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プレゼントを買いにいきます

 実家をあとにして数日が過ぎた。


 その日の朝。


 エルシュタニアに帰ってきた俺とノワールさんは、校門前にやってきた。


 しばらくそこで待っていると、赤髪の女の子が駆け寄ってきた。



「お待たせーっ!」



 フェルミナさんだ。



「貴女、汗をかいてるわ。このタオルを使うといいわ」


「ありがとーっ!」


「それだけ汗をかいたなら、喉も渇いてるはずよ。この水を飲むといいわ」


「ありがとっ! ノワちゃん、なんだかすごく優しいねっ! なにか良いことあったの?」


「あったわ。だって、貴女に再会できたもの」


「えへへー、嬉しいなっ。あたしもノワちゃんに会えて嬉しいよっ!」



 フェルミナさんに抱きつかれ、ノワールさんは幸せそうに頬を緩めた。


 ひさしぶりに友達と再会でき、ノワールさんは本当に嬉しそうだ。



「いつまで一緒にいられるのかしら?」


「明日までは一緒にいられるよ。で、ひとまず仕事に戻って、モーリスさんの誕生日の前日にまた再会って感じかなっ!」


「忙しいのに誕生日パーティに参加してくれて、本当にありがとね! モーリスじいちゃんも喜ぶよ!」


「どういたしまして! でもでも、お礼を言いたいのはこっちだよ!」


「フェルミナさんがお礼を?」


「うんっ! だって勇者一行の最古参が集うパーティなんて、普通は参加できないもんっ! 団長に事情を話したら、めちゃくちゃ羨ましがってたよっ! ためになる話をいっぱい聞いてきなさいって言われちゃった!」


「ためになる話かー。だったら、トロンコさんに積極的に話しかけるといいと思うよ」


「え? トロンコ様も来るの!? あの最強の炎魔法使いの!?」


「うん。そのトロンコさんだよ」


「そんなひとも来るんだね……でも、あたしなんかが気安く話しかけちゃっていいのかな?」


「緊張するなら、私が仲介してあげるわ。トロンコとは、飛空艇の貸し借りをする仲だもの」


「ええっ!? ノワちゃんとトロンコ様ってそんな仲なの!?」



 動揺され、ノワールさんはうろたえた。



「……ちょっと話を盛ってしまったわ。ほんとは借りただけよ。貸したことはないわ」


「それでもすごいよ! 普通に話しかけるだけでも緊張するのに、飛空艇を貸してくれなんて言えないもんっ! そんなに仲良しなら、仲介してもらおうかなっ」


「私に任せるといいわ」


「うんっ、よろしくねっ! 誕生日パーティ、楽しみだなぁ! ……ところでエファちゃんはいつ来るの?」


「そろそろだと思うよ」



 と、噂をすればなんとやら。


 瞬間移動を使ったのだろう、いきなり目の前にエファが現れた。



「おひさしぶりっす!」


「ひさしぶりーっ! 元気そうでなによりだよっ! 仕事は順調?」


「順調っす! フェルミナさんは仕事順調っすか?」


「うん、順調だよっ! こないだアッシュくんとノワちゃんが仕事を手伝ってくれたのっ! そしたら、あっという間に問題が片付いちゃったんだよ! あのときは本当にありがと!」


「お礼を言いたいのはこっちだよ。おかげで魔力が上がったからね!」


「その魔力が上がったのって、わたしに会う前っすか? 会ったあとっすか?」


「エファに会う前だよ。でも、エファと別れたあとも魔力が上がったぞ!」


「おおっ! それってつまり、キャスコ王国の修行が上手くいったってことっすねっ?」


「まあ、そんな感じかな。父さんたちとのわだかまりも解けたし、また会いに行くって約束もしたし、そのときはエファを紹介するよ」


「ぜひよろしく頼むっす!」


「ねえねえ、ふたりともなんの話をしてるのっ?」


「アッシュが両親と仲直りしたのよ」


「アッシュくん、家族と喧嘩してたの?」


「喧嘩してたわけじゃないよ。いろいろと誤解が重なって、帰省するのをためらってたんだ。でも、こないだの帰省で誤解も解けたし、これからは定期的に里帰りするよ」


「そのときはあたしも連れてってほしいなっ! 友達の家に泊まるのって楽しいもん!」


「わかるっす! フェルミナさんのお家に泊まったときも楽しかったっすもん!」


「じゃあ、私のお家にも泊まりに来るといいわ」


「ノワールさんのお家って、ネムネシアにあるあそこのことっすか?」


「違うわ。それは研究所よ。それに研究所はもうないわ。真っ二つになったもの。私の実家はエルシュタット王国の南にあるわ。魔法杖の……なんだったかしら?」


「ヘクセラ社だよ」


「そうだったわ。ヘクセラ社の社長のお家が、私の実家だったのよ」


「ノワちゃん、社長令嬢だったの!?」


「びっくりっす!」


「私もびっくりしたわ。お父さんとお母さんもびっくりしてたわ。でも、帰ってきた私を見て、喜んでたわ。また顔を見せに帰りたいわ」



 父さんたちに抱きしめられる俺を見て、ノワールさんは羨ましくなったのだろう。



「また今度、ノワールさんの実家に行こう!」



 ノワールさんはこくりとうなずき、



「そのときは、ふたりにもついてきてほしいわ。私の大切な友達だって紹介したいもの」



 フェルミナさんとエファは、にこりと笑った。



「もちろんだよっ!」


「ノワールさんの実家、楽しみっす!」


「嬉しいわ……」



 友達と遊ぶ予定ができ、ノワールさんは幸せそうにほほ笑んだ。



「さて、そろそろプレゼントを買いに出かけよっか?」


「だねっ! ちなみに、どこに買いにいくの?」


「商店街だよ。あそこに行けば、たいていのものは手に入るからね! 2時間くらい別行動で買い物をして、それが終わったら昼食にしよう!」


「賛成っ!」


「異議なしっす!」


「早くプレゼントを選びたいわ」



 近況報告が終わり、俺たちは商店街へと向かうのであった。



     ◆



 それから1時間が過ぎた。


 俺がひとりで待ち合わせ場所に佇んでいると、フェルミナさんが歩み寄ってきた。



「あれ? アッシュくん、もう戻ってきてたんだ。てっきりあたしが一番だと思ってたよ」


「俺は事前になにを買うか決めてたからな。フェルミナさんこそ早かったね。なにを買ったんだ?」



 俺がたずねると、フェルミナさんは得意満面になった。


 そして紙袋に手を突っこみ、



「じゃじゃーん! 足つぼサンダルだよっ!」


「おおっ、いいね!」


「でしょっ? これを履いて散歩したら、めちゃくちゃ健康になっちゃうよっ!」


「最高のプレゼントだね! モーリスじいちゃんも喜んでくれるよ!」


「うんっ。喜んでもらえると嬉しいなっ! ――あっ! エファちゃんが来たよ! おーい、こっちこっち~!」



 フェルミナさんが手を振ると、エファが駆け寄ってきた。



「ふたりとも早いっすね!」


「最初に入ったお店で『これだ』ってものが見つかったのっ。ちなみにあたしのプレゼントは足つぼサンダルだよっ!」


「足つぼサンダルっすか! わたしと似てるっすね!」


「エファはなにを買ったんだ?」


「腰痛矯正クッションっす!」


「おおっ、いいね!」


「いいっすよねっ。これで師匠の師匠は腰痛とサヨナラっす! それで、師匠はなにを……」



 と、エファが俺の手元をじっと見てくる。



「師匠は杖を買ったんすね!」


「ああ。でも、杖は杖でもただの杖じゃないぞ。これは仕込み杖なんだ」


「なにを仕込んでるんすか?」


「これだよ、これ!」



 刀を抜くように柄を引っ張ると、魔法杖が現れた。



「おおっ! かっこいいっすね!」


「だろっ? かっこいいよな、これ!」



 師匠は武闘家だが、魔力ゼロってわけじゃないのだ。


 たまにふと魔法を使いたくなるときがあるかもしれない。


 そんなとき、この杖があれば使いたいときに魔法を使えるってわけだ!



「師匠の師匠も大喜び間違いなしっすね!」


「ああ! 喜んでもらえると嬉しいよ……!」



 モーリスじいちゃんの喜ぶ顔を想像すると、嬉しくなってくる。


 早く誕生日にならないかな……。



「あっ! ノワちゃん来たよ!」


「こっちっすよ~!」



 ふたりが手を振ると、ノワールさんがよたよたと歩み寄ってくる。


 そして俺たちのもとにたどりつくと、その場に大きな箱を置き、ふぅと一息ついた。



「待たせてしまったかしら?」


「俺たちもさっき来たところだよ。にしてもそれ、かなり大きいね」


「すごく重そうっす」


「そんなに重くないわ。だって、中身は羽毛布団だもの」



 めちゃくちゃ奮発したな……。



「ノワちゃん、羽毛布団を買ったのっ?」


「高くなかったっすか?」



 驚くふたりにノワールさんは少し得意気な顔でうなずき、ポーチから銀貨を取り出した。



「全財産が、これ1枚になってしまったわ。でも、羽毛布団を見た瞬間、モーリスの喜ぶ顔が脳裏をよぎったのよ。気づいたときには、お会計が終わっていたわ」


「ノワールさん……モーリスじいちゃんのために、そこまで……」


「貴方が試練の間にいるあいだ、モーリスは私に優しくしてくれたもの。あのときの恩を返すときが来たわ。早くプレゼントを渡して、喜んでほしいわ」


「だね! 俺も早く渡したいよ!」


「わたしも渡したいっす!」


「あたしも! 誕生日が楽しみだねっ!」



 そうして誕生日を待ち遠しく思いつつ、俺たちはプレゼントを置きに宿屋へ向かうのだった。



     ◆



 そして誕生日当日の正午前。


 俺たちはキュールさんの屋敷を訪れた。


 森のなかに佇む屋敷はかなり広く、近くに民家などないため、騒いでも迷惑はかからない。


 まさに誕生日パーティに打ってつけの立地だ。


 会場を提供してくれたキュールさんに感謝しないとな!



「みんなはどこにいるんすかね?」


「食堂にいるって聞いたぞ」


「これだけ広いと食堂を見つけるのも大変だね」


「……」


「どうしたんすか、ノワールさん?」


「向こうから良い匂いがするわ」


「じゃあ食堂はあっちっすね!」



 俺たちはノワールさんの嗅覚を頼りに廊下を進み、突き当たりのドアを開けた。


 そこには、モーリスじいちゃんたちがいた。


 どうやら食堂にたどりつけたらしい。テーブルにはご馳走が並んでいる。


 俺を見た瞬間、モーリスじいちゃんが満面の笑みになる。



「おおっ、アッシュよ! ひさしぶりじゃのぅ!」


「ひさしぶりっ! 元気にしてた?」


「うむっ! 元気満々じゃよ! アッシュも元気そうでなによりじゃ! ほんと、元気な姿を見せてくれて嬉しいのぅ……」


「アッシュくんに会えてよかったね、モーリス」


「モーリスったら、アッシュくんの顔を見たい見たいってうるさかったものね」 



 涙ぐむモーリスじいちゃんを見て、フィリップさんとコロンさんがほほ笑ましそうにする。


 そのうしろで、トロンコさんが恋する乙女みたいにもじもじしつつ、モーリスじいちゃんをチラ見している。


 トロンコさんはモーリスじいちゃんの大ファンだからな。


 フェルミナさんがトロンコさんを前にしてどぎまぎしているように、話しかけるのをためらっているのだろう。


 トロンコさんにはお世話になったし、ちゃんと仲介しなければ!



「そういえば俺、グリューン王国でトロンコさんに飛空艇を貸してもらったんだよ」


「おおっ、そうじゃったのか。すまんのぅ、トロンコ」


「い、いえいえっ! 吾輩も飛空艇に乗りたいと思っていたところなので良い気分転換になりましたっ!」



 トロンコさん、モーリスじいちゃんと話せて嬉しそうだな。


 お次は……


 ノワールさんに目配せすると、こくりとうなずかれた。


 ごほん、とわざとらしく咳をして、



「トロンコ。私の友達のフェルミナは魔法騎士団で炎魔法を使うわ。あと、お肉が大好物よ」



 約束通り、トロンコさんにフェルミナさんを紹介する。


 その途端、フェルミナさんは急に顔を強ばらせた。緊張感がひしひしと伝わってくる。



「ふむ。お主、肉が好きなのか」


「はい! 大好きです!」


「そうか。吾輩の故郷に美味い焼肉屋があるのだ。ご馳走してやるからアッシュやノワールと来るがいい」


「い、いいんですかっ?」


「無論だ。これからの世界はお主のような若者が守らねばならんのだ。たっぷりと喰って力をつけるがいい」


「ありがとうございます!」


「食べるわ。あと、エファも連れていっていいかしら?」


「エファというのは、そこの娘か?」


「はい! エファはわたしっす!」


「エファはアッシュの一番弟子なのよ」


「ふむ。ネミアの姉弟子か。ならば断るわけにもいくまい。お主も食べに来るといい」


「やったー! みんなで旅行できるっすね!」


「楽しみだわ」



 ノワールさんたちはうきうきしている。



「師匠! これ、誕生日プレゼントだよ!」



 仲介が終わったところで、俺は師匠に仕込み杖を渡した。



「おおっ、杖か! 嬉しいのぅ! ちょうどいまの杖にガタがきておったところなのじゃ!」


「ただの杖じゃないよ! それ、仕込み杖なんだっ。なんと魔法杖になるんだよ!」


「むっ? ――おおっ! ほんとじゃ! かっこいいのぅ」


「だよねっ! かっこいいよね!」


「うむっ。大事に使わせてもらうからのぅ」



 師匠は嬉しそうにニコニコしている。


 これ以上ないくらいの喜びぶりだけど、ここで魔法を披露したら、もっと喜んでくれるはずだ。


 でもその前に……


 フェルミナさんたちに目配せすると、3人はモーリスじいちゃんのまわりに集まった。



「これ、わたしのプレゼントっす!」


「こっちはあたしのです!」


「これは私のよ」



 プレゼントを渡され、師匠は感極まったように涙を流す。



「こんなにたくさんの子どもたちに祝ってもらえるなんて……わし、幸せ者じゃ……」


「よかったわね、モーリス」


「うむっ」



 コロンさんにほほ笑まれ、モーリスじいちゃんは満面の笑みでうなずいた。




「――やあ、みんな揃ったみたいだね」




 と、そこへキュールさんがやってきた。


 買い物に出かけていたらしく、立派なケーキを手にしている。



「美味しそうだわ」


「ノワールくんは見る目があるね。お察しの通り、この国で一番美味しいと評判のケーキさ! さっそく食べよう!」



 キュールさんがケーキを切り分けているあいだに、俺たちは部屋の隅っこに荷物を置いて、席につく。


 そして全員にケーキが行き渡ると、モーリスじいちゃんがごほんと咳払いをする。



「今日はわしのためにわざわざ集まってくれて感謝するのじゃっ! 欲を言わせてもらえば、これからも毎年祝ってほしいのじゃ!」


「もちろん毎年お祝いするよっ! だから長生きしてね、師匠!」


「わし、幸せじゃ……。100年だろうと、200年だろうと、生きてみせるのじゃ……」



 師匠が再び泣き始める。


 そんな師匠を、コロンさんたちがほほ笑ましそうに眺めている。


 そのときだ。




『否! 貴様らの余命はあとわずか! 吾輩の手により、命の灯火は尽きるのだ!』




 地鳴りのような声が響き、部屋の隅っこに置いていたカバンが独りでに動き始めた。


 そして次の瞬間――



 びりびりっ! 



 ふいにカバンが内側から引き裂かれ、銀色の人形が飛び出してきた。



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