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新たな魔法です

 1体目のサンドアントを倒したあと。


 新たなサンドアントに襲われることなく通路を下りていき、俺たちは行き止まりにたどりついた。



「あれは落とし穴かしら?」



 ノワールさんが壁際を指さす。


 クロエさんの魔法で明るく照らされた通路の最深部に、ぽっかりと穴が空いていたのだ。


 ノワールさんと一緒に穴を覗きこんでみると……ぷぅん、と腐臭が漂ってきた。


 ノワールさんが鼻をつまみ、顔をしかめる。



「臭いわ。ゴミ捨て場かしら?」


「いや、きっとエサの貯蔵庫だよ。この奥には魔物の死骸が転がってるんだ」


「ですね。ついでに言うと、産卵場所の可能性もあります」


「つまり、あたしたちは目的地ゴールにたどりついたってことだよ!」


「あっという間だったわ」


「ですね! それもこれも、アッシュさんが女王蟻マザーアントを倒してくださったおかげです!」


「やっぱり、あれが女王蟻だったんですかね?」


「間違いないでしょう! なにせ女王蟻の特徴と一致してましたからね!」


「黒くて大きかったわ」


「だね! それにあたしの炎魔法を受けて無傷だったのは最初の1体目だけだし、あれが女王蟻で間違いないよ!」



 フェルミナさんの言う通り、最初に飛び出してきたサンドアントだけが無傷だった。


 巣穴のそばにいたサンドアントは燃えてたし、残りは潰されていたのだ。


 きっと真っ先に飛び出してきた女王蟻(仮)に踏み潰されたんだろう。


 どうして親玉が斬り込み隊長を務めたのかはわからないけど……


 まあ、考えるだけ無駄か。


 元々サンドアントは殲滅するつもりだったし、今回は強敵と戦うのが目的じゃないしな。



「とにかく、みんなに怪我がなくてなによりだよ」



 今回俺が自分に課した使命は、ノワールさんとフェルミナさん、クロエさんを守り抜くことだ。


 強くなるために戦うのではなく、大切なひとを守るために戦う。


 そうすることで強くなるって、フェルミナさんに教わったからな。


 この調子で守り抜いてみせるぞ!



「じゃ、なかの様子を見てきますね!」



 そんなわけで、俺はひとりで穴のなかに飛びこんだ。


 すたっと着地。


 薄暗い空洞を見まわすと……魔物の死骸と半透明の卵がそこらじゅうに散らばっていた。



「おーい! 女王蟻ー! いるかー?」



 とりあえず呼びかけてみるが、返事はない。


 足音も聞こえないし……ここにいないってことは、やっぱりあの斬り込み隊長が女王蟻だったってことか。



『アッシュさーん! なかの様子はどうなってますかー?』



 と、天井付近の穴からクロエさんの声が降ってくる。


 見上げると、天井付近にはいくつもの穴があった。すべての通路は、この空洞に繋がっているのだ。


 ほかに誰もいないところを見るに、俺たちのチームが一番乗りしたみたいだな!



「魔物の死骸と卵がたくさんあります!」


『私たちに手伝えることはありますかー?』


「そうですね……」



 空洞には、ラグビーボールより二回り以上大きな卵がいくつも転がっている。


 ひとつひとつを潰していくと時間がかかるし、力加減を誤れば空洞が崩壊しかねないからな。


 空洞が崩れれば大惨事だ。みんなを守るどころか、作戦に参加したすべての団員を危険に晒してしまう。


 それを避けるためにも……フェルミナさんに手伝ってもらったほうがよさそうだな。



「卵は魔法で壊したほうがいいと思います! フェルミナさん、ちょっとそこから火炎放射を放って!」


『アッシュさんが燃えてしまいますよ!?』



 クロエさんの悲鳴が空洞内に響き渡る。



「俺なら平気です! ……あっ、でも服が燃えちゃいますね!」


『服の心配はしていませんけど!?』


『平気だわ。アッシュは熱さに強いもの』


『だね! でも、ここからすべてを燃やし尽くすのは難しいよ! だから、あたしがそっちに行くっていうのはどうかな!?』


『それがいいです! そうしたほうが絶対にいいです! アッシュさん! いまの話、聞こえましたか!?』


「はい! だけど、そこから飛び降りるのはやめたほうがいいですよ! 深さ50メートルくらいありますから!」


『深っ!? えっ、深くないですか!? アッシュさん、さっき普通に飛び降りてましたよね!?』


『アッシュは高さに強いわ』


『だね!』


『おふたりとも、先ほどから落ち着きすぎでは!? アッシュさんをなんだと思っているんですか!?』



 クロエさんのつっこみが響き渡る。



『と、とにかく、その高さから落ちたら洒落になりません! ほかの作戦を考えたほうがいいです! 絶対に!』



 ほかの作戦か……。



「そうだ! ノワールさん、魔法で滑り台を作ってくれない?」


『ひさしぶりに魔法を使うわ』



 と、氷製の滑り台が生まれる。


 けっこうな魔力をこめたのか、頑丈そうな造りだ。これならフェルミナさんが滑ったところで壊れる心配はない。



『いまそっちに行くね! ――ひゃあ! 冷たい!』



 つるつるーっと滑り、フェルミナさんが俺のもとへやってくる。



「あー、冷たかった!」


「だいじょうぶ?」


「うん、平気! おしりが濡れて気持ち悪いけど、そのうち乾くからね! にしても……すごいね、これ。卵、どれくらいあるんだろ?」


「ざっと数えただけでも1000以上はありそうだね。一箇所に集めるから、それが終わったら燃やしてよ」


「わかった! あたしも手伝うよ!」



 俺たちはそこらじゅうに散らばった卵をせっせと集める。そして一箇所に集めると、フェルミナさんが火を放った。


 あっという間に燃え尽きる。



「よしっ! これで俺たちの掃討作戦は完了だね!」


「うん! あとはどうやって上に戻るかだね! ノワちゃんが作ってくれた滑り台、ほどよく溶けてつるつるになってるし、駆け上がるのは難しそうだよ。どうする?」


「そうだね……」



 こないだ断崖絶壁を登ったときみたいに壁を歩くという手もあるけど、足を突き刺せば亀裂が走って空洞が崩壊するかもしれないし……



「俺、空を飛んでみるよ」


「アッシュくん、飛行魔法を使えるようになったの?」


「いや、使えるかどうか試してみることにしたんだ」



 飛行魔法のルーンは長いこと描いてないからな。


 世界樹で魔力の質を高めたし、こつこつ修行を続けてきたのだ。いまなら空を飛べるかもしれない。


 それが無理なら、おとなしく壁を歩くとしよう。力加減に気をつければ、崩壊せずに済むだろうしな。



「そんなわけで、俺に跨がってくれないかな」



 地べたにうつ伏せになり、俺は言う。



「でもあたし、おしり濡れてるよ?」


「べつに気にしないよ」


「わかった。じゃ、失礼して……」



 と、フェルミナさんが俺の背中に腰を下ろす。


 そうして準備が整ったところで、俺は寝そべったまま飛行魔法のルーンを描いた。


 その瞬間――



「……浮かないね」



 フェルミナさんが、ぼそっと言う。



「……違う。違うよ、フェルミナさん!」


「違うって、なにが違うの?」


「俺、浮いてるんだ! こう見えて、浮いてるんだよ!」



 そう。俺は浮いている!



 飛行魔法を使い、2㎝くらい浮いているのだ!



「ほんとに!? あっ、確かによく見れば浮いてる気がするね! おめでとうアッシュくん!」


「ありがとうフェルミナさん! 空を飛べるなんて……夢みたいだよ!」



 魔力の質を高めるのがこんなにも効果的だったなんて……。


 世界樹での修行を勧めてくれたリッテラさんには感謝してもしきれない! 今度会ったらお礼を言わないとな!



 さておき、俺の魔力は微々たるものだ。


 うかうかしてると魔力が切れて地に落ちてしまう。



「行くよ! 振り落とされないようにしっかり掴まってて!」


「わかった!」



 フェルミナさんがしっかり掴まったのを確かめ、いざ出発!


 すぃー。


 滑り台の上を、すいすい進んでいく。


 ただ浮かぶだけの浮遊魔法と違い、飛行魔法は意思ひとつで移動することができるのだ!



「すごい! 俺、飛んでる! 俺、飛んでるよ!」


「うん! 飛んでるね! アッシュくん、頑張ったんだね!」



 フェルミナさんに褒められて喜びが倍増する。


 途中で失速することなく滑り台の上を飛んでいき、無事に天井付近の穴にたどりついた。



「なめらかな動きで戻ってきたわ」



 すいすい戻ってきた俺を見て、ノワールさんは少し戸惑っている。



「俺、空を飛んで戻ってきたんだ!」


「おめでたいわ」



 ノワールさんが拍手をしてくれた。


 そう。本当におめでたいことなのだ!


 魔法使いといえば、空を飛ぶイメージだからな!


 ずっと前から魔法使いになることを夢見ていた俺にとって、飛行魔法はひとつの目標だったのだ!



 人類にとって2㎝は地上だけど、俺にとっては大空なのである!



 もちろん2㎝で満足するつもりはない。


 もっともっと修行して、いつの日か雲の上を飛んでみせるのだ!


 そのとき背中にモーリスじいちゃんを乗せてあげたら、喜ぶだろうな……。



「貴方、修行したそうな顔をしているわ」



 ノワールさんが俺の心を読んできた。



「でしたら、修行に備えて今日はお腹いっぱい食べてください! 私が奢りますので!」


「昨日もご馳走になりましたけど、いいんですか?」


「遠慮なんていりませんよ! 掃討作戦で一番活躍したのは、女王蟻を倒したアッシュさんですからね! ほかの部隊はまだ戦ってますけど、女王蟻を倒したことを報せれば士気も上がるはずです!」



 クロエさんは懐から携帯電話を取り出す。


 団員たちに女王蟻の件を報告したくてうずうずしている様子だ。



「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」


「ご馳走楽しみだわ」


「だねっ! 早く帰ろう!」



 俺たちはうきうきとした足取りで地上へと向かう。




「……電話だわ」




 ほかの部隊に電話報告しているクロエさんとフェルミナさんを横目に歩いていると、ノワールさんが懐から携帯電話を取り出した。




「電話って、誰から?」


「ティコよ」



 ティコさんはライン王国で俺に修行をつけてくれた師匠だ。


 俺が世界最長の洞窟にいるあいだに、ノワールさんと連絡先を交換していたらしい。



「アッシュにかわってくれと言われたわ」



 そう言って、ノワールさんが俺の耳に携帯電話を押しつけてくる。


 こうしてノワールさんに魔力を供給してもらわないと、遠くにいるひとと電話することができないのだ。



「もしもし。お電話かわりました」


『やあ、アッシュくん。調子はどうだい? 修行は順調かい?』


「はい。おかげさまで絶好調です!」



 魔力が宿ったときはカマイタチしか使えなかったけど、いまは浮遊魔法に送風魔法、さらに飛行魔法を使えるようになったからな!


 ちょっとずつだけど、大魔法使いに近づいている実感はあるのだ!



『修行が順調そうでなによりだよ。ところで、次の修行先は決めているのかい?』


「いえ、これから決めるところです」


『それはちょうどよかった。実は、きみに良い報せがあるんだよ』


「良い報せ……ですか?」


『うん。きみと別れたあと、いろいろと調べてね。きみが気に入りそうな修行先を見つけたのさ』


「ほんとですか!? ありがとうございます!」


『ふふっ。本当に、きみは得な性格をしているね。そんなふうに喜ばれると、もっと喜ばせてあげたくなるよ。――さて、きみはランタン王国を知っているかい?』


「はい。知ってます!」



 ランタン王国は、大陸南部の大国だ。


 足を運んだことはないけど、飛空艇で上空を通過したことはある。



『私が調べたところによると、ランタン王国の南部に強者揃いの集落があるらしくてね。詳細はわからないけど、一子相伝のルーンを継承している巫女がいるらしいのさ』



 一子相伝のルーンってことは、独自に編み出した魔法ってことか。


 ティコさんの話によると、その魔法を修行に応用することで、村人は強くなっているらしい。



「ありがとうございます。さっそく行ってみます!」


『うん。修行の成功を祈っているよ。またノワールちゃんと一緒に遊びにおいで。美味しいお菓子を用意しておくからね』


「はい! ティコさんと会える日を楽しみにしています!」



 ティコさんとの通話が終わり、ノワールさんに携帯電話を返す。



「用件はなんだったのかしら?」


「ティコさんが新しい修行先を見つけてくれたんだ。ノワールさん、地図を見せてくれない?」


「見せるわ」



 ノワールさんが強者の居場所を示す地図を開く。



「新しい修行先はどこかしら?」


「……きっとここだよ」



 ランタン王国の南部に、青点が密集している場所がある。


 きっとこの青点のひとたちは、一子相伝のルーンを修行に応用することで強くなったんだろう。


 ……決まりだな。



「次はランタン王国に行くよ。そして巫女さんに修行をつけてもらうんだ!」


「ついていくわ」


「あたしは修行の成功を祈ってるね!」



 団員への電話報告を終えたフェルミナさんがエールを送ってきた。



「ありがと! フェルミナさんも仕事頑張ってね!」


「いつかまた貴女やエファと一緒に遊びたいわ」


「あたしもだよ! 次に遊べるのはモーリスさんの誕生日のときだね!」


「待ち遠しいわ」


「だね! 俺、みんなと再会できる日が楽しみだよ!」



 そうして賑々しく会話をしつつ歩いていき、俺たちはサンドアントの巣穴をあとにしたのであった。




お知らせです。

いつも応援してくださっている皆様のおかげで、無事に3巻をお届けできることが決まりました。

発売日は11月22日(水)の予定で、30000字ほど加筆修正した第3章(遺跡巡り編)に加えて、おまけ短編を収録しています。

おまけ短編については、1巻2巻のときと同じくカバーイラストの女の子がメインの話となっております。

カバーイラストについては活動報告のほうで公開しておりますので、よろしければご覧ください。


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