。


「……違いがわからないわ」

「そうか? ほら、このルーンとか全然違うだろ」


 ノワールさんは正しいルーンと間違ったルーンを見比べたあと、こくりとうなずいた。


「全然違うわ。……自信なくすわ」

「だいじょうぶ。まだ3ヶ月あるしなんとかなるよっ」

「やっぱりアッシュは頼りになるわ。……だけど、ちょっと疲れたわ」

「まだ5分も経ってないんだけど……」


 とはいえ、ノワールさんが疲れたと言うのなら休んだほうがいいだろう。

 頭が働かない状態で勉強したって、時間の無駄だしな。



「そういえば、ノワールさんって前世の記憶とか持ってたりする?」



 休憩がてら、俺はたずねた。

 コロンさんいわく、魔力斑が浮かばなかったひとには前世の記憶があるらしいのだ。

 コロンさんの持論が正しければ、ノワールさんにも前世の記憶があるはずである。


「そんな記憶はないわ」

「そっか……」


 前世の記憶は成長するにつれて薄れていく。

 コロンさんの持論が正しければ、ノワールさんは前世の記憶を忘れてしまったんだろう。


「変な質問して悪かったな」

「構わないわ。だって、その質問をされたのは二度目だもの」


 ノワールさんの言葉に、俺は首をかしげた。


「二度目? もしかして、一度目はコロンさんだったりする?」


 コロンさんは前世の記憶を持ってるひとに2回会ったと言っていた。

 そのうちの1人が、ノワールさんだったのかもしれない。


「違うわ。リングラントよ」


 リングラントさんは世界最強の魔法使いを生み出すために、いろいろな研究をしていたらしい。

 その過程で、コロンさんと同じ持論にたどりついたのかもしれない。


「リングラントさんも俺と同じ質問をしてたのか?」


 ノワールさんは、こくりとうなずく。


「『前世の記憶は残っているか?』と聞かれたわ」

「残っているか……?」


 それは俺の質問と似ているようで、まったく異なるものだった。

 残っているかって、まるで記憶を消したみたいな言い方じゃないか。


「疲れが取れたわ」


 ノワールさんはペンを握り、きりっとした顔で俺を見つめる。

 リングラントさんの質問も気になるけど……いろいろ考えるのは、また今度にするか。

 いまはノワールさんの教師役に専念しよう。


「じゃあ、さっそく復習だ。さっき間違えたルーンを全部描いてくれ」

「わかったわ。………………できたわ」


 ……全部間違っていた。

 ノワールさんに30点を取らせるのは、思っていた以上に難しそうである。



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