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大魔法使いへの道が拓けました

 10日間の修行を終えたあと――


「ただいま戻りました!」


 俺は寄り道せずに研究所へ直帰した。


 のどが渇いてたし、みんなに無事を報せたかったからな! もしかするとご馳走を作って俺が帰るのを待っててくれてるかもしれないしさ!



「あんた誰だい!?」



 うきうきしながら研究所に戻ると、リッテラさんが魔法杖ウィザーズロッドを突きつけてきた。


 まさかの不審者扱いに、俺は立ち尽くしてしまう。


 たった10日で忘れられるくらい、俺って特徴ないのか? いや、そんなことないよな。五つ子ちゃんは俺のこと覚えててくれたしさ。


「俺です。アッシュです!」


 俺が自己アピールしていると、通路の奥から泥だらけのおじいさんが現れた。


 リングラントさんだ。


「リッテラよ。安心するのだ。こいつは魔王に操られてなどおらん。もし操られていたら、いまごろお前は粉々になっているのでな」


 出てきて早々、わけのわからないことを言うリングラントさん。


 俺が魔王に操られてる……って、どういう意味だ?


「すみません。ちょっと話が見えてこないんですけど……。その魔王って、《青き帝王ブルー・ロード》のことですよね?」


「そうだ。先週、我々は魔王に襲われたのだ。お前を倒しに行ったきり戻ってこないがな」


「魔王なら俺が倒しておきましたよ」


 俺の話に、リッテラさんは安堵した様子だ。


 魔法杖を懐に仕舞い、申し訳なさそうな顔をする。


「水の檻が消えたのは、アッシュちゃんが倒したからなんだね。助けてくれたのに、疑って悪かったねぇ。ところで、どうやって魔王を倒したんだい?」


「殴ったら粉々になりました」


「ノワールちゃんの言った通りになったんだねぇ」


 ノワールさんは魔王が粉々になることを予言していたらしい。まあ、いままで散々同じ光景を見てきたわけだしな。


「それにしても、どうやって操る魔法を破ったんだい?」


「操るってなんのことですか?」


「魔王は他人を操ることができるのさ」


 なるほど、それで不審者扱いしたってわけか。


 どうして俺に通じなかったのかはわからないけど……《青き帝王》はもういないし、考えるだけ無駄か。


「とにかく俺は無事です。それよりノワールさんは無事ですか? 姿が見当たりませんけど……寝てるんですか?」


「ノワールちゃんなら通路の向こうで身体を洗ってるよ。昨日は廃材置き場で寝てたからねぇ」


 俺がいないあいだ、ノワールさんとリングラントさんは廃材置き場の片付けをしていたらしい。


「俺も片づけ手伝いますよ」


「不要だ。下手すると使える廃材まで粉々にされてしまうのでな」


 さすがにそれくらいの力加減はできる……と思う。


 いろいろなものを壊してきたけど、学生寮の片づけはちゃんとできたしな!



「アッシュ……! 無事に戻ってきてくれて嬉しいわ」



 と、ノワールさんが慌ただしく駆け寄ってくる。


 身体を拭く間も惜しんで駆けつけてきたのか、髪は濡れたままだった。


 俺の帰りを喜んでくれるのは嬉しいけど……風邪引かないか心配だ。


「ただいま。ちゃんと元通りになれたんだね。身体は平気?」


「私は平気だわ。貴方こそ平気かしら? 魔王にひどいことされなかったかしら?」


「水をかけられたよ」


「悪質ないたずらだわ。……ところで、それはなにかしら?」


 ノワールさんが紙袋に興味を示す。


「チョココロネだよ。10日前に買ったから、かびてると思うけどね」


 捨てるのはもったいないし、あとで食べるつもりだ。


「私も食べたいわ」


「お腹を壊すかもしれないし……どこかで買ってあげるよ」


「楽しみだわ。それで、世界樹はどうだったかしら?」


「めちゃくちゃ大きかったし、雲海が綺麗だったよ。あと、ちょっとした発見があったんだ」


「発見?」


「途中でグリューン王国から来た女の子と出会ってね。あっちには魔王放送が届ききってないらしいんだ。だから次は、のんびり旅ができると思うよ」


 いままでは町に行けば常に視線を感じたし、すぐに人だかりができていたのだ。


 俺としては好意を寄せられて嬉しいけど、知らないひとに囲まれてノワールさんはそわそわしてたからな。


 グリューン王国では落ち着いて旅ができそうだ。



 ……さて。



 話すことは話したし、そろそろ修行の成果を確かめるとするか!


「それじゃ、さっそく魔法を使ってみますね!」


「新しい魔法を使ってみるのかしら?」


「まずは浮遊魔法を使ってみるよ。修行でどれだけ成長したか、確かめたいからね。リッテラさん、こないだのレンガはありますか?」


「ちょっと待ってな。……準備できたよ」


 リッテラさんが足もとにレンガを置き、遠ざかる。



「じゃ、やってみます」



 懐から魔法杖を取り出し、浮遊魔法のルーンを完成させる。


 その瞬間!



「うおおっ!」



 俺は思わず歓声を上げてしまった!




 なにせレンガは10ミリも浮いたのだから!




 前回は1ミリだった!


 それが10ミリも浮いたのだ!


 つまり10倍! 10倍強くなったのである!!


「すごい! すごいですよリッテラさん! 量より質! 量より質なんです! これって綺麗な空気を吸えば吸うほど魔力の質は上がるんですか!?」


 だったら世界樹で暮らしたい! そう思ってしまうくらい、俺は成長していたのだ。


「やってみなくちゃわからないけど、劇的な変化はないだろうね。『美味しいパン』を『すごく美味しいパン』にするのは難しいからねぇ。あたしのゴーレムも、それで伸び悩んでいたのさ」


 世界樹での修行を経て、俺の魔力は風精霊シルフ好みの餌になった。ここからさらに風精霊が気に入る魔力にするには、かなりの時間がかかるってわけか。


「世界樹に住むのかしら?」


 ノワールさんが寂しそうにたずねてくる。


 きっと俺と離れ離れになるのを寂しがっているのだろう。世界樹に住めば一緒にいられないからな。


 試練の間に踏みこんだときも、ノワールさんは俺の帰りをずっと待っててくれたしな。ノワールさんに寂しい思いはさせたくないし……それに、魔力の量を蔑ろにしていいわけじゃない。


 むしろ、これからは魔力の量を増やしたほうがいいかもしれない。


 1の魔力で10の結果を生み出せるようになったわけだしな。魔力を10に増やせば、100の結果を生み出せるってわけだ。


 いまの俺は世界最弱の魔法使いだ。


 だけど修行を続け、フィリップさんが持つ魔力の1割でも手に入れることができたなら――


 そのとき俺は、フィリップさんと同レベルの魔法を使うことができるのだ。




 魔力の質を高めたことで、大魔法使いへの道が拓けたのである!!




 ちょっとずつしか魔力量が増えないのが悩ましいけど、着実に成長しているのだ。


 いままで通り――いや、いままで以上に修行に励み、大魔法使いになってみせる!



「……行くのかい?」



 感情が顔に出ていたのか、リッテラさんが名残惜しそうにたずねてくる。


「はい! 俺、修行の旅を再開します!」


「そうかい。次の修行も成功することを祈ってるよ」


「はいっ! 俺の修行に付き合ってくださって、本当にありがとうございます!」


 リッテラさんがにこやかに笑う。


「こちらこそ、実験に付き合ってくれて大助かりさね。またいつでも遊びにくるといいよ」


「遊びにいくわ。だって、リッテラのご飯は美味しかったもの」


「嬉しいことを言ってくれるねぇ。そのときは、ご馳走を作ってあげるよ」


「楽しみだわ」


 そう言うと、ノワールさんはリングラントさんを見た。



「風邪を引かないようにしてほしいわ」



 心配されるとは思っていなかったのか、リングラントさんは驚いたように目をまるくした。そして、うっすらと目に涙を浮かべる。


「ふん。それは私の台詞だ。お前は私の最高傑作なのだからな。風邪などに負けたら承知せんぞ!」


 ノワールさんはこくりとうなずく。


 そうして荷物をまとめ、水を飲んだ俺たちは、リッテラさんとリングラントさんに別れを告げ、研究所をあとにしたのであった。




 次の修行場は大陸の外――グリューン王国だ!




「なんとか王国へはどうやって行くのかしら?」


 ノワールさんはさっそく国名を忘れている。


「グリューン王国へは船で行くよ」


「飛空艇かしら?」


「海を渡る船だよ」


 船底に結界が張られているため、魔物に襲われる心配はないのである。


「船に乗るのははじめてよ。楽しみだわ」


「俺も楽しみだよ。船に乗るのも、修行するのもね」


 次の師匠がどういうひとか、どんな修行をつけてくれるのか――。いまからとても楽しみだ。


 いままでの師匠みたいに、いいひとだと嬉しいな。



 かびたチョココロネを食べながら、俺は次の師匠に思いをはせるのであった。


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