さっそく昇級試験です
現在日間3位です!
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編入試験に合格して一ヶ月が過ぎた。
いつものように制服に着替えた俺は教科書類の詰めこまれたカバンを手に、学生寮から徒歩五分のところに建つ校舎へと向かう。
今日はどんな授業をしてくれるのかな……。
学生生活が始まってからというもの、俺は毎日が楽しくてしかたがなかった。
学生寮の連中は気の良い奴が多く、さらに勉強熱心な生徒ばかりだった。
ここでは学年ごとに下級、中級、上級クラスに分かれているが、どのクラスの生徒も毎日まじめに勉学に励んでいるのだ。
下級クラスの生徒とはいえ、ここは世界最高峰の教育機関だ。
ほかの魔法学院では首席レベルの実力を秘めている。
だというのに日々努力を欠かさないのは、素直にすごいと思える。
俺は努力家が大好きだ。
だから、この学院に通う生徒みんなに好感を持っている。
きっとほかの生徒たちも、俺と同じように考えているのだろう。
たまに口論することはあるけど、どのクラスの生徒たちも基本的には仲が良い。
そんなことを考えている間に校舎に到着した。
俺は二年F組の扉を開け、席につく。
ちなみにA組が上級クラス、B~C組が中級クラス、D~F組が下級クラスだ。
年に二回ある昇級試験の成績によって、クラス分けが行われる仕組みになっているらしい。
そして今日が、昇級試験の日だ。
入学して日が浅い俺にとっては、はじめて訪れた昇級のチャンス……。
この日のためにしっかり勉強してきたし、昨夜は充分に睡眠を取った。
やることはやったし、あとは試験に臨むだけだ。
「今日はみんな知っての通り、昇級試験を行う。張りきっていけよ!」
いつになく緊張感に包まれていた教室に、担任の声が響いた。
昇級試験の内容は『筆記試験』と『実技試験』の二つだ。
魔法使いとしての知識と技能を総合的に判断し、上級、中級、下級に振り分けるのだとか。
小さい頃から魔法の勉強は欠かさなかったし、いまのところ授業にもついていけてるけど……。
でも、こういう本格的な試験ははじめてなんだよな。
いったいどんな問題が出るんだろう……。
筆記用具を机に出してそわそわしていると、担任が問題用紙と解答用紙を配りだした。
全員に行き渡ったところで、担任が「では、はじめ!」と試験開始を告げる。
解答用紙には、ほとんど真っ黒と言っていいくらいにびっしりと文字が記されていた。
制限時間は一二〇分。
それまでに、ここに書かれた一〇〇問の難題を解かなければならない……。
ちゃんと全問正解できるといいんだけど……。
とにかく、こうしてはいられない。
俺はさっそく問題を解き始めた。
――第一問。
『火焔弾のルーンを正しく描け』か。
火焔弾は初級魔法だし、ルーンも単純だ。
これくらいなら一〇秒で描ける。
――第二問。
『万象治癒のルーンを正しく描け』か。
万象治癒は光系統の最上級魔法だけど、ルーンの構造自体はそこまで難しくない。
ただ、光系統の魔法は似通ったルーンが多いし……光系統の勉強をしっかりしてないと、どれがどれだかわからなくなるかもしれないな。
まあ細かい違いに気をつけて描けば、間違えることもないだろう……っと、描けた。
――第三問。
『五〇年以内に発見された新たな魔法とその発見者のフルネームを三つ書け』か。
これは簡単だな。
問題は誰を書くかだけど……。
解答欄は小さいし、なるべく名前の短いひとを書いておくか。
と、まあ。
そんな調子でさくさく問題を解いていき――
……終わった。
試験終了まで半分以上の時間を残し、俺は全問解き終えた。
紙にペンを走らせる音が響いているし、クラスメイトはまだ解いている途中のようだ。
ちょっと急ぎすぎたかもしれないな。
……けど、これ難易度的にかなり低いんじゃないか?
まったく詰まることなく、最後まで解けてしまったんだけど……。
……まあ、でも、そうか。
エルシュタット魔法学院の昇級試験がこんなに簡単なわけがないし、きっとほとんどの生徒が満点を出すんだろう。
つまり、本当の勝負はこのあとに控える実技試験ってことだ。
俺は解答に誤りがないか入念にチェックしつつ、試験終了を待つのであった。
◆
「はい、そこまで!」
きっかり一二〇分が経過したところで、担任が試験終了の合図を出した。
その瞬間、緊張の糸が切れたようにクラスメイトたちがため息をつく。
「なんか今回の問題、やけに難しくなかった?」
「しかも問題数めちゃくちゃ多かったよね?」
「あたし、半分も解けなかったよ……」
「時間少なすぎるよね。最後のほうとか、とにかく解答欄を埋めようって適当に書いちゃったよ」
「みんなもわかっていると思うが、今回の筆記試験は状況判断力を測るためのものだ。自分に解ける問題、解けない問題を瞬時に見極め、落ち着いて対処する能力は、魔法使いに欠かせないからな」
担任の説明に、クラスメイトは「やっぱりそうか~」「だと思ったよ~」と納得した様子だ。
……えっ、そうだったの?
クラスメイトが納得するなか、俺はひとり驚いていた。
たしかに魔物と戦うことのある魔法使いにとって、自分と相手の力の差を見極め、戦うべきか逃げるべきかを瞬時に判断する能力は大切だ。
だけど、いまの筆記試験にそんな意図があったとは思わなかった。
だって、俺には全部の問題が簡単に思えたし……。
「うわぁ、アッシュくんの解答欄びっしりだね」
「よかったぁ。とにかく解答欄全部埋めようとしたの、あたしだけじゃなかったんだぁ……。お互い、一問でも多く正解してるといいねっ」
左右の席に座っていた女の子たちが、俺の解答用紙を覗きこんでそんなことを言う。
「それじゃあ、次は毎年恒例のくじ引きタイムだ。出席番号順に引きに来るように。全員引き終わったら昼休みだ」
すべての解答用紙を回収したあと、担任がそう言った。
「くじって?」
俺はとなりの席の女の子――ニーナさんにたずねる。
「アッシュくんははじめてだったね。えっとね、くじには『実技試験の内容』『会場』『同じ学年の生徒ひとりの名前』が書いてあるの。その生徒が味方の場合、くじの色は『青』で、その生徒が敵の場合、くじの色は『赤』なんだよ」
ニーナさんは丁寧に教えてくれる。
「そしてくじが赤のときは、その時点で実技試験の内容は、くじに書かれてた生徒との一対一の真剣勝負になるってわけ」
なるほどね……。
たとえば試験内容が『協力して教員を倒せ』とかだとくじの色は青で、教員との戦いにおける貢献度によって、与えられる点数も上下するってことか。
「くじを引くのはD~Fクラスのひとで、くじに名前が書いてあるのはA~Cクラスのひとだけなんだよ」
そう言って、ニーナさんはため息をつく。
「あたしは前回の試験で赤くじ引いちゃって、しかも相手はエファさんだったから……。今回は青くじか、赤くじにしても、せめて中級クラスのひとと戦いたいなぁ」
ニーナさんは切実そうに語る。
その『エファさん』が何者かは知らないけど、ニーナさんにとっては格上すぎる相手だったんだろうな。
「アッシュ。早くくじを引くんだ。お前が出席番号一番なんだからな」
担任に促され、俺は前に出る。
そしてクラスメイトの視線が集まるなか、くじを引いた。
二つ折りにされたくじは――『赤』だった。
この時点で、協力プレイはないってことか。
俺はその場でくじを開く。
試験会場は第三闘技場。
そして対戦相手の名前は――
「二年A組、フェルミナ・ハーミッシュ、か」
「「「「「フェルミナ・ハーミッシュ!?」」」」」
ぼそっとつぶやいた瞬間、クラスメイトが騒然とした。
そんなに有名なひとなのか、フェルミナさんって。
そんなことを考えながら席につくと、まわりに座っていたクラスメイトたちが同情するような視線を向けてきた。
「アッシュくん、運がないね。よりによってフェルミナさんだなんて……」
「ま、次があるさ!」
「こんなこと言うのはあれだけど、ありがとね、アッシュくん! アッシュくんがフェルミナさんを引いてくれたおかげで、あたしが上級クラスと戦う確率は下がったよ!」
ニーナさんが喜んでいる。
A組の時点で上級クラスだってことはわかっていたけど、フェルミナさんはそのなかでも指折りの実力者のようだ。
そんな魔法使いと大事な昇級試験の場で真剣勝負をすることになったのだ。
クラスメイトが言うように、落ちこむのが普通の反応なのかもしれない。
けど、俺はラッキーだと思っている。
上級クラスと真剣勝負ができるのだ。
戦いのなかで、なにか魔法を使うコツとか学べるかもしれない。
「うわっ、あたしノワールさんと真剣勝負だよ……。あたしのくじ運、どうなってるの……?」
ニーナさんが泣きそうな顔をして席につく。
「さて、全員引いたな。知らない者もいると思うので説明しておくが、お前たちがくじを引いた瞬間に、相手の生徒にはお前たちの名前が書かれたくじが届いている。青くじを引いた者は昼休みのあいだにパートナーと作戦会議をするもよし。赤くじを引いた者は敵情視察するもよし。各自好きにするといい。以上、諸君らの健闘を祈る!」
そうして、昼休みに突入した。
その瞬間だ。
「アッシュくん、いるッ!?」
教室に、女の子の声が響き渡った。
次話は明日の昼~夕方頃に更新予定です!