本日のメインディッシュです
穴埋めエピソード第2話はレッドドラゴンの話です。
時系列的には《さらに強くなります》と《レッドドラゴンなら12歳の頃に倒しました》の間の話になります。
「アッシュよ。これから町に出かけるのじゃが、お前もついてくるか?」
朝食の後片付けをしていると、モーリスじいちゃんが話しかけてきた。
いつもなら喜んでついていくけど、今日はほかにやることがある。
「今日は留守番するよ」
「そうか。珍しいのぅ」
師匠はちょっとがっかりしている。
「なにか欲しいものがあれば買ってくるが……」
「いまは特にないかな」
ほんとは魔法杖が欲しいけど、『お前にはまだ早い』と断られるのは目に見えていた。
師匠に言わせれば、俺はまだまだ未熟らしい。
師匠に認められるその日まで、俺は日夜身体を鍛えまくるのだ。
「今日はいつごろ帰ってくるの?」
「日が暮れる前には戻るのじゃ。では留守番頼んだぞい」
「うん。気をつけてね。行ってらっしゃい」
そうして師匠を見送った俺は、後片付けを済ませると家を出た。
森のなかに建てられた家のまわりには、木々が生い茂っている。
「さて、夕方までに準備しないとな」
今日は師匠の誕生日だ。
いつもお世話になっているし、恩返しをするチャンスである。
つっても、俺にできるのは料理を作ることくらいだ。
そこで俺はとびきりのご馳走を作り、師匠を喜ばせることにした。
お金がないので、食料は森で調達する。
ここ『魔の森』に住み始めて7年――。
毎日のように森のなかで修行をしている俺にとって、ここは庭みたいなものだ。
どこになにがあるかは把握しているし、迷うことはないだろう。
俺は森の奥深くへとどんどん進み、数時間かけてキノコを集め、料理に使えそうな花を採取していく。
「けっこう集まったけど……これじゃキノコ炒めしか作れないな」
これじゃあご馳走どころか、いつもの晩ご飯のほうがよっぽど豪華だ。
川まで行ってもいいけど……魚より肉のほうがご馳走っぽいよな。
どこかにイノシシでもいればいいんだけど――
キィィィィィン!!
肉を求めて森を歩いていると、黒板を引っかくような音が響き渡った。
時空の歪み(アビスゲート)だ。
「ちょうどいいや。食えそうな魔物だといいんだけど……」
俺は音のしたほうへ向かう。
ちょうど空間がひび割れ、魔物が出現した。
木々を薙ぎ倒すようにして森のなかに現れたのは、真紅の鱗に覆われた巨体だった。
大きな翼と鋭い爪牙を持つそいつは――
「おおっ、レッドドラゴンじゃん!」
まさに肉料理に打ってつけの魔物だったのだ!
『グルアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
レッドドラゴンがしっぽをムチのように振った。
大樹がばきばきと音を立てて吹き飛び、扇状の更地ができる。
続けざまにレッドドラゴンは大口を開け、口腔に炎をためた。
ファイアブレスだ。
「森が燃えちゃうだろ!」
俺はレッドドラゴンのあごにアッパーを放つ。
そして、胴体だけになったレッドドラゴンの腹の肉を手刀で手頃な大きさにカットする。
レッドドラゴンの鱗は世界一硬いって本に書いてあったけど、さくさく切れた。
まあ噂ってのは尾ひれがつくものだしな。
「よしっ。これだけあれば師匠もお腹いっぱいになってくれるよな」
そうして肉をゲットした俺は、帰路についたのだった。
◆
家に帰りついたときには、すっかり日が傾いていた。
俺は台所でキノコを薄くスライスしたあと、花の根っこと茎を細かく刻んだ。
茎は生で食べるとかたいけど、炒めれば汁を吸って柔らかくなる。
そして根っこは熱することでニンニク風味の汁を出すのだ。
あとはバターと一緒に炒めれば、キノコのガーリックバター炒めのできあがりだ。
「ここで作ると部屋に匂いがつくし、庭で炒めようかな」
俺は庭にバーベキューセットを組み立て、マッチで火を起こすと、鉄板を熱してバターを溶かした。
そうしてキノコを炒めていると、師匠が帰ってきた。
「いい香りがするのぅ。今夜はバター炒めじゃな?」
「おかえり、師匠。それだけじゃないよ。ほら!」
俺は脂の乗った肉を両手に持ち、師匠に見せる。
「おおっ。美味そうな肉じゃな!」
やった! 師匠が喜んでくれている!
「今日は師匠の誕生日だからね。ご馳走を作ってるんだ」
「そうか。今日はわしの誕生日じゃったか……。ほんとにアッシュは良い子じゃのぅ」
師匠は目を潤ませている。
まさかここまで喜んでもらえるなんて……来年もお祝いしないとな。
そのときは、またレッドドラゴンが現れてくれるといいんだけど。
「それにしても、その肉はどうしたのじゃ? うちにそんな高そうな肉はなかったと思うのじゃが……」
「森で調達したんだよ」
「わしのために、わざわざ動物を狩ってくれたのか……。怪我はしてないか?」
不安げな師匠に、俺は笑って告げる。
「弱かったからね。師匠直伝の魔法――風刀を使うまでもなかったよ」
「そ、そうか。さすがはわしの弟子じゃな」
師匠はなぜか気まずそうに視線をそらした。
俺がその理由を知るのは、4年後のことだった。




