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迷子の英雄になりました

 港町フランコをあとにして3日目の午後。


「かなり賑やかな町だね」

「エルシュタニアよりひとが多いわ」


 列車を乗り継いで王都にやってきた俺たちは、ひとの多さに驚いていた。


 背の高い建物に挟まれた大通りには多くの人々が行き交い、祭りのときみたいな賑々しさが漂っている。


 さすがに毎日こんなに賑やかってわけじゃないだろうし、きっと武闘大会目的で集まったんだろうな。これ全部が参加者ってわけじゃないだろうけど、出場するひとは多そうだ。


 どんな強者と戦えるのか、いまからわくわくしてきたぞ!


「さっそく強者を探すのかしら?」

「その前に、まずは宿を借りて荷物を置こう」

「貴方とはぐれないようにするわ」


 ノワールさんがぎゅっと服の裾を掴んでくる。


「ところで、ノワールさんは大会に出ないの?」


 宿屋を探す道すがら、俺はたずねた。


「私は出ないわ。だって、貴方とは戦いたくないもの」

「俺と戦っても、怪我することはないよ」


 王都を訪れるまでに、いろいろと情報を集めたのだ。


 日程は予選が3日、本戦が1日の計4日で、優勝者は王様から好きな褒美がもらえるらしい。会場には学院の闘技場と同じような結界が張られているため、思いきりやっても怪我人は出ないのだとか。


 つまり安心して戦えるってわけだ。


「貴方には魔法を使いたくないわ」


 言われてみれば、俺もノワールさんが相手だとちょっとやりづらいな。


「わかった。じゃ、予選中は適当に暇つぶししといてよ」


 本戦は一般開放されるけど、予選を観戦することはできないのだ。


「暇つぶし……買い物とかしててもいいかしら?」


「もちろん! お金は渡すから、好きなものを買っていいよ」


「いらないわ。だって、私のお金があるもの」


「べつにお金の心配はしなくていいけど……」


 交通費とか宿泊費でだいぶ減ってるけど、お金はまだ残っているのだ。ノワールさんには普段世話になってるし、遠慮せずにがんがん使ってほしい。


「私のお金じゃないとだめなのよ」


 よくわからないけど、ノワールさんがそう言うならそれでいいか。


「わかった。じゃ、もし足りなかったら遠慮なく言ってよ。……っと、見つけた」


 街角に宿屋を発見する。


 さっそく店内に入ってみるが……満室だった。


「満室なのははじめてね」

「だね」


 ま、国中のひとたちが集まってるわけだしな。おまけにこの宿屋は会場のそばにあるし、満室なのは当然だ。


 とはいえ王都は広いし、探せばそのうち見つかるよな!



 ……このときはそう思っていたけど、3時間が過ぎても空室を見つけることはできなかった。



「野宿でも平気だわ」


 ノワールさんは諦めモードだ。野宿なんて何度もしてきたけど……長旅で疲れてるだろうし、できればベッドで休ませてあげたいんだよな。


 日が暮れるまでに宿屋が見つからなかったら、隣町に泊まるとするか!


「こっちのほうを見てみよう!」


 俺はノワールさんをつれて薄暗い路地裏に踏みこんだ。ふたり並んで歩くのがやっとな細道を進んでいると、小さな女の子と出くわした。座りこみ、うつむいている。


 どうしたんだろ?


「迷子かしら?」


 ノワールさんの声を聞き、女の子がびくっと顔を上げた。びくびくしながら俺たちを見上げている。


「ママとはぐれたの?」


 怖がらせないようにそっとたずねると、女の子は小さくうなずいた。ノワールさん(3歳)と3ヶ月近く接したからか、子どもとの接し方が上手くなってる気がするな。


「名前はなんていうの?」

「……スウス」

「歳はいくつ?」

「……三つ」

「スウスちゃんは、いつまでママと一緒にいたの?」

「……ママとお昼ごはんを食べたらいなくなっちゃったの」


 昼食のあとにはぐれたってことか。そろそろ夕飯時だし、はぐれて3時間は経つな。王都のどこかにはいるだろうけど……普通に捜すと骨が折れそうだ。


 そうだっ!


「スウスちゃんのママは、なんていう名前なの?」


 両親を捜す方法を閃いた俺は、さっそくたずねてみた。


「……リア」

「ママと会わせてあげるから、お兄ちゃんたちと駅に行こう」

「……行く」


 スウスちゃんを抱っこして、俺たちは駅へと向かう。


「なにをするつもりかしら?」


 駅に到着すると、ノワールさんが不思議そうにたずねてきた。


「スウスちゃんの母親を呼ぶから、ふたりは耳を塞いでて」


 そう告げて、俺は駅の屋上に飛び乗った。


 うっすらと夕焼けに染まりつつある空を見上げ、



「リアさぁぁぁぁん!!!!!! スウスちゃんが迷子になってますよ!!!!!! 駅前にいます!!!!!!」



 大声で叫ぶ。原始的な方法だけど、俺にはこうすることしかできないのだ。


 王都中に響いただろうし、スウスちゃんのご両親にも届いたはずだ。



「繰り返しお知らせします!!!!!!」



 念のため繰り返し叫び、ノワールさんのもとへ戻る。


 ノワールさんとスウスちゃんはふらふらしていた。街中のひとたちが耳を押さえて立ち止まり、あんなに賑やかだったのに王都は静まりかえっている。


 加減はしたつもりだけど……もうちょっと抑えたほうがよかったかもな。



 そうして待つこと小1時間。



 日が暮れてきた頃、若い2人の男女が俺たちのもとへ駆け寄ってきた。


「「スウス!」」


 呼び声に、スウスちゃんはハッと目を見開いた。


 声のしたほうを振り向き、涙目になる。


「ママ! パパ!」


 スウスちゃんは両親のもとへ駆け寄った。転けそうになったものの、母親に抱きしめられる。


「このお兄ちゃんがね! スウスを助けてくれたの! おっきな声でしゃべってて、スウスびっくりしちゃった!」


 両親と再会できて安心したのか、スウスちゃんは嬉しそうに報告している。


 それを聞いたご両親は、俺たちにぺこぺこ頭を下げてきた。


「娘を見つけていただいて本当にありがとうございます! なんとお礼を言ったらよいか……」


「気にしないでください。宿屋を探してる途中にたまたま見つけて、ちょっと叫んだだけですから」


「宿屋を探しているのでしたら、ぜひ私の部屋を使ってください! 私たちは従姉の部屋に泊まりますので!」


 話によると、スウスちゃん一家は従姉一家と王都を訪れ、二部屋借りていたらしい。一緒に昼食に出かけ、従姉一家と話している間にスウスちゃんはいなくなっていたのだとか。


「本当にお借りしてもいいんですか?」


 ちょうど駅前に来てるし、このまま隣町に行こうと思ってたんだけど。


「もちろんです! お部屋まで案内しますので、私たちについてきてください!」


 宿屋を提供してもらえるのは正直助かるので、ご厚意に甘えることにする。旅慣れてるとはいえ、ノワールさんに野宿はさせたくないしな。


「お兄ちゃんのお声は、どうしてそんなに大きいのっ?」

「身体を鍛えたからだよ」

「どうして身体を鍛えたのっ?」

「魔法使いになるためだよ」

「どうして魔法使いになりたいのっ?」

「ど派手な魔法を使いたいからだよ」


 質問攻めにされつつ宿屋へ向かう。


「すみませんねぇ。この娘ったら質問ばかりで。ところで、おふたりはご夫婦かなにかで? 王都へはなにをしに? 1週間しか部屋を借りてないんですけど、しばらく滞在するんですか? もっと長く滞在するようでしたら、追加の料金をお支払いしますが」


 スウスちゃんの質問好きは遺伝らしい。


「俺とノワールさんは学生時代からの友達ですよ。王都には大会に出るために来ました。大会が終わったらすぐに王都を発つ予定ですし、そんなに長くは滞在しませんよ」


「お兄ちゃん大会に出るのっ? じゃあスウス、お兄ちゃんに元気が出るおまじないをかけてあげる! だってスウスね、大きくなったらお兄ちゃんみたいな英雄さんになりたいもんっ!」


 話に脈絡がないけど、小さい子はこんなものだ。


「すみませんね。この娘ったら、いつも『英雄になる』ばかり言ってるんです。気にしないでくださいね」


「ほんとだよ? スウス、ほんとにお兄ちゃんみたいな英雄さんになるんだよ?」


「こないだは『魔王を倒したひとみたいな英雄になる』って言ってなかったかい?」


「その次は『大会に優勝したひとみたいな英雄になる』って言うわね、きっと」


 両親がからかうように言うと、スウスちゃんはほっぺたを膨らませる。


「ほんとだもん! ほんとに英雄さんになるもん! 大きくなったらハンターになって、困ってるひとを助けるもん!」


 スウスちゃんの決心を聞いているうちに、俺たちは宿屋に到着した。


「ここって……」


 最初に訪れた会場近くの宿屋だった。王都で一番人気の宿屋っぽいけど……ほんとに借りてもいいのかな?


 念のため確認してみたところ、気にせずに使ってくださいと言われた。



「じゃあね英雄さん! ぜったいに優勝してね!」



 部屋まで案内してもらったところで、俺たちはスウスちゃんと別れた。


 スウスちゃんの期待に応えるためにも、ぜったいに優勝しないとな!


 そうして部屋に荷物を置いた俺は、武闘大会への出場申請をしに再び街へと向かうのだった。




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