表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/152

占ってもらいます

 ノワールさんの実家をあとにした日の夕方。


 エルシュタニアに到着した俺たちは、ひとまず銀行でお金を下ろした。


「これだけあれば安心して旅ができるね!」


「貴方と旅を続けることができて嬉しいわ。これからどうするのかしら?」


「ネミアちゃんと合流するよ。で、一緒に遊んで緊張をほぐしてあげよう!」


「頭を撫でて、安心させてあげたいわ」


 話がまとまり、俺たちは待ち合わせ場所の校門前へと向かう。



「……なにかいるわ」

「なにかいるね」



 そして、ぴたりと立ち止まる。


 校門の前に、武士の甲冑らしきものを纏った人物が佇んでいたのだ。


 その手には、木刀が握られている。


 あれって……



「ネミアちゃん?」



 そっと声をかけると、武士がこっちを振り向いた。



「アッシュ殿! ノワール殿! おふたりともお元気そうでなによりであります!」



 甲冑を纏っていたのは、ネミアちゃんだった。


 ペンギンみたいによたよたと歩み寄ってくる。


 ものすごく歩きづらそうだけど……



「その格好、どうしたんだ?」


「服についてるそのキラキラしているのはなにかしら?」


「アッシュ殿の缶バッジでありますっ!」



 俺の缶バッジかよ! 


 なんで全身につけてるんだよ! 武士の甲冑かと思ったぞ!


 フィギュアがあることは知ってたけど、まさか俺の缶バッジまで作られていたとは。


 ていうか、なんで俺の缶バッジを大量に装備してるんだ? 歩きづらいだろうに……



「よく見ると、アッシュの顔が描かれてるわ」


「だね。けど、なんで俺の缶バッジを装備してるんだ?」


「アッシュ殿の缶バッジを身につけていると、強くなった感じがして、安心するのでありますよっ」



 ああ、なるほど。


 不安な気持ちを消し飛ばすために、缶バッジを身につけてるのか。


 つまりネミアちゃんにとって、俺の缶バッジは厄払いのお守りってわけだ。


 それにしても、つけすぎだけど……。ちょっと不気味だし、逆に呪いの装備に見えなくもないぞ。



「この装備で、編入試験を突破してみせるであります!」


「その格好で挑むのか?」


「もちろんであります! だって、これを脱いだら弱くなった感じがして、不安になるでありますもん」


「試験が不安なのはわかるけど、その格好はやめといたほうがいいんじゃないかな」


「なぜでありますか?」


「ものすごく動きづらそうだからだよ」



 さっきだってペンギンみたいな歩き方してたしな。


 重りをつけているようなものだし、ルーンを描くのも一苦労だろう。



「貴女なら缶バッジがなくても合格できるわ」


「そうだよ。ネミアちゃん、武闘大会で優勝するくらい強いんだからさ」


「それに貴女は魔物を倒したわ。もっと自信を持っていいわ」


「でも、試験のことを思うと、不安になるでありますよ……。私、最近あまり眠れてないでありますから……。缶バッジを身につけて、やっと眠れるようになったでありますし……」



 それ、パジャマなの?


 逆に眠りにくそうなんだけど……



「私たちが不安を消してあげるわ。だって、そのために来たんだもの」



 さっそくネミアちゃんの頭を撫でるノワールさん。


 心なしか、ネミアちゃんは少し落ち着いた様子だ。


 だけど、万全の状態とは言いがたい。


 こうなったら当初の目的通り、ネミアちゃんと一緒に過ごして緊張をほぐしてあげないとな!



「ネミアちゃん、なにかやりたいこととかある?」


「おふたりと一緒に寝たいでありますっ! だって私、寂しかったでありますもん!」



 寂しかった、か。


 そりゃそうだよな。


 ネミアちゃん、まだ12歳だし。ひとり暮らしをするような歳じゃないもんな。


 だったら……



「試験って、来月の頭だったよな?」


「はい。あと2週間もないであります……。私、緊張で、ずっと心臓がバクバク鳴ってるでありますよ……」


「だったら、しばらく俺たちとネムネシアで過ごさないか?」



 ネムネシアはエルシュタット王国で一、二を争うほどの田舎町だ。


 あそこなら、ネミアちゃんも試験のことを忘れてのんびり過ごせるだろう。



「私がついていって、修行の邪魔にならないでありますか?」


「ならないよ。ネムネシアにはエファっていう友達に会いに行くだけだしさ」


「エファ殿でありますかっ! それってアッシュ殿の一番弟子でありますよね!?」


「そうだよ」


「私、一度会いたいと思ってたであります! お供させてほしいであります!」


「決まりだね。じゃ、出発は明日の朝ってことにして……今日はネミアちゃんの家に泊めてもらっていいかな?」


「もちろんであります!」



 俺たちと過ごせるとわかり、寂しい気持ちは吹き飛んでしまったらしい。


 ネミアちゃんが、わくわくとした眼差しで見つめてくる。



「さっそく私の家に向かうでありますか?」


「そうしようかな。で、ネミアちゃんが服を着替えたら、夕飯を食べに出かけよう」


「承知したでありますっ! 私の家はこっちでありますっ!」


 

 そうして俺たちはネミアちゃんの家へ向かう。


 そしてネミアちゃんが着替え終わったところで、再び外に出た。


 甲冑みたいな服を脱いだネミアちゃんは、落ち着かない様子で歩いていき――



「なんだか身体に違和感があるであります――わあっ」



 と、足をもつれさせて転んでしまった。


「だいじょうぶか?」


「怪我してないかしら? 足を痛めたならおんぶするわ」


「これくらいへっちゃらでありますっ。だけど……私の運勢、下がっちゃったかもであります」



 ネミアちゃんにとって、俺の缶バッジはお守りだったのだ。


 お守りを外したことで運が下がり、転んでしまったと解釈したらしい。


 実際は重い服を脱いだことで急に身体が軽くなり、上手く歩けなかっただけだろうけど……



「私の運勢、とんでもないことになっちゃったでありますかねぇ……」


「運勢が気になるなら、あそこで占ってもらおうか」



 俺は路肩にいるローブ姿のお婆さんを指さした。


 何年も前からあの場所で水晶占いをしているお婆さんだ。



「なんだか楽しそうでありますっ!」



 乗り気になったネミアちゃんとともに、俺たちは占い師のもとへ足を運ぶ。



「お婆ちゃんっ! 私の運勢を占ってほしいであります!」



 ネミアちゃんがお金を支払うと、占い師は水晶玉を覗きこみ――


 カッと目を見開く。


 ネミアちゃんは、ごくりと喉を鳴らした。



「な、なにか見えたのでありますか?」


「夜明けが……夜明けが見えますじゃ……」


「夜明けでありますか?」


「ええ。夜明け――すなわち、新しいことが始まる予感ですじゃ!」


「新しいことでありますかっ! それって新入生になれるってことでありますかっ!?」



 嬉しげなネミアちゃんに、占い師はにこりとほほ笑む。



「ラッキーカラーは、白ですじゃ」



 会話は噛み合っていないが、ネミアちゃんにとっては満足のいく回答だったようだ。



「おおっ! 白でありますか! 私の魔法杖、白でありますよ!」



 白い魔法杖で挑めば合格できると解釈したらしく、ネミアちゃんは上機嫌になる。



「ネミアちゃんならぜったいに突破できるよ!」


「貴女なら合格できると信じてるわ」



 ここぞとばかりに励ますと、ネミアちゃんは自信満々にうなずいた。



「私、ぜったいに受かってみせるでありますっ!」



 この様子なら、プレッシャーを感じることなく試験に臨めそうだ。


 うきうきしているネミアちゃんを見て、占い師のお婆さんも満足そうにほほ笑んでいる。



「貴方も占ってもらうといいわ。おすすめの修行先を教えてもらえるかもしれないもの」


「そうだね。せっかくだし、俺も占ってもらおうかな」



 お金を払うと、お婆さんが水晶玉を覗きこむ。


 くわっと目を見開き、



「澄み渡る空……澄み渡る空が見えますじゃ……」


「それって、どういう意味ですか?」


「澄み渡る空――すなわち、悩みから解き放たれ、心が軽くなるのですじゃ!」



 お婆さんは、さらに水晶玉を覗きこむ。



「澄み渡る空の下に、まっさらな大地が見えますじゃ」


「それはなにを意味してるんですか?」


「まっさらで、なにもない場所――すなわち、原点ですじゃ。原点に戻ることで、澄み渡る空を見ることができるのですじゃ」



 原点回帰することで、悩みから解き放たれるってことか。



「原点って、どういう意味でありますか?」


「はじまりの場所とか、出発点とか、そういう意味だよ」


「貴方の武闘家としての出発点……『魔の森』のことかしら?」


「もしくは魔法使いとしてのスタート地点――最東端の遺跡だね」


「はじまりの場所だから、生まれ故郷だと思うでありますっ!」



 あえて意識の外に追いやっていた場所を、ネミアちゃんが口にする。


 たぶん、ネミアちゃんの言ってる場所で正解だろう。


 なにせ生まれ故郷は、俺にとってトラウマの地なのだ。


 そこには俺を捨てた父さんと母さんがいるのだから。


 親に捨てられたのだと思い出すだけで、心が重くなってくる。


 だけど――



「お家に帰りたくないのかしら?」



 ノワールさんが気遣わしげにたずねてきた。


 付き合いが長いだけあって、俺の考えていることがわかるようだ。


 暗い顔をする俺を見て、ノワールさんは不安そうにしている。


 正直、気乗りはしないけど――


 でも、俺のことを心配してくれるノワールさんに、不安な思いはさせたくない。


 よし、決めた!



「俺、帰省してみるよ!」



 そんでもって、父さんと母さんに魔法使いになった姿を見せてやる!


 最初はお互いに気まずい思いをすることになるけど……


 でも、実際に会わない限り、親とのわだかまりは解けないしな!


 それに生まれ故郷には赤点の主がいるのだ!


 大魔法使いになるためにも、生まれ故郷は避けては通れぬ場所なのである!



「貴方の故郷はどこにあるのかしら?」



 ノワールさんが強者の居場所を示す地図を広げた。


 俺はエルシュタット王国の隣国――キャスコ王国の北部を指さす。



「ここが俺の故郷だよ」


「赤点があるわ」


「うん。たぶんだけど、その赤点の主は俺の知り合いだよ」


「だったら門前払いはされないわ」


「ああ。どんな修行をつけてくれるか、いまから楽しみだよ!」



 とはいえ、すぐに帰るわけじゃないけどな。


 まずはネムネシアに寄り、エルシュタニアに戻り、それからキャスコ王国へ向かうのだ。


 そして親とのわだかまりを解き、修行をして、モーリスじいちゃんの誕生日を祝うのである!



「っと、すみません、占いの途中に話しこんじゃって。えっと、ラッキーカラーとかってありますか?」


「ラッキーカラーは金色ですじゃ。あと、銀色に用心なされ」



 銀貨の使いすぎに注意ってことかな?


 わからないけど、ラッキーアイテムとして金貨をポケットに入れておくとするか。



「ノワールさんは占いどうする?」


「私はいいわ。だって、私は不安も迷いもないもの。貴方のそばにいられるだけで幸せだもの」



 それに、とノワールさんがお腹を押さえる。



「早くご飯にしたいわ」


「私もお腹ぺこぺこでありますっ!」


「じゃ、飯にしよう!」



 そうして占いのお婆さんに礼を告げ、俺たちはうきうきとした足取りで飲食店へと向かうのだった。



活動報告のほうで武闘家5巻のカバーイラストを公開しました。

ネミアちゃんや武闘大会メンバーの姿をチェックできますので、よろしければご覧ください。

また、コミカライズ企画も進行中です。

詳細は後日あらためて活動報告のほうでお知らせ致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ