似た者同士です
うわぁ、どうしよ……。
俺は亀裂沿いに荒野を走りながら頭を悩ませていた。
地平線の向こうに、真っ二つになった建物を見つけてしまったのだ。
空き地で野球してて窓ガラスを割ってしまった子どもって、こういう気持ちなのかな?
窓ガラスくらいなら素直に謝れば許してもらえそうだけど、俺は家を真っ二つにしてしまったのだ。
謝ったところで許してもらえるとは思わないし、弁償しても一生恨まれるかもしれない。
けど、この際恨まれるのは構わない。
とにかく家主さえ無事でいてくれればそれでいいのだ。
そんなことを考えている間に、目的地にたどりつく。
走っているときは建物にしか目がいかなかったけど、荒野にはふたりの人間がいた。
ひとりは白衣を着たおじいさんで、もうひとりは――
「あれ? ノワールさん? こんなところでなにしてるんだ?」
俺は地面に寝転がっているノワールさんに話しかけた。
「帰省よ」
「えっ。じゃあこれ、ノワールさんの実家なの?」
「そうよ」
俺は同級生の実家を真っ二つにしてしまったのか……。
「ごめん、ノワールさん! これ、俺のしわざなんだ!」
俺はノワールさんに頭を下げた。
おじいさんにも謝りたかったけど、岩石の前で白目を剥いて「すごいぞーっ。かっこいいぞーっ。いけー、ごーれむぅ!」となにかに取り憑かれたようにつぶやいているし、とても謝れるような雰囲気ではない。
おじいさんには、あとでちゃんと謝ろう。
「これ、貴方がやったの?」
ノワールさんは地面に倒れたまま、きょとんとした顔でたずねてくる。
「本当にごめん! こんなつもりじゃなかったんだ。俺はただ、空を飛ぼうとしただけなんだ……」
「意味がわからないわ」
「魔法杖を振ったらカマイタチが発生して、地平線の向こうまで大地が割れたんだよ」
「意味がわからないわ」
ノワールさんはますます困惑顔をする。
俺だって、いまの説明で理解してもらおうとは思っていない。
けど、ほかに説明のしようがないのだ。
「だけど、貴方は命の恩人だわ」
「俺が……命の恩人?」
死神の間違いじゃなくて?
「私を助けただけではないわ。貴方は世界を救ったのよ」
どちらかというと世界を壊した気がするけどな。
大地、割っちゃったし。
けど、ノワールさんの顔は真剣そのものだ。
冗談を言っているようには見えない。
「ちょっと理解が追いつかないんだけど……どうして俺が命の恩人で、世界を救ったことになってるんだ?」
俺の質問に、ノワールさんは要点をまとめてわかりやすく説明してくれた。
◆
「つまり、あの岩石とおじいさんは悪者で、あの建物はべつに壊しても問題なかったってことだな?」
「そういうことよ」
説明している間に体力が回復したらしいノワールさんは、上半身を起こしてうなずいた。
「研究所が真っ二つになった以上、もう世界最強の魔法使いを生み出す研究を続けることはできないわ」
「なるほどね。それにしても、ノワールさんが俺と同じ境遇だったとはね」
俺はノワールさんの生い立ちについても聞かされていた。
俺とノワールさんは魔力斑が浮かばず、親に捨てられて孤児になったところを老人に拾われたのだ。
そして俺は世界最強の武闘家に、ノワールさんは世界最強の魔法使いになるように育てられたのである。
「同じ境遇って……貴方は魔法使いではないの?」
「俺は魔法使いを目指す武闘家だよ」
「武闘家……? この地割れは、魔法によるものではないの?」
「これは物理攻撃だよ。俺は魔力斑が浮かばなかったせいで親に捨てられてね。育ての親になってくれた師匠のもとで努力しまくった結果、こんなことができるようになったんだ」
「意味がわからないけれど、たしかに貴方と私は境遇が似ているわ」
だけど、とノワールさんは悲しそうな顔をする。
「貴方と違って、私には友達がいないわ」
「じゃあ、俺がはじめての友達だな」
ノワールさんは目をぱちくりさせる。
「私と友達になってくれるの?」
「うん。ノワールさんが嫌じゃなければ――」
「大歓迎だわ」
ノワールさんは食い気味に言った。
「それじゃ、エファの家に行こっか」
「私は、お邪魔虫ではないかしら?」
「そんなことないよ。エファの家族はみんな優しいんだ。出会って1秒で受け入れてもらえるよ」
「……私のことを紹介してもらえると嬉しいわ」
「俺の友達だって紹介するよ。あと……」
俺は、真っ二つになったゴーレムのほうへ視線を向ける。
「ぶぅーん、ずががががががっ。いいぞーっ、かっこいいぞーっ」
リングラントさんは両手に石つぶてを持ち、がちゃがちゃとぶつけて遊んでいた。
ゴーレムを失ったショックで、一時的に精神がおかしくなっているのだろう。
フィリップ学院長に診せれば、なんとかしてもらえるかな?
「ここに残すのは危ないし、リングラントさんもエファの家に連れていくよ」
「あれはさすがにお邪魔虫ではないかしら?」
「害はなさそうだし、たぶん受け入れてもらえると思うよ」
特に五つ子ちゃんは気に入ってくれそうだ。
いまのリングラントさんは、精神年齢的に5歳くらいだと思うし。
そうしてノワールさんを納得させた俺はふたりを両脇に抱えると、エファエル家へと引き返したのだった。
ノワールさんがエファエル家に歓迎されたのは……まあ、言うまでもないことだろう。
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次で1章完結です。
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