世界最強の魔法使いです
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エファを弟子にして一週間が過ぎた。
はじめは師匠と呼ばれることに抵抗があったし、なにより俺は魔法使いになりたいのだ。
魔法学院で武術の稽古をつけることになり、『俺、なにやってんだろ?』と最初は後悔した。
けど、エファはすごく良い子だった。
それに努力家でもある。
一生懸命なエファを見ていると『俺も頑張らないとな』と思えるし、そういう意味では弟子にしてよかったと思っている。
……まあ。
「やああっ!」
「違う違う。もっと腰を落として」
「こうっすか! てやああっ!」
「それは落としすぎ。座ってどうすんだよ」
「師匠! 加減がわからないっす!」
「ちょっと腰を落とすだけでいいんだよ」
「難しいっす! そうだ、こうすればいいんじゃないっすかね!?」
「屈伸しながら正拳突きするの禁止な」
「だめっすかぁ。いい考えだと思ったんすけど……」
「まあ斬新ではあるけどな」
……エファに武術の才能はまったくなかった。
今日も放課後になってすぐに学院の広場で稽古をつけているのだが、まったく上達していない。
「師匠! わたし、師匠みたいになれるっすかね!?」
「それは努力次第だ。俺は魔法使いになるために努力する。だからエファは武闘家になれるように頑張れ。どっちが先に目標を達成できるか勝負だ!」
難易度的には、どっこいどっこいだと思う。
「おっす! わたし、一日でも早く師匠みたいになれるように頑張るっす!」
ほんと、返事だけは一人前なんだけどな。
まあ、俺も『気合いで魔力を手に入れる』とか言ったし、お互い様か。
……師匠も、こんな気持ちだったのかな?
「さて。そろそろ日が暮れるし、今日はこのへんにしとくか」
「おっす! 今日もありがとうございましたっす!」
「ああ。また明日な」
「あっ、すみません、明日はちょっと無理っす」
「予定があるのか?」
明日から三連休だ。
やることがないと嘆いていたエファだけど、年頃の女の子なのだ。
休日に予定を入れててもおかしくはない。
「帰省するんすよ」
「ここからネムネシアまで片道一日はかかるし、あんまりゆっくりはできないんじゃないか?」
「でも、家族に会いたいんす! 妹たちもわたしに会いたがってるらしいっすからね。お姉ちゃんとして、帰省しないわけにはいかないんす!」
「なるほどな」
「あっ、そうだ! 師匠もうちに来ないっすか? もちろん忙しいならいいんすけど……」
エファが期待するような眼差しで俺を見つめる。
弟子の期待に応えるのも、師匠の務めだよな。
俺も師匠と一緒に町に出かけたとき、すごい楽しかったしさ。
「わかった。行くよ」
「ほんとっすか!? さっすが師匠、話がわかるひとっすね!」
エファは本当に嬉しそうだ。
「やあやあ、おふたりさん。今日も特訓かい? 精が出るねー!」
と、フェルミナさんが歩み寄ってきた。
「ああ、フェルミナさん。どうかしたのか?」
「ほら、今日は一緒に食堂で夕飯を食べようって約束してたでしょ?」
「そうだったな」
訓練に精を出すあまり、ど忘れしてしまっていた。
「それ、わたしもご一緒していいっすか? まだ明日の予定とか話してないっすからね」
「明日どこかにお出かけするの?」
「わたしの家族に師匠を紹介するんすよ」
「結婚するの!?」
フェルミナさんは度肝を抜かれたみたいに驚いている。
あいかわらず、話を飛躍させるのが上手いひとだ。
「明日帰省するから、師匠をお誘いしたんすよ」
「なるほど! そういうことだったんだね!」
「はい、そういうことだったんす!」
「そういうことなら、あたしもお邪魔していいかな?」
「そういうことなら、大歓迎っす!」
あれよあれよという間に話がまとまる。
ふたりとも細かいことは気にしない性格なんだろう。
そうして、俺はネムネシアへと旅をすることになったのだった。
◆
三連休を明日に控えた夜のこと。
ノワールは、学生寮の自室にて教科書を読んでいた。
先日の筆記試験で4点しか取れなかったため、勉強をすることにしたのだ。
「私は賢くなりたいわ」
とある事情により、ノワールの魔力は学院でもずば抜けて高い。
さらにあらゆる精霊に好まれる万能魔力を持っている。
多くのルーンを覚えることができれば、あらゆる系統の魔法を使いこなせるようになるのだ。
だが、ノワールはありていに言ってバカだ。
氷魔法のルーンを覚えるだけで精一杯なのだった。
「頭が痛くなってきたわ」
勉強のしすぎで頭痛がしてきた。
そろそろ寝るかとベッドにもぐりこんだところで、携帯電話が振動する。
これが遊びの誘いだったら嬉しいけど、ノワールに友達はひとりもいない。
ノワールの携帯電話には、とある老人の連絡先しか登録されていなかった。
「……はい」
『実験体001号――ノワールよ。私だ、リングラントだ。魔力は充分に溜まったか?』
威圧的な問いかけに、ノワールは肯定の返事をする。
ノワールは改造人間だ。
魔力斑が浮かばず、魔力が使えないせいで親に捨てられ孤児になったところを、リングラントに拾われたのだ。
リングラントには『世界最強の魔法使い』を生み出すという夢があった。
そのためには魔力回路の人体移植が必要不可欠だった。
だが、人体実験は倫理的に問題があるとして、リングラントは研究所から追放されてしまったのだ。
そこでリングラントはネムネシア近隣の荒野にこっそりと研究所を設け、ノワールに特別製の魔力回路を移植したのだ。
そうしてノワールは半径500メートルに存在するすべての人間から、ちょっとずつではあるものの強制的かつ自動的に魔力を吸い取る力を手に入れた。
その範囲内にはフィリップ学院長もいたので、ノワールの魔力は万能となったのだった。
『ついに世界最強の魔法使いが――ゴーレムが完成したのだ!』
真夜中だというのに、リングラントは興奮しきっている。
数年前、リングラントは半永久的に魔力を生み出す魔力回路を開発した。
だが、その魔力回路はあまりに大きかったため、ノワールに移植できなかった。
そこでリングラントはさらに数年かけて命令通りに動く巨人――ゴーレムを作り上げ、魔力回路を移植したのだ。
『ゴーレムは私の人生の集大成だ! 最高傑作だ! さっそく力試しをしてみたい! だが、そこいらの魔法使いでは相手にならん!』
そこで、とリングラントは声を張り上げる。
『私の初の実験体にして成功例である貴様に相手をしてもらうことにしたのだ! 実験開始は二日後の夕暮れ時だ! 魔力を温存したまま私の研究所に来るのだ!』
きっとリングラントは、実験が終わったら研究所職員に復讐をするのだろう。
そんなことはさせない、とノワールは思った。
ゴーレムを倒せるのは、同じく体内に魔力回路を持つノワールだけなのだ。
『ゴーレムは正真正銘世界最強の魔法使いだ! ゴーレムを倒せる魔法使いなど、この世界にはひとりもいない!』
ノワールの心の声を読んだかのように、リングラントはゴーレムの強さを誇るのだった。
次話もなるべく早くお届けできるよう頑張ります。