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大魔法使いに拾われました

 俺は森のなかで息をひそめ、一本の大樹をじっと見つめていた。


 しばらくそうしていると突然土が盛り上がり、大樹が動き出す。



 それは木の姿をした魔物――ウォーキングウッドだ。



 木に擬態して、近づいてきた生き物をムチのようにしなる枝で絞め殺し、養分にしてしまう魔物である。


「俺はここだ!」


 俺の声に反応し、ウォーキングウッドがうぞうぞと根っこを動かして襲いかかってくる。

 俺は手を刀の形にすると、横薙ぎに振るった。


 すぱぁぁぁぁん!!


 ウォーキングウッドが真っ二つになった。


 いまのは師匠に教わった風魔法《風刃カマイタチ》だ。


 普通は魔法杖がないと魔法を使うことができないが、俺の師匠は普通の魔法使いではない。

 五〇年以上前に魔王を倒し、勇者と讃えられた大魔法使い――モーリス・アークヴァルドなのだ。

 そんな師匠なら身体ひとつで魔法を使えても不思議じゃないし、師匠の一番弟子である俺に同じことができてもおかしくはない。


 つっても、俺は自分のことをすごいだなんて思ったことはないけどな。


 俺がすごいんじゃなくて、師匠の教え方がすごいのだ。

 まあ教え方っていっても、直接教わったわけではなく、見よう見まねで風刀を使えるようになったんだが。

 だけどそれは、裏を返せば『師匠は直接教えていないのに、俺に風刀を使わせてみせた』と言い換えることもできる。


 要するに、師匠はすごいひとなのだ。


 森のなかで行き倒れになっているところを師匠に拾われて早五年――。

 一〇歳になった俺は、今日もこうして修行をしてるってわけだ。


 俺はウォーキングウッドの亡骸に近づき、ふたつになった丸太を両脇に抱えると、家路につく。

 しばらく森を歩いていると、拓けた場所に出た。

 剥き出しになった土の上に、小さな木造の家がぽつんと建っている。


 俺と師匠の家だ。


 この森に家を建てて暮らしているのは、俺と師匠だけだ。

 この森は『魔の森』と呼ばれ、魔物の生息地になっているのだ。そのため、普通のひとは住むどころか近づこうとすらしないのである。




「ただいまー」


 ウォーキングウッドを庭に置き、俺は家に入った。


「おお、早かったのぅ」


 安楽椅子に腰かけ、パイプをくゆらせているのは俺の師匠――モーリスじいちゃんだ。

 三角帽子をかぶり、白い髭と白髪を生やし、立派な魔法杖を手にしている。

 見てわかるとおり、モーリスじいちゃんは大魔法使いだ。


「言われた通り、ウォーキングウッドを狩ってきたよ」

「怪我はないか?」


 俺は吹き出してしまった。


「怪我なんてするわけないよ。だって、相手はウォーキングウッドだよ? あんなの師匠直伝の風刀で一撃さ」

「そ、そうか。風刀を使いこなせるようになったか。いやぁ、ほんと、なんていうか……すごいな」


 気まずそうに目をそらす師匠。


「師匠の教え方がすごく上手なだけさ。おかげで、ただの手刀と同じ感覚で風刀を使うことができてるよ」


 本来、魔法を使うには魔法杖でルーンを描かなければならない。

 身体一つで魔法を使うなんて、普通はありえないことなのだ。


「俺、もっともっと魔法を使えるようになりたい。師匠みたいな立派な魔法使いになりたいんだ!」

「う、うむ。で、では修行の続きじゃ。ウォーキングウッドを細かく切って薪にせよ。半分は家の裏に保管して、残りは町に売りにいくぞい」


 ウォーキングウッドは一般的な木に比べると燃焼性がよく、火も長持ちする。高級木材なのだ。

 町のひと――といっても買うのは金持ちばかりだが――は簡単に手に入るウォーキングウッド製の薪を高値で買ってくれるのである。


 森に入ればいくらでも手に入るってのに、もったいないことをするもんだなぁ。

今日中にあと一本投稿します!

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