表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/152

天変地異ではありません

『グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 土中から飛び出してきたゴーレムが、両腕を上げて威嚇してくる。



「さっそく弟子入りするのかしら?」



 これ以上ないくらい敵意剥き出しだけど、弟子入りを許可してくれるかなぁ。もちろん魔力を高める修行をつけてくれるなら、なんとしてでも弟子入りしてみせるけど……どうやってコミュニケーションを取ればいいんだ?


「リングラントさん、ゴーレムとのコミュニケーションの取り方って知ってます?」


「なにを言っておるのだ!? ゴーレムと友達にでもなるつもりか!?」


「弟子です!」


「どっちでもいいわ! いいからさっさと真っ二つにするのだ! 私のゴーレムにしたように!」


「ですけど、これってリッテラさんが造ったんじゃないですか?」


 だとすると壊すのはまずいんじゃないだろうか。


「こんなところにゴーレムを配置したリッテラが悪いのだ! さっさと真っ二つにするのだ! 襲いかかってくる前に!」


 リングラントさんの言う通り、ゴーレムはいまにも襲いかかってきそうだ。腕をぐるんぐるん回してるしな。


 でも、ふりだけだ。威嚇してるだけで、なかなか襲いかかってこないのである。


 つまりこちらが手出ししない限り、あちらも攻撃してこないというわけだ。きっとそういうふうにリッテラさんが命じているのだろう。



「攻撃はやめときな! じゃないと威嚇じゃ済まないよ!」

 


 念のためノワールさんを俺のうしろに引っこめていると、酒焼けしたような声が聞こえてきた。


 ゴーレムのうしろからお婆さんが歩み寄ってくる。


 俺たちの前に現れたお婆さんは、じろっとリングラントさんを睨みつけ、ゴーレムを見上げた。



「こいつらは敵じゃないよ! あんたは土のなかに潜ってな!」


『グオオオオオオオオオオオオオオ!!』



 雄叫びを上げ、ゴーレムは土中に潜っていく。


 命令通りに動いたってことは、あのお婆さんがゴーレムを造った張本人――リッテラさんか?



「まったく。こないだの小娘といい、あんたらといい、こんな僻地にいったいなんの用だってんだい? こんなにひとが来るんじゃ、おちおち実験もできやしないよ」



 やっぱり、このひとがリッテラさんか。


 背の高さといい声の大きさといい、コロンさんとはべつの意味でお婆さんには見えないな。


「お前に頼みたいことがあるのだ、リッテラよ」


「あんたがあたしを頼るなんて珍しいこともあるもんだね。もう一生顔を見ずに済むと思ってたよ。で、そっちの若い子たちは、あんたの助手ってわけかい?」


「私に助手などおらん。こいつらは……まあ、私の友人のようなものだ」


「へえ。こんな男と仲良くできるなんて、ずいぶん心が広い子たちだね」


 ちらっとこっちを見たリッテラさんは、くわっと目を見開いた。


「あんた、魔王を倒した子じゃないかい!?」


「はい。俺はアッシュといいます」


「やっぱりそうかい! ちょうど実験が行き詰まっていたところでね! アッシュちゃんが来てくれて助かったよっ!」


「助かった、ですか?」


 歓迎ムードなのは嬉しいけど、引っかかる物言いだ。俺の力が、実験の助けになるのか?


「詳しい話はなかでするよ。このあたりは日差しが強いからね。ここにいるとしわが増えちまうよ」 


「もうしわしわではないか」


「だったらそこで干からびちまいな! さあさあ、アッシュちゃんとそっちの小っこいのはうちに来な。冷たい水を飲ませてあげるからねぇ」


「嬉しいわ。だって、水を飲まないと脱水症になってしまうもの」


「小さいのに難しい言葉を知ってて偉いねぇ」


「私はアッシュと同い年だわ。薬を飲んだら、小さくなってしまったのよ」


「そうかい。きっと大きくなったら美人さんになるんだろうねぇ」


「よくわからないわ」


 ちょっとだけ照れた様子のノワールさんを抱きかかえ、グランドロックへと向かう。



「着いたよ。さあ、入りな」



 ゴーレムに穴を掘らせて造ったらしい。広々とした研究所は大量のランプに照らされ、昼間のように明るかった。


「水はどこだ?」


「そこの通路の奥だよ。人数分持ってきな」


「いちいち言わなくてもわかっておる」


 ぶつくさ言いつつ通路の奥へ向かい、人数分のコップと水入りのボトルを持って戻ってきた。



「アッシュちゃんとノワールちゃんは、こいつとどういう関係なんだい?」



 喉を潤したところでリッテラさんがたずねてきた。リングラントさんが『人体実験のことは言わないでくれ』と目配せしてくる。



「私はリングラントに魔力回路を埋めこまれて殺されかけたわ」



 ノワールさんが言っちゃったし、手遅れだけどな。


「だけど恨んでないわ。そのおかげでアッシュと仲良くなれて、いっぱい友達ができたもの」


 ってノワールさんは続けてるけど、リッテラさんは聞いちゃいなかった。リングラントさんの胸ぐらを掴み、怒鳴り散らしていたのだ。


「あれほど人体実験はするなと言っただろうに、なにやってんだい!?」


「世界最強の魔法使いを生み出すために、人体実験は避けては通れぬ道だったのだ!」


「私のために争わないでほしいわ」


 おろおろするノワールさんを見て、リッテラさんはリングラントさんを解放する。


「あたしの弟が、酷いことしちまったねぇ……」


 姉弟だったのか。言われてみれば目元とかそっくりだ。


「気にしてないわ。それに、昔はあまり好きじゃなかったけど、いまのリングラントは嫌いじゃないわ。だって丸くなったもの」


「丸くなった? あたしにはいまも昔も同じに見えるけどねぇ。ま、本人が許すって言うなら、あたしがとやかく言うつもりはないさね」


 じろり、とリングラントさんを睨みつける。


「で、あんたはなにしに来たんだい?」


「さっき言った通り、頼みたいことがあるのだ。私の研究所は、ゴーレムもろとも真っ二つになったのでな。研究所と機材を貸してほしいのだ」


 リッテラさんがぽかんとする。


「真っ二つになった? なんだい、天変地異でも起きたのかい?」


「天変地異などではない。アッシュにやられたのだ」


「アッシュちゃんが真っ二つにしたのかい!?」


 目をキラキラと輝かせるリッテラさん。


 喜んでるように見えるけど……研究所が真っ二つになったのがそんなに嬉しいのかな? だとするとリングラントさんのことを嫌いすぎな気がするけど。


「はい。俺が真っ二つにしました」


「それって、カマイタチで真っ二つにしたのかい!?」


「カマイタチって、魔法のことですか?」


 俺にとってカマイタチは二種類あるのだ。物理的なカマイタチと、魔法的なカマイタチだ。ゴーレムを倒したのは物理のほうだけど……


「魔法以外になにがあるんだい?」


「俺の強さは武闘家由来なんです。魔王はビンタで倒しましたし、ゴーレムと研究所を真っ二つにしたのは、武闘家として放ったカマイタチなんですよ」


 リッテラさんは再びぽかんとする。まあ武闘家として放ったカマイタチだと言われて『ああ、そういうことね』と即理解できるひとはいないだろうしな。


「い、いまいち理解できないけど……じゃあ、なんだい? アッシュちゃんは魔法使いじゃないってことかい?」


「俺は魔法使いです」


「そうかい! 系統はなんだい?」


「俺の系統は風ですよ」


「それ、本当かい!?」


 リッテラさんが満面の笑みで詰め寄ってきた。


 さっきもカマイタチを使ったのかとたずねてきたし、俺が風系統だと都合がいいようだ。


「本当です。いまはカマイタチと浮遊魔法しか使えませんけど、いつの日かすべての風魔法を使いこなせるようになってみせます!」


「なるほどなるほど! つまりアッシュちゃんは強くなりたいわけだね!?」


「はい! そのために武者修行をしてるんです!」


「そうかいそうかい! だったら、あたしの研究が役立つかもしれないねぇ!」


「ほんとですか!? リッテラさんはどういう研究をしてるんですか!?」


 ゴーレムを造ってるってことは知ってるけど、それくらいしかわからない。人体実験を非難してたし、魔力回路を埋めこむってわけじゃないだろうけど……


「あたしの夢は世界最強の魔法使いを生み出すことでね。いつもはゴーレムを使って実験してるんだけど、行き詰まっていたのさ。あたしのゴーレムじゃ力不足だったからねぇ」


 実験を成功させるにはゴーレムより強くないとダメってことか。


「それで、俺はなにをすればいいんですか?」


 強くなるための具体的な方法をたずねると、リッテラさんはこう言った。



「アッシュちゃんには、これから世界樹のもとへ行ってもらうよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ