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弟子入り志願者です

感想、評価、ブックマークありがとうございます。

「はーい、みんな席につきなさい。どこに座るかは早い者勝ちよ~」


 ノワールさんとの会話を終えたタイミングで、女性教師がやってきた。

 編入試験と実技試験で試験監督だったエリーナ先生だ。


 ちょうどノワールさんの前の席が空いていたので、俺はそこに腰かけた。


「お互い教科書忘れたら見せ合いっこしようねっ」


 フェルミナさんがとなりの席から話しかけてくる。

 俺の正面席はというと、金髪の女の子だった。


「さて、みなさんには、まずは自己紹介をしてもらうわ」


 エリーナ先生の指示を受け、廊下側の最前列から順番に自己紹介をすることになった。

 自己紹介は着々と進んでいき、俺の前に座っていた女の子の番になる。


「エファ・エファエルっす!」


 ものすごく聞き取りやすい声だった。


 エファさんって、昇級試験のときにニーナさんが言ってた、あのエファさんか。

 てことは彼女はフェルミナさんとかノワールさんと肩を並べるほどの魔法使いってわけだ。


「出身はネムネシアっす! この学院には、自分探しのために通ってるんすよ! 以上、よろしく頼むっす!」


 エファさんは自己紹介を終えると着席した。


 あれ? 得意系統は言わないのか?

 ほかのクラスメイトは、みんな自分の得意系統を口にしてたんだけど。

 それに学院に通ってる理由が『自分探しのため』ってのもよくわからないし……。


「アッシュ・アークヴァルドです。得意系統は風です。よろしくお願いします」


 ともあれ、俺の番がまわってきたので簡単に自己紹介をする。

 ほんとは得意系統とかないんだけど、編入試験のときに風系統が得意って言ってしまったしな。


     ◆


 優秀な魔法使いの日課をまねすれば俺にも魔力が宿るかもしれない。


 そんな淡い期待を胸に秘め、俺は休み時間になるたびにクラスメイトに『日課』について聞いてまわった。


「日課? そうだな……難しい本を読むことかな」

「お花に水をやることね」

「一日五食! お肉山盛りだよっ!」

「お父さんと毎日電話してるわ。毎日電話しないと、心配して電話が鳴り止まなくなっちゃうもん」

「授業の予習復習は欠かさないね。特に復習は大事だよ!」

「毎朝体操してるよ」

「日記をつけてるわ」


 ……等々。

 上級クラスなのだからもっとすごい日課があるだろうと思ってたけど、すごく普通だ。

 毎日体操したり日記をつけたところで魔力は宿らないんじゃないかと思うけど……でも、やってみないとわからないしな。


 そうやって聞きだした日課をノートにまとめている間に、放課後になった。

 あと聞いてないのは……エファさんだけか。


「エファさんに質問があるんだけど」


 帰り支度をしていたエファさんに声をかけると、満面の笑みで振り向いてきた。


「はいはいっ、なんっすか?」

「エファさんって、なにか毎日やってることとかある?」

「あはっ、やっとわたしの番がまわってきたんすねっ」


 エファさんは嬉しそうに笑っている。


「いやぁ~、いつ質問されるのかな~って、ずっとそわそわしてたんすよっ。質問って、わたしの日課っすよね? それはずばり『自分探し』っす!」


 自分探しの旅ってのは聞いたことがあるけど、自分探しを日課にしているひとははじめて見たな。


「ここに通ってる理由も自分探しのためとか言ってたな。それってつまり、この学院で将来の夢を見つけたいとか、そういうことか?」

「わたしは卒業したら地元に就職するつもりっす。それがわたしの将来の夢っす」


 すでに将来の夢は決まってるってことか。


「けどネムネシアって、かなりの田舎町じゃなかったっけ? エファさんならもっといいところに就職できると思うけど……」

「わたしは家族が大好きっすからね! 一日でも早く実家に帰りたいんすよ!」

「それなら地元の学校に入学すればよかったんじゃないか?」


 ネムネシアはエルシュタニアから飛空艇で一日以上かかる距離にある。

 家族と離れたくないなら、地元の学校に通えばいいのに……。


「わたしは特待生なんすよ。学費免除のうえで生活費を支給するからうちの学院に来ないかって、学院長に誘われたんす」

「学院長に? それはすごいな」


 フィリップ学院長からじきじきに誘いを受けるなんて羨ましすぎる。


「国王様の誘いを断るのは失礼だって親に言われて、この学院に通うことになったんす。でも、わたしにはこの学院でやりたいこととかないんすよ」


 なるほどね。

 つまり自分探しってのは、『在学中の目標を探す』って意味か。


「なら魔法の訓練をするのはどうだ? 苦手な系統の魔法を卒業までに使えるようにする、とかさ」

「わたしには苦手な系統がないんすよ」


 極々希に、あらゆる精霊に好まれる魔力を持って生まれる魔法使いが存在する。

 有名どころだと、フィリップ学院長がそうだ。

 つまりエファさんは、やろうと思えばどんな魔法でも使いこなせるようになれるってわけだ。


 ……なにそれ、めちゃくちゃ羨ましいんですけど。


「わたしは達成困難な目標を見つけたいんす。そして、卒業までに達成できるように努力したいんすよ」

「達成困難な目標ね……」


 俺はエファさんと一緒になって考えてみる。

 とりあえず、魔法絡みのことは目標にはならないんだよな。


「たとえば、卒業までに大金を稼ぐ、とかは?」

「お母さんに『学生の本分は勉強だ』って怒られそうっす」

「そっか。しっかりした母親だな。なら卒業までに恋人を作る、とかは?」

「はじめての恋人って、一生に関わることっすからね。期限を決めて作るようなものじゃないと思うっす」

「そっか。エファさんはまじめなんだな。だったら――」


 と、そんな感じで俺は目標を提案するが、エファさんのお眼鏡にかなうものは見つからなかった。


 そうこうしているうちに日が傾いてくる。

 教室には、俺とエファさんしか残っていない。


「ちょっと話しすぎたな。そろそろ帰る?」

「そっすね。いろいろ提案してくれて助かったっすよ。……ところでずっと気になってたんすけど、アッシュくんはどうして日課を聞いてまわってたんすか?」

「優秀な魔法使いが普段していることをまねすれば、俺にも魔力が宿るんじゃないかと思ってな」


 エファさんが不思議そうな顔をする。


「まるで魔力が宿ってないみたいな言い方っすね」

「実際宿ってないしな」


 エファさんは、ますます不思議そうな顔をする。


「魔力がないって、魔法が使えないってことっすよね。じゃあフェルミナさんにはどうやって勝ったんすか?」

「物理攻撃だ」

「物理攻撃!? 物理攻撃ってパンチとかキックっすか!?」

「まあ、だいたいそんな感じかな」


 正しくは『正拳突きによって発生した風』とか『息』だけどね。

 しかも決め手はフェルミナさんの魔力切れだ。


 とはいえ『息を吹きかけて火焔弾ファイアボールを消滅させた』とか言ってもエファさんを混乱させるだけなので黙っておく。


「それ、すごくないっすか!?」


 エファさんは誕生日プレゼントを前にした子どもみたいに目をキラキラさせている。


 えっ、なんで喜んでるの?

 この反応は予想外だな……。

 てっきり信じてもらえないと思ってたんだけど。


「俺の話を信じるのか?」

「というより、真実であってほしいと思ってるっす!」

「どうして?」


「それがわたしの目標だからっすよ!」


「目標?」

「わたし、卒業までにアッシュくんみたいな武闘家になるっす! それが万能の魔法使いであるわたしの目標っす!」


 そう言って、エファさんは俺に頭を下げてきた。


「アッシュくん! ――いえ、師匠! どうかわたしを弟子にしてほしいっす!」



次話もなるべく早くお届けできるよう頑張ります。

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