勇者一行の創立メンバーです
活動報告のほうで募集しました第1章穴埋めエピソード、第1話は勇者一行の話です。
時系列的には《異世界に転生しました》の50年くらい前になります。
穴埋めエピソードは全3話を予定しています。
「武闘家のなにが悪いんだ!!」
場末の酒場にて、モーリスは苛立っていた。
魔王を倒すため騎士団に志願したのだが、魔力測定で不合格になってしまったのだ。
モーリスは自分に魔法使いの才能がないことを自覚している。
自覚しているからこそ、モーリスは魔法学院に通わなかった。
5歳の頃から死に物狂いで身体を鍛え、20歳になったいまでは拳ひとつで魔物を倒せるまでに成長したのだ。
単純な戦闘力なら、騎士団員にも引けを取らないはずだ。
だというのに『魔力が低すぎる』という理由だけで、モーリスは騎士団に所属するどころか、実技試験を受けることすらできなかったのである。
「そんなに魔力が重要か! そんなに武闘家は弱そうか! 俺が! 俺がどんだけ努力したと思ってるんだ!」
実力不足なら納得できる。
だが魔力測定で不合格だったモーリスは、実力を見せることすらできなかった。
強さを証明することができなかったのだ。
そんなやり場のない怒りを発散するため、モーリスは昼間っから酒場で酒を飲んでいるのだった。
「さ、さすがに飲みすぎよ。あ、あなたは武闘家なんだから、ほかの誰よりも身体を大事にしなきゃだめ……だと思うわ」
酒場の女店主が、おどおどしながらモーリスの身体を気遣ってくる。
前髪が長いため表情は読み取れないが、モーリスのことを心から心配してくれていることは伝わった。
「すまん……。けど、今日くらい飲ませてくれ。……まあ、商売の邪魔になるなら帰るが」
「ど、どうせほかに客はいないし……な、馴染みの客の愚痴くらい聞くわ」
モーリスは世界最強の武闘家になるため、12歳の頃から武者修行の旅をしている。
この町に流れついたのは15歳のときだ。
ろくに仕事をしていなかったため生活費がなく、食うに困っていたモーリスに食事を与えてくれたのが、五つ年上の女店主だった。
それから5年、モーリスはこの酒場に通い続けている。
「やっぱりここにいたんだね」
がらがらだった酒場に、筋骨隆々の男がやってきた。
山籠もり中に魔物に襲われたとき偶然近くに居合わせ、共闘したことで互いの実力を認めあい、頻繁に交流するようになった青年だ。
「誰かと思えばフィリップか。自慢話でも聞かせにきたのか?」
フィリップは王族である。
さらに万能の魔力を持っており、魔法使いの才能にあふれている。
そのため多くの騎士団に勧誘されていたが、どこに所属するかは決めかねているらしい。
実技試験すら受けさせてもらえないモーリスとは、天と地ほどの差があるのだ。
とはいえ、モーリスはフィリップのことを気に入っている。
なぜならフィリップは、魔法杖が破壊されても戦うことができるように、山籠もりをしてまで身体を鍛えるような男なのだから。
魔法の才能を持っているにもかかわらず命懸けで努力するフィリップに、モーリスは好感を抱いているのだった。
「モーリスと同じ酒を頼むよ」
フィリップは酒を注文しつつ、モーリスのとなりに腰かけた。
「また試験に落ちたんだって? これで何度目だい?」
「うるせえ! 次こそ受かってみせるからな!」
「魔力が低すぎる以上、結果は同じだと思うけどね」
「魔力は気合いでなんとかする! 俺は拳ひとつで魔物を倒せるようになったんだ! 魔力だって、頑張れば手に入るはずだ!」
「魔力なんか、どうでもいいじゃないか。きみはすでに強いんだからさ」
「魔力がないと騎士団に入れないんだからしょうがないだろ!」
そう言って、モーリスは酒をぐいっと飲む。
「……俺の話はいい。お前はどうなんだ? もう入団先は決めたのか?」
「それなんだけどね。私は騎士団に所属しないことにしたよ」
モーリスはぽかんとする。
「な、なんでだ?」
「騎士団に入れば魔王軍と戦うことになるだろう? 私は、信用できない奴に背中を任せるつもりはないのさ」
「もったいねえな。お前ほどの魔法使いなら、《闇の帝王》を倒せるかもしれないってのに」
「さすがに私ひとりでは無理だよ。……だけど、きみと私が手を組めば、魔王にも勝てるかもしれない」
ほろよい気分だったモーリスは、その言葉に真剣な顔をした。
「俺たちで魔王軍とやりあうのか?」
「ああ。私たちの手で魔王を倒し、きみを無能呼ばわりした連中を見返してやるんだ」
「……俺でいいのか? 騎士団に所属したほうが、死ぬ確率は遙かに低いぜ?」
「言っただろう? 私は、信用できない奴に背中を任せるつもりはないのさ」
「……酔ってるわけじゃねえよな?」
「まだ一口も飲んでないよ」
真剣な眼差しを向けてくるフィリップに、モーリスはうなずいた。
「その誘い、乗ったぜ! だが、ひとつ大きな問題がある」
「問題って?」
「お前とふたりきりで旅をするとかぜったいに嫌だ」
フィリップは、にやりと笑う。
「それについては同意だよ。きみと二人旅なんて、むさ苦しいにもほどがある」
「だろ? そこでだ。俺はある女を誘いたいと思ってるんだが」
「私もひとり勧誘しようと思っていたところさ」
モーリスとフィリップはそう言うと、女店主を見つめた。
「ご両親の遺した大事なお店だってことは知っているけど……きみほどの才能を、こんなところで終わらせるのはもったいないよ」
「俺たちと一緒に一旗あげようぜ! なあ――コロン!」
女店主コロンは、その誘いを待っていたかのように力強くうなずいた。
「じょ、常連客がふたりもいなくなったら……どうせ、店は潰れるから。……だから、一緒に行くわ」
そうして場末の酒場にて結成されたパーティが、のちに勇者一行として人々の希望の星となることを、いまはまだ、誰も知らない。




