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遙か昔の魔法使いです

 連休明けの放課後。


「学院長が呼んでたわよ。なんでも大事な話があるんですって」


 エファに本日の訓練メニューを伝えていると、エリーナ先生が俺に話しかけてきた。


「大事な話ってなんっすかね?」

「なんだろうね? 飛び級で三年生にするとかかな? アッシュくんの実力なら、三年生の上級クラスでも問題ないからねっ」

「だめよ。貴方がいなくなると私が困るわ」


 エファとフェルミナさんとノワールさんが口々に言う。

 ノワールさんは、本気で嫌そうな顔をしていた。

 俺の制服を掴み、行かないで、と首を横に振っている。


 一昨日、エファとフェルミナさんはノワールさんと友達になった。

 けど、ノワールさんはものすごく人見知りするタイプだ。

 ふたりとも優しいし、ノワールさんもすぐに心を開くと思うけど、一番仲が良い俺がいなくなるのは不安なのだろう。


「たぶん一昨日のことで話があるんじゃないかな?」


 俺はエファの疑問に答える。


 実感はないけど、俺は一昨日の夕方、ゴーレムを倒して世界を救った。

 そして今朝、ノワールさんとリングラントさんをつれて、フィリップ学院長に事情を話した。


 禁じられている人体実験をしていたリングラントさんの処罰は後日決めるらしく、身柄はフィリップ学院長が引き取った。

 そして本当は魔法使いではないノワールさんは、二年A組に残ることになったのだった。

 フィリップ学院長いわく、『借り物の魔力でも、自分で使いこなしている以上はノワールの実力だよ』とのことだ。


「じゃあ行ってくるよ」


 フィリップ学院長を待たせるわけにはいかないため、俺は速やかに学院長室へと向かった。


     ◆


 学院長室には筋骨隆々の老人がいた。

 エルシュタニア王国の国王にしてエルシュタット魔法学院の学院長を務める、大魔法使いのフィリップさんだ。


「学院での生活には慣れたかね?」

「はい。友達にも恵まれて、毎日楽しく生活できてます。だけど……」

「魔力は宿らない、か」

「はい。毎日授業に出てるんですけど、魔力は宿りそうにありません……」

「そもそもここは魔法使いのための教育機関だからね。まじめに授業に出席したからといって、魔力が宿る保証はないよ」


 それはわかっている。

 ほかの場所で時間を過ごすより、レベルの高い魔法使いに囲まれて生活したほうが魔力獲得の可能性が高いと思い、俺は入学を決意したのだ。


 まあ、けっきょく魔力獲得の手がかりは掴めてないんだけどさ……。


「ところで、きみは『コロン』という女を知っているかね?」

「もちろんです」


 コロンさんは勇者一行のメンバーだった大魔法使いだ。

 闇系統の魔法に精通していて、さらに一流の薬師でもあると本に書いてあった。


 大事な話って、コロンさんとなにか関係するのかな?


「先日、コロンにきみのことを話してね。そしたら『なんとかできるかもしれない』と言われたんだよ」

「ほ、本当ですかっ!?」

「うむ。詳細は直接会って話したいらしくてね。ラムニャールという町に住んでいるから、行ってみるといい」

「わかりましたっ。ありがとうございます!」


「礼を言うのは私のほうだよ。一度ならず二度までも世界を救ってくれて……きみには感謝してもしきれないよ」


 そう言って、フィリップ学院長は俺に頭を下げてくる。


「あ、頭を上げてくださいっ。俺、たいしたことはしていませんから。ただ杖を振っただけですから!」

「しかし、褒美を与えないわけにはいかないよ。なにか欲しいものがあったら遠慮なく言いなさい」


 欲しいものか……。

 真っ先に思いつくのは『魔力』だけど、それは無理だろう。

 お金は魔王を倒した報酬として毎月もらってるし、ほかに欲しいものなんて……。

 ああ、そうだ。


「俺、魔法杖ウィザーズロッドが欲しいです。ちょっとやそっとじゃ壊れない、頑丈なものが欲しいです」


 いまの俺には使いこなせないけど、あって困るものではない。

 コロンさんのもとで、俺は魔力を手に入れることができるかもしれないし、すぐに必要になるかもしれないのだ。


「わかった。とびきり頑丈なものを用意するよ。それと、きみが望むなら飛空艇の搭乗券を用意するが……」

「いえ。走ったほうが早いので」

「あいかわらず、めちゃくちゃだね」


 ラムニャールは、ここから1000㎞ほど北上した先にある。

 それくらいの距離なら、走れば夜明けには到着するのだ。


「コロンは気難しい女だけど、きみのことはきっと気に入ってくれるよ」

「はいっ。いろいろとお世話になりました!」


 俺はフィリップ学院長に一礼し、部屋をあとにする。


 廊下に出ると、そこにはノワールさんがいた。


「大事な話というのはなんだったの? まさか、本当に三年生になるのかしら?」


 ノワールさんは不安そうにたずねてくる。


「明日は欠席するけど、クラスは変わらないよ」

「ものすごく安心したわ。……だけど、なぜ明日は欠席するの?」


 俺は手短にコロンさんの話をする。


「――というわけで、魔力が宿るかもしれないんだ。そんなことができるなんて、コロンさんってすごいよなっ」

「貴方の脚力のほうがすごいわ」


 ノワールさんとそんな会話をしたあと、俺は荷造りを済ませると、日が暮れる前にラムニャールへ向けて出発したのだった。


     ◆


「私が勇者……でありますか?」


 エルシュタット魔法騎士団・北方討伐部隊の団長であるメルニアは戸惑っていた。


 魔物を討伐したあと、エルシュタニア北部の田舎町ナザレフに立ち寄ったところ、町長に大事な話があると屋敷に招かれたのだ。

 そして開口一番「あなた様は勇者かもしれません」と告げられたのである。


「勇者ではありません。勇者かもしれないのです。誰が勇者かは、私にもわからないのです」

「どういう意味でありますか?」


 質問しつつ、メルニアはうしろに控える仲間たちの顔を見る。

 魔物を討伐するにあたって連れてきた一〇人の従士たちは、いずれも困惑していた。



「魔王によって世界が滅ぼされるかもしれないのです」



 町長の時代遅れな言葉に、メルニアはあきれてしまった。


「魔王なら、とっくに倒されたであります」

「違うのです。魔王は、ひとりではないのです」

「……どういう意味でありますか?」


「遙か昔、この世界には七人の魔法の達人がいたのです。七人はそれぞれ『火』『水』『氷』『土』『風』『光』『闇』の魔法を極め、魔法使いの王――『魔王』として人々に怖れられておりました」


 町長が、人差し指を立てる。


「そのうちのひとり――。闇の魔法を極めた魔王こそ、《闇の帝王ダーク・ロード》なのです」


 闇魔法には、精神に作用するものもある。

 町長の話を信じるなら、魔王は圧倒的な魔力をもってして多くの魔物を操り、魔王軍を結成したということか。


「でも、《闇の帝王》は『時空の歪み(アビスゲート)』から出現したでありますよ?」

「この世界に強敵がいないと悟った魔王たちは、なんらかの力で異世界へと渡ったのです。その影響により、時空の歪みが発生するようになったのです」


「そ、そんな話……聞いたことがないであります。いったいあなたは、誰にその話を聞いたのでありますか?」

「ご先祖様です」

「ご、ご先祖様でありますか?」


 町長はうなずいた。


「私のご先祖様は、とある魔王にこう告げられたのです。『今日より25000回目の満月の晩、この地に強敵が現れる。私は、その者と戦うため、再びこの地に舞い降りる』と」


 その強敵を倒したら、魔王は再び強敵を求めて暴れるかもしれない。

 あの《闇の帝王》と同等か、それ以上の力を持つ魔王に暴れられれば、今度こそ世界は崩壊するかもしれないのだ。


「そ、その魔王が現れるのは、具体的にいつでありますか?」

「明日です」


 時間がないにもほどがある。


「ど、どうしてそうなるまで放っておいたでありますか! いますぐに援軍を呼ぶであります!」

「それは無意味です。魔王に勝てるのは、予言に出てくる『強敵』だけなのです」


 そして、と町長はメルニアを指さした。


「最も強敵――すなわち勇者である可能性が高いのが、満月の日の前日にこの地を訪れた、あなた様なのです」


 町長は頭を下げる。


「どうか、どうか魔王を倒し、世界をお救いください……」


 町長の話は、本当かどうかわからない。

 だが、騎士団長として、魔物に怯えている者を見過ごすわけにはいかないのだ。


「了解したであります。我々のなかの誰かが勇者だと言うのなら、我々全員で魔王と戦うのであります!」

「あ、ありがとうございます……」

「当然のことであります。して、その魔王の名はなんというでありますか?」


 魔王は特定の魔法を極めているらしい。

 あらかじめ得意系統を把握しておけば、どんな攻撃をしてくるかもわかってくるし、作戦が立てやすくなる。


 町長は明日現れる魔王の名を口にした。


「その魔王の名は――《土の帝王アース・ロード》」

これにて1章は完結となります。

次話の投稿時期等については、このあと投稿する活動報告をご確認いただければと思います。


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