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泥遊びは卒業しました

 エルシュタニアへの帰り道にて。

 

 山の斜面を走っていると、足がもつれて転んでしまった。


 いつもは転んだりしないけど、いまの俺は3歳児だ。

 短い手足に慣れてないので、バランスを崩してしまったのだ。


 ごろごろごろごろごろごろ。

 俺は山の斜面を猛スピードで転がっていく。


 すぐに立ち上がることもできるけど、いまの俺は精神年齢3歳だ。

 こうやって転がってるのがアトラクションみたいで楽しいのだ。


 しばらく転がっていると、平坦な場所に出たのかスピードが落ちてきた。


 ころころころ……ぽてん。


 回転が止まったので、俺は立ち上がる。

 三半規管は強いほうなので、酔いは特になかった。

 問題があるとすれば、服だ。


「あーあ。服が汚れちゃったよ……」


 せっかくコロンさんがくれたのに……なに子どもみたいなことやってんだ、俺。

 いい歳なんだし、泥遊びは卒業しないとな。


「これって、精神的に成長したってことかな?」


 もしかしたら魔力斑スティーゲルが浮かんだかもしれない。

 確認したいけど、魔力斑はお尻に浮かぶのだ。

 自力での確認は難しいし、学院に戻って確かめるか。


「き、きみ! ここは危険であります! いますぐ逃げるであります!」


 走り出そうとしたところ、うしろから呼び止められた。

 振り向くと、銀髪の女性が駆け寄ってきた。

 俺を庇うように立ち、魔法杖ウィザーズロッドを構える。


 その視線の先には、ガイコツが佇んでいた。


『汝が……強者か?』


 頭のなかにしわがれた声が響く。


「もしかして魔王か?」


 マントの色は違うけど、《闇の帝王ダーク・ロード》にそっくりだ。


『いかにも。我が名は《土の帝王アース・ロード》――この世の土を統べる者!』


 ガイコツが仰々しい自己紹介をしてくる。


「そっか。魔王っていっぱいいたんだな」


 これは好都合だ。

 このガイコツが《闇の帝王》より圧倒的に強ければ、俺は精神的に成長できるかもしれない。


『面白い、実に面白い! 我が名を聞いて眉一つ動かさぬとはな! 確信したぞ! 汝こそ、我が長年待ち望んだ強者だ!!』


「こ、こんな幼子が強者なわけないであります! きみ、いますぐ逃げ――」


『黙れ。弱者は土に還るがいい』


 次の瞬間、女性の首から下が地面に埋まった。

 まるで落とし穴にはまったみたいに、一瞬の出来事だった。

 見ると、そこらじゅうに同じような状況に陥っているひとがいる。

 みんな魔王にやられたのかな?


「くぅ……う、動けないであります……!」

『当然であろう。汝はただ地面に埋まっているのではない。我の魔法で、地面に埋まっているのだ。我の許可なく脱出することはでき――』



「だいじょうぶですか?」



 ずぼっ。

 俺は土のなかに手を突っこみ、女性の肩を掴んで引っこ抜いた。

 同じように地面に埋まっていた全員を引きずり出す。

 なんか芋掘り遠足を思い出すなぁ。


『わ、我の魔法を容易く破るとは……。やはり我の目に狂いはなかった! ――だが、我の敵ではない!!』


 魔王が姿を消した。


「う、うしろであります!」


 俺はうしろを振り向く。


『強者よ、土に還るがいい!』


 魔王が俺の肩を掴んできた。

 瞬間、俺の上着が土になった。


『バカな!? なぜ土に還らぬのだ!?』


 魔王が衝撃を受けたようにあとずさる。


『ま、まさか回復魔法で瞬間的に治癒したのか!? バカな! 我の魔法を上回る回復魔法など存在するわけがない!!』


 実際、回復魔法じゃなくて自然治癒力だしな。

 死に物狂いの修行によって、俺の自然治癒力はすごいことになったのだ。

 まあ、最近まで『自然治癒力』じゃなくて『師匠の万象治癒ヘブンズキュア』で回復してると思ってたんだけどね。


『フハハハハハ! 愉快だ、実に愉快だ! まさかこの我を本気にさせるとはな!!』


 魔王が天に手をかざした。


『大地よ、我に集え!!』


 土が魔王に纏わりつき、西洋風の甲冑っぽい形になっていく。

 さらに魔王の手に土が集まり、巨大なハンマーができあがる。


「な、なんという……なんというおぞましい姿でありますか……」

「お、終わりだ……世界の、終わりだ……」

「じ、次元が違いすぎる……」

「うっ、はあっ……うぐっ、ぉげえええええ……っ」


 土武装した魔王を見て、みんなはガタガタと震えている。

 なかには吐いているひとまでいた。


『フハハハハハ! こうなった以上、手加減はできぬぞ! 汝を土に還したあとは、全人類を土に還してやる!!』


 全身を土で覆った魔王が、巨大なハンマーを肩に担いで近づいてくる。


『光栄に思うがいい、久しく見ぬ強者よ! 汝は我の全身全霊の攻撃で土に還ることができるのだ!』


 魔王が巨大なハンマーを振り上げる。


『我が鎧はいかなる攻撃をも防ぐ。我が槌はいかなる防御をも砕く』


 そして――


『その威力、その身をもって味わうがいい!!』


 魔王が、俺の頭にハンマーを振り下ろした。



 べちゃっ。



 ハンマーは粉々になり、俺の身体が泥まみれになる。



「泥遊びは卒業したんだよ!」



 パァァァァァァァァン!!!!!!!!



 魔王の顔面にパンチすると、頭蓋骨がヘルメットごと粉々になった。

 ばたりと倒れる魔王。

 粉々になった頭蓋骨が、夜風に乗って消えていく。


「帰ったら洗濯しないとな」


 俺は身体についた泥を払い落とし、ぽかんと口を開けている女性に告げる。


「《土の帝王》は土に還りました。では、俺は用事があるのでこれで――」


「ちょ、ちょっと待つでありますっ!!」


 学院に戻ろうとしたところ、呼び止められた。


「私はエルシュタット魔法騎士団・北方討伐部隊団長のメルニアであります! どうか貴殿のお名前をお聞かせいただきたい!」


「アッシュです」


 名乗ると、メルニアさんたちが俺に頭を下げてきた。


「アッシュ殿! 貴殿は全人類を救った英雄であります! どうか我らとともにエルシュタニア城へ来ていただきたい!」

「俺、ちょうどエルシュタニアに戻るところなんです」

「おおっ、本当でありますかっ。では我らとともにエルシュタニアへ向かうでありますよ! もちろん交通費は我々が――」


「すみません。俺、走って帰ります」


 メルニアさんたちはぽかんとする。


「は、走って帰るのでありますか?」

「はい。俺はエルシュタット魔法学院にいるので、なにかあったら連絡してください。では」


 メルニアさんたちに別れを告げ、俺は学院に向かって走るのだった。


 ちょっと時間をロスしてしまったけど、明日の授業には余裕で間に合うだろう。


評価、感想、ブックマークありがとうございます。

次話もなるべく早くお届けできるよう頑張ります。

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