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武闘家の天敵です

 世界樹で修行を始めて3日目。


 リッテラさんが言ってた通り、世界樹の空気は新鮮だった。


 山の空気は新鮮で美味しいって聞いたことがあるけど、世界樹はその極みだ。空気の美味しさに感動したし、これなら10日間楽しめそうだと思っていた。



 いまは違う。



 世界樹の空気は美味いけど、3日も吸えば飽きてくる。なのにあと1週間も深呼吸しなくちゃならないのだ。


 体力的には余裕だけど、精神的にきついものがある。



 そう。精神的にきついのである!



 俺はそのことが嬉しかった。なにせ魔力は精神力と密接に関わってるわけだしな。このつらさを乗り越えることで魔力が上がるし、魔力の質も上がるのだ!


 魔力の量と質がまとめて上がるなんて盆と正月が一緒に来るようなものである。そう考えただけで喜びがこみ上げ、やる気が漲ってくる。


 せっかくチョココロネを買ったけど、このままだと食べずに修行を終えてしまいそうだ。休憩する時間すら惜しいし、のどが渇いてるからな。


 口内どころか体内が渇ききってる気がするし、できれば水分補給したいんだけど……水を買い忘れたからなぁ。


 雨が降ってくれたら助かるけど、ここは雲の上だからな。水なんて手に入らないのである。



 べちゃっ!



 と、背中に湿っぽい感触が走った。水風船が破裂したみたいな感触だ。背中に手をまわすと、びっしょりと濡れていた。


 いまの……雨か?


 でも、なんでうしろから……


 不思議に思いつつ振り向くと、葉っぱの上に青騎士が立っていた。



『ホゥ! オレ様の水槍アクアランスをまともに受けて死なぬとは、ニンゲンにしてはやるではないか! もっとも、生きているとはいえ意識を保つのがやっとだろうがなァ!』



 ……なんだこいつ?



『おっと、いまのがオレ様の全力だと思うなよ? いまのはほんの小手調べに過ぎぬ! オレ様と戦うに値するか見定めるための一撃なのだからなァ! フハハハハ! 力の差を思い知り、絶望したであろう!』



 色以外は一致するし、さてはこいつ魔王だな?


「お前、魔王か?」


『いかにも! オレ様は《青き帝王ブルー・ロード》! 四天王の頂点に君臨する世界最強の魔王にして、ありとあらゆる水を統べる帝王だ!』


 やっぱり魔王か。


 氷の洞窟といい、世界樹といい……ほんと、どこにでも現れる連中だな。


 たまたま世界樹を訪れるとは思えないし、ここに来たってことは狙いは俺か。


「魔王って、まだいるのか?」


 四天王っていうのは黒騎士、白騎士、赤騎士、青騎士のことだろう。


 つまり青騎士を倒せば四天王は全滅ってことになる。


 だけど、その上にボスがいるかもしれないのだ。


 俺のイメージでは、四天王は幹部みたいなものだからな。そいつらをまとめるリーダーがいてもおかしくないのである。


 魔王を束ねる魔王……大魔王ってところか。


『魔王の名を持つ者はいるが、真の魔王はオレ様だ! なぜならオレ様は、ほかの魔王とは次元そのものが違うのだからなァ!』


 ぱっと見ただの色違いにしか見えないけどな。


『フハッ!』


「なにがおかしい?」


『オレ様を前にしながら怯えぬニンゲンを見るのははじめてなのでな! 貴様のような思い上がったニンゲンの絶望する顔は、さぞかし愉快なのだろうなァ!』


 俺に勝つ気満々の発言だ。


 俺は過去に多くの魔王を倒してるし、こいつだってそれくらい知ってるはずだ。


 なのにここまでの余裕っぷりを見せつけてくるってことは……こいつ、本当にいままでの魔王とは次元が違うのか?



 だとするとラッキーだ!



 強敵と戦えば精神的に成長できるし、魔力が上がるからな。


 つまり青騎士との戦いは修行の一環ってわけだ!


 いまは深呼吸じゃなくて、青騎士との戦いに集中するか!



 べとっ!



 俺の首にべっとりとした感触が走った。首に手をやると、ぬめっとした手触りが訪れる。


 死角になっているため自分じゃ見ることができないけど、水っぽい手触りだった。


「これ……水の首輪か?」


『いかにも! だが、水は水でもただの水ではない!』


「どう違うんだ?」


『そいつはオレ様の魔力がたっぷりと注がれた水――オレ様が命じれば、その水輪アクアリングが貴様の首を切断するのだ! その威力、水槍の比ではない!』


「だったら引きちぎるまでだ!」


『無駄だ! いくら力をこめようと、水を引きちぎることはできぬ!』


 青騎士の言う通りだった。首を引っかくようにしてもすり抜けるだけで、べっとりとした感触は消えなかったのだ。


 いままでは力押しでなんとかなったけど……今回はそれが通じない。



 水使いの青騎士は、俺の――武闘家の天敵なのだ!



 だが、俺の攻撃は青騎士本体には届く。こいつ自身は水じゃないしな。笑うたびにガチャガチャ音がしてるしさ。



 つまるところ、俺はいつでも青騎士を倒すことができるってわけだ。



 けど、俺が攻撃の動作を見せれば、その瞬間に青騎士は水輪を発動させるだろう。



 ――俺の拳(の衝撃波)が青騎士に届くのが先か。

 ――水輪が俺の首を吹き飛ばすのが先か。



 たとえ吹き飛ばされても首の皮一枚繋がっていれば自然治癒力で回復できるだろうけど……とにかく、いまは様子見だ。



『ホゥ! 死に直面しているというのに冷や汗一つかかぬとは、見上げた根性ではないか!』



 全身の水分が出尽くしただけで、いつもなら冷や汗をかいていたかもしれないな。


 それくらい、青騎士との勝負は緊迫しているのだ。


 生きるか死ぬか――。こんな気分になったのは、はじめてかもしれない。


 まったく……。こうなったからには認めるしかないな。



 青騎士は、いままでの魔王とは次元そのものが違うってさ!



『オレ様は、その気になればすぐにでも貴様を葬ることができるのだ。だが、そうはしない。なぜだかわかるか?』


「……強敵と戦いたいからか?」


『否! 断じて否!』


 全力で否定された。


 でも、だったらどうしてこいつは俺を倒さないんだ?



『オレ様は、貴様を高く買っているのだ!』



「俺を高く買っている……?」


『いかにも! 手加減したとはいえ、貴様はこのオレ様の水槍に耐えた! 四天王の面汚し共より、よほど優秀だ! 貴様には利用価値がある!』


 水槍って、さっきのあれだろ? 水風船みたいなの。あれに耐えただけで評価されるって……いままでの魔王はどんだけ低評価だったんだ?


 と、青騎士が葉っぱの上を歩き、近づいてくる。


『オレ様の配下になると誓うなら、特別に生かしてやろう。さらにオレ様が君臨する世界の半分を貴様にくれてやる! オレ様と貴様が手を組めば、世界のすべてを支配できるのだ!』


 魅力的な提案だろう? とか思ってるんだろうけど、世界の半分なんて欲しくない。


 俺が欲しいのはただ一つ。



 魔力だけだ!



「断る!」



『支配者になる道を捨て、死を選ぶかッ! 愚かなニンゲンに相応しい末路ではないか! ならば望み通り、葬り去ってくれるわ!』




 べちゃんっ!




 水輪が弾け、あごの下が濡れた。


 水滴に血は混じっていない。


 てことは、自然治癒力を発揮するまでもなかったってことか。




『バカな!? なぜ首が飛ばぬのだ!? 貴様、本当にニンゲンか!?』




 青騎士が取り乱す。


 さっきまでの余裕っぷりが嘘のようだ。


 最初の水槍は手を抜いていたとして、いまのは全力だったようだ。



 てことは青騎士は強敵じゃない――戦っても成長できそうにないな。



 さっさと倒して修行に戻るか!




『だが、しょせんはニンゲン! 水の塊である以上、オレ様には勝てぬのだ! この意味がわかるか!? わからずともよい! なぜならいまこの瞬間、貴様はオレ様の操り人形になったのだからなァ! そしてオレ様は貴様にたった一つの命令しか下さぬ! オレ様と手を組め! などと命令すると思ったか!? フハハハハ! 違う! 死ね!!』





 パァァァァァン!!!!!!!!!!





 正拳突きで魔王を粉々にした俺は、深呼吸を再開したのであった。



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