ネムネシアです
評価、感想、ブックマークありがとうございます。
旅行二日目の昼。
ペニロパから列車を乗り継いだ俺たちは、ネムネシアに到着した。
ネムネシアは想像以上に殺風景なところだった。
まるで西部劇に出てくる町みたいだ。
乾燥した土の上に、木造住宅が点々と建ち並んでいる。
さすがはエルシュタット王国でも一、二を争う田舎町だ。
まあ俺の故郷である『魔の森』に比べると遙かに都会だけど。
「師匠! フェルミナさん! ここがわたしの生まれ育った町っすよ!」
どうっすか、とエファは自慢げに聞いてくる。
「落ち着いた町だな」
「暮らしやすそうだね」
エファは嬉しそうに頬を緩ませる。
「でしょ? この町はわたしの庭みたいなものっすからね。わからないことがあれば、なんでも聞いてほしいっす!」
「エファの家はここから近いのか?」
俺はさっそく質問した。
「この道をまっすぐ行った先にあるっすよ。友達をつれて帰るって連絡しといたっすから、きっとご馳走を作って待っててくれてるっす!」
「やったぁ! あたしご馳走大好きだよ!」
「お母さんの料理は美味しいっすからね。期待してていいっすよ! さあ、こっちっす!」
エファはスキップでもするような歩調で道を歩き、角を曲がったところで振り向いてくる。
「あれがわたしの家っす!」
三階建ての木造住宅だった。
柵に囲まれた庭には遊具が転がっている。
「ただいまーっす!」
エファは玄関を開けるなり叫んだ。
その途端、どたばたと足音が響き、
「「「「「おかえりエファおねーちゃん!」」」」」
同じ顔をした幼女が五人、エファに飛びついた。
「おかえり~、ねーちゃん」
「お、おかえりなさい、エファお姉ちゃん」
そのうしろからさらにふたりの女の子が現れる。
一三、四歳くらいの女の子だ。
一方はおてんばそうで、もう一方は気弱そうな印象だ。
「あらあら、早かったわね」
最後に出てきたのは恰幅のいい女のひとだ。
きっとエファの母親だろう。
「みんな、ただいまっす! お父さんはどこっすか?」
「裏の畑で野菜を採ってるわ」
「じゃあ先に紹介しておくっす! ししょ……アッシュくんと、フェルミナさんっすよ!」
エファの家族がじろじろと見つめてくる。
「あらあら、よく来てくれたわね。学校では娘がお世話になってます」
「ほんとお世話になってるんすよ! 特に……って言ったらフェルミナさんに申し訳ないっすけど、アッシュくんには本当にお世話になってるっす!」
「ねーちゃんの彼氏?」
おてんばそうな女の子がにやにやしながら言う。
「あら、そうだったの? じゃあ将来的には家族になるかもしれないのね!」
おばさんも乗り気だった。
出会って間もないけど、気に入ってもらえたようだ。
「そ、そんなんじゃないっすよ! アッシュくんはわたしの師匠っす!」
エファは顔を真っ赤にして否定する。
俺と一緒のベッドで寝ることにまったく抵抗感がなかったエファだけど、家族に茶化されるのは普通に恥ずかしいらしい。
「なんだか美味しそうな匂いがするね!」
フェルミナさんは空気が読めない。
けど、たしかに美味しそうな匂いがするな。
フェルミナさんの言葉に、おばさんはパチンと両手をあわせた。
「エファがお友達をつれてくるって言うから、今日はご馳走を作ってるのよ。もうできてるから、温かいうちにいただきましょ。シルシィ、お父さんを呼んできてちょうだい」
「はーい」
「あなたたちは手を洗ってらっしゃい。さっきまで泥遊びしてたでしょ」
「「「「「はーい!」」」」」
「リルはお皿を並べてちょうだい」
「う、うん」
娘たちにてきぱきと指示を与えたおばさんは、俺たちに向きなおる。
「アッシュくんとフェルミナちゃんはゆっくりしててね。エファ、お友達をお部屋に案内してあげなさい。今日は泊まっていくんでしょう?」
俺とフェルミナさんはうなずく。
「ふたりとも、こっちっすよ」
エファに続いて三階へと向かい、とある部屋の扉を開ける。
「申し訳ないっすけど、空き部屋は一室しかないっす。空き部屋というか、ほとんど物置っすけど……」
「急に泊まることになったんだ。ありがたく使わせてもらうよ」
「そう言ってもらえると助かるっす」
「あたしはどこで寝ればいいのかな?」
「フェルミナさんはわたしの部屋っすね。荷物を置いたらご飯にするっすよ」
「わーい!」
エファとフェルミナさんは部屋を出ていった。
俺は荷物を置き、一息つく。
それにしても、いろいろなものが置いてあるな。
本に、服に、カバンに、ぬいぐるみに、それに……
「ん? これって……」
俺は、あるものを見つけてしまった。
次話もなるべく早くお届けできるよう頑張ります。




