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 教室に乗りこんできた女の子――フェルミナさんに誘われて、俺は食堂にやってきた。


 バイキング形式の学食だ。

 広々とした食堂には美味しそうな料理の香りと賑々しい雰囲気が漂っている。


 さて、今日はなにを食べようかな……。

 大事な真剣勝負の前だし、軽めにしとくか。


 席を決めてフェルミナさんと別れた俺は、栄養バランスを考えながら野菜中心の料理を皿に載せていく。

 そうしてテーブル席に向かうと、すでにフェルミナさんが待機していた。


「それでさ~――あっ! おかえりアッシュくん!」


 近くの席に座っていた女の子と親しげに話していたフェルミナさんは、赤いポニーテールを揺らしながら俺を振り向いてきた。


「おやおやっ、アッシュくんは小食なのかなっ?」


 俺の昼飯を見て、フェルミナさんがそんなことを言う。


「だめだよー、男の子がそんな小食じゃ! もっと食べなきゃ強くなれないよ! 食事はパワーの源なんだからね!」


 そう言って、フェルミナさんは力こぶを作ってみせる。

 知り合って一〇分も経ってないけど、フェルミナさんが人見知りしないタイプというのはよくわかった。


 俺にとって、フェルミナさんは真剣勝負の相手だ。

 つまり『敵』ということになるんだけど……こんなに親しげに話しかけられたんじゃ、敵意を向けるなんて無理だな。

 意識の切り替えは勝負直前にするとして、いまはフェルミナさんとの会話を楽しむとするか。


「そういうフェルミナさんは食べすぎじゃないか?」


 俺のより一回りほど大きな皿が、四枚。

 そのすべてに、山盛りの肉が載っていた。


 こんなの一度の食事で食べる量じゃないぞ……。


「筆記試験で頭を働かせすぎちゃったからね! おなかぺこぺこで死にそうなんだよ!」

「なるほどね。今日が特別多いだけか」


 そりゃそうだよね。

 こんなに食べる女の子が、こんなにスタイル抜群なわけないもんな。


「うんっ、今日は特別多めなの! いつもは三皿だけだよ!」

「それでも多いから!」


 そんなに食べるのに、どうしてその体型を維持できてるんだ?

 胸か? 栄養のほどんどが胸に集まっているのか?


「いただきまーす!」


 我慢できない、といった様子でフェルミナさんは肉にがっつく。

 頬をぱんぱんに膨らませたままもぐもぐと咀嚼し、ごくんと飲みこみ、


「アッシュくんって編入組なんだよね?」

「まあな。それがどうかしたのか?」

「エリーナ先生に聞いたんだよっ! アッシュくんがすごいすごかったって! 編入試験の内容は外部にもらしちゃだめだから、『すごかった』ってことしか教えてもらえなかったんだけどね!」


 エリーナ先生っていうのは、二次試験の試験監督だった若い女性だ。


「どういうふうにすごかったのか、教えてくれると嬉しいな」


 フェルミナさんが、俺の目をじっと見つめて訊いてくる。


 なるほどね。

 フェルミナさんが俺を飯に誘ったのは、『アッシュ・アークヴァルド』の情報を集めるためだったんだな。

 だとすると、正直に答えてやる必要はないよな。


「それは実際に戦ってみればわかることだ」

「それもそうだねっ」


 フェルミナさんは余裕の笑みを崩さなかった。

 情報があろうとなかろうと、俺に勝つ自信はあるってことか。


「はい、それじゃあ次はアッシュくんが質問する番だよ」

「俺が?」

「うんっ。あたしだけ質問したんじゃ不公平でしょ。さあ――どんな質問でもバッチコイだよ!」

「じゃあ……フェルミナさんはいつから上級クラスにいるんだ?」

「入学初日からだよっ。あたしは特待生だからね。いままで負けたことがないの!」

「それはすごいな」

「でしょ~? これはあたしの二つある自慢の一つなのですよ」


 フェルミナさんは照れくさそうにはにかみ、肉を頬張る。

 ……いつの間にか一皿食べ終えてるし。


「俺が勝てば自慢が一つになるけど、だからって恨んだりするなよ?」

「あははっ。あたしがそんな女に見える? 安心して、負けたって恨まないからね! 恨むならあたしの弱さを恨むよ!」


 豪快に笑い、豪快に肉を喰らうフェルミナさん。


 ……なんていうか、すごく気持ちのいい性格してるな、このひと。

 勝っても負けても清々しい気持ちになれそうだ。


「対戦相手がフェルミナさんでよかったよ」

「おおっ! いまの台詞は今年言われて嬉しい台詞ランキング第三位には入るよ!」


 フェルミナさんは本当に嬉しそうに笑う。

 

 喜びの理由は察しがつく。

 普通の生徒は、フェルミナさんとの真剣勝負を不幸なことだと思っているのだ。


 そりゃ練習試合なら『上級クラスとの試合は勉強になる』とポジティブに受け取るだろう。

 だけど、これは大事な昇級試験だ。

 できることなら格下の相手と戦って楽に勝ちたいと思うのが普通だ。

 自分との勝負を『不幸なこと』だと思われたんじゃ、フェルミナさんもあまりいい気はしないだろう。


「ちなみにあたしは、アッシュくんがあたしよりも強いひとだったらいいなって思ってるよ」

「……フェルミナさんは負けたいのか?」

「勝ちたいよ」


 と、フェルミナさんは真剣な顔で言う。


「ならどうして格上と戦いたがるんだ?」

「あたしはね、学院を卒業したら魔法騎士団に入って、あたしの大好きなみんなを魔物から守りたいの」


 魔法騎士団というと、優秀な魔法使いしか入団することができないエリート中のエリートだ。

 部署によって実力にはばらつきがあるだろうけど……フェルミナさんレベルの魔法使いなら、いまの実力でも入団することはできるだろう。


「どんな魔物が相手でも一撃で倒せるくらい強くなる。それが、あたしの卒業までの目標なんだ」


 フェルミナさんが目指しているのは『魔法騎士団への入団』じゃなくて『人類を魔物の脅威から守ること』らしい。

 だったら、強くなるに越したことはない。


「自分より弱いひとを倒したって、強くはなれないでしょ? あたしは自分よりずっとずっと強いひとと戦って、自分の未熟さを思い知って、悔しさをバネに頑張って、もっともっと強くなるんだ」


 なるほどな、フェルミナさんが強敵との戦いを望んでいる理由がよくわかったよ。

 俺もずっと師匠みたいな大魔法使い(本当は武闘家だったけど)になりたくて修行を頑張ってきたからな。

 フェルミナさんも、目標となる人物を求めているのだろう。

 そして、そのひとに勝つことを卒業までの目標と定め、いままで以上に努力するのだ。


 俺は、上級クラスに所属しているだけでは満足できず、さらなる高みを目指そうと努力しているフェルミナさんのことがますます気に入った。

 昇級試験が終わってからも、交流を続けたいと本気で思う。


「フェルミナさん的に、俺は強そうに見えるか?」

「うーん……強そうには見えないかな」

「そっか」

「あっ、でもね、個人的にアッシュくんのことはすごく気に入ったよっ」

「どうしてだ?」

「だって、あたしと戦うことになってラッキーとか言ったの、アッシュくんがはじめてだもん。アッシュくんなら、この先どんどん強くなると思うな。あたしは頑張り屋さんが大好きなのですよ」


 照れくさそうにそう言って、フェルミナさんは肉を口に運ぶ。


「そういう意味なら、俺もフェルミナさんのことが好きだな」


 べちゃ、と肉が皿に落ちた。


「……ふぇ?」


 フェルミナさんが目を点にしている。

 綺麗な肌が、みるみるうちに赤く染まっていく。


 ……あれ?

 俺、なんか変なこと言ったか?


「い、いいいいきなりなに言ってるの!? アッシュくんはあたしと結婚したいのかな!?」

「そんなこと一言も言ってないけど!?」

「だ、だめだよ! お付き合いはもうちょっとお互いのことを理解しあってからじゃないといけないんだよ!?」

「ひとの話を聞けよ!? いまのは『フェルミナさんの性格が気に入った』って意味だよ!」


 やっと誤解が解けたのか、フェルミナさんは「な、なるほどね!」と納得してくれた。


「そ、そっかー! そうだよね! あはは、ごめんね誤解しちゃって。まったくもう、生まれてはじめて告白されたからめちゃくちゃどきどきしちゃったよ」

「告白したわけじゃないけどな。ていうか告白されたことないのか。なんか意外だ」

「い、意外って、それってつまりあたしが連日告白されててもおかしくないくらい可愛いってことかな!? そ、そんなこと面と向かって言われたのははじめてだよ! なんかプロポーズされてるみたい!」


 ぱたぱたと手のひらで赤くなった顔をあおぐフェルミナさん。


「とにかくそういうわけだ。お互い悔いのない試合をしようぜ」


 フェルミナさんと話すのは楽しい反面、けっこう疲れるので、俺は適当に話をまとめる。


「うん。勝っても負けても恨みっこなしだよ! 個人的に、アッシュくんには嫌われたくないからねっ!」


 顔を赤らめつつも、清々しい笑みを浮かべるフェルミナさんだった。


次話は明日の18時頃に更新予定です。

感想返し、2~3日ほど遅れるかもしれませんが、すべてありがたく読ませていただいております。


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