編入試験です
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フィリップ学院長を見送ったあと――。
一時間ほどひとりで待機していると、魔力測定に合格した受験者たちが闘技場に集まってきた。
なんか、俺だけ一次試験を免除してもらって申し訳ないな。
そんなふうに思ってしまうくらい、一次試験の合格者は少なかった。
広場には大勢の受験者が集まっていたのに、残っているのは俺をあわせて一〇人しかいないのだ。
エルシュタット魔法学院は世界最高峰の教育機関だ。
そのうえ編入試験なだけあり、合格枠は一般入試より少なめに設定されている。
これくらいしか残らなくても、おかしくはないのだ。
……なんにせよ、うかうかはしていられないな。
俺に約束されているのは、一次試験免除だけだ。
ここから先は実力で突破しないといけない。
立派な魔法使いになるという夢を果たすためにも、こんなところで立ち止まるわけにはいかないのだ!
「思ったより残ったわね」
と、二次試験の試験監督を務める女性が言った。
これでも例年よりは多いらしい。
今年はいつも以上に優秀な人材が集まってる、ってことか……。
二次試験の具体的な内容は明かされていないが、これはますます頑張らないと合格は難しいかもしれないな。
「さて、まずは一列に並んでちょうだい」
試験監督の指示を受け、俺は一番左に移動する。
「並んだわね。それじゃあ右から順に、自分の一番得意な魔法系統を教えてちょうだい」
魔法使いは魔力と引き替えに精霊と交渉し、魔法を発動させている。
つまり精霊にとって、魔力は餌みたいなものだ。
精霊には炎精霊とか風精霊などが存在すると考えられていて、それぞれ好みの魔力が違っているとされている。
それと同じように、魔力の質もひとそれぞれ違っているのだ。
つまり炎精霊にとって好みの魔力を持っている魔法使いは、炎系統の魔法に秀でているというわけだ。
「じゃあ最後、きみの得意な系統はなに?」
俺の番がまわってきた。
俺の得意な系統か……。
本当のことを言うと俺に得意系統はないんだけどな……。
だけど、それを言えば即不合格になってしまうかもしれない。
全部不得意ってことは、裏を返せば全部同じくらい得意ってことになる。
なにを答えても間違いではないはずだ。
「風系統です」
俺はそう答えておいた。
「なるほど。炎が四人に水が三人、氷が二人に風が一人ね。それじゃあ、これからチーム戦を始めてもらうわ」
チーム戦か……。
てことは、人数的に俺は炎系統の四人と組んで、水&氷チームと戦うってことか。
「というわけで、いまから系統別にチームを組んでちょうだい。自分とは異なる系統のチームを全滅させたチームが合格よ!」
……ええと、いま、なんて言った?
もしかして、四対三対二対一で戦えってことか?
それ、俺にめちゃくちゃ不利なルールなんですけど……。
俺が不満げな顔をしていることに気づいたのか、試験監督が言った。
「ごめんね。今年はこういうルールなの」
そう言われると、返す言葉もない。
俺は一次試験を特別に免除してもらってるし、これくらいの苦難はあってもいいだろう。
「全滅って、具体的にはどうすればいいんですか?」
俺のとなりに立っていた受験者が質問した。
一番有利な炎チームに所属しているだけあって、その顔には余裕が見て取れた。
「気絶させるだけでいいわ。この闘技場には安全策が施されてるから、全力で魔法を使っても問題ないのよ」
「安全策とは?」
「この学院の敷地内には、学院長の手によって特別な結界が張られているの。物理的な攻撃だろうと、魔法を使った攻撃だろうと、ダメージは精神にしか作用しないわ」
「つまり、どんな攻撃を受けても無傷でいられるってわけですね?」
「そういうことよ」
……なるほどね。
さすがは大魔法使いだ。
たったひとりで広大な敷地全域にそんなすごい結界を張るなんて、普通はできない。
俺もいつかはそんな魔法使いになりたいものだ。
「もっとも、結界に保護されるのは人体だけだから、建物は壊れることもあるんだけどね」
とはいえ、と試験監督は続ける。
「特別な素材を使っているから、きみたちが全力で戦っても傷一つつかないわ。そんなわけで建物の損害費用を請求することはないから、安心して戦ってちょうだい!」
そう言って、試験監督はウインクした。
きっと、俺たちの緊張をほぐすために冗談を言ったのだろう。
だが、その冗談で笑みを浮かべたのは炎チームだけだった。
特にふたりで戦わなければならない氷チームは、すでに諦めたような顔をしている。
そんな氷チームより不利な状況に立たされている俺はというと、もちろん諦めてはいなかった。
「それじゃあ、きみたちの健闘を祈るわ!」
そう言って、試験監督は客席へと移動する。
受験者たちはチームごとに集まって軽く作戦会議をしたあと、思い思いの場所に散らばっていった。
一方、俺は闘技場のど真ん中に居座ることにした。
最初はバックアタックを避けるために壁際に移ろうかとも思ったが、裏を返せばそれは逃げ場を失うということだ。
それに、俺は逃げたくなかった。
こんな困難くらい真正面から突破できるようじゃないと、魔法使いにはなれないと考えたのだ。
そうして準備が整ったところで、試験監督が声を張り上げた。
「それじゃあ――二次試験スタート!」
「さあ――どこからでもかかってこい!!!!!!!!!!」
俺は気合いを入れるべく、いままで出したことがないくらいの大声で叫んでやった。
その瞬間――
受験者全員が吹き飛んだ。
さらに密閉された闘技場全体に響き渡った俺の声はそこらじゅうに亀裂を走らせた。
そのうえ土台に固定されていた客席の大半はひび割れ、がらがらと音を立てて崩れてしまう。
「……」
そんな惨状を目の当たりにし、俺は呆然としてしまった。
……えっ、ちょっと待って?
もしかして俺、叫んだだけで『どれだけ全力で魔法を使おうと傷一つつかない建物』を半壊させてしまったのか?
で、でも、ほかの受験者に魔法を使った様子はなかったし……てことは、やっぱ俺のしわざか、これ。
……ま、まあいっか!
損害費用は請求しないって言ってたし、それになにより、いまはほかにやることがあるしな!
「まだ意識を保ってる奴はいるか!?」
俺は倒れている受験者たちに問いかけた。
……返事はなかった。
声が上がるどころか、誰一人として起き上がる素振りを見せなかった。
てことは、だ。
「やったー! 合格だ!」
俺はガッツポーズを作ると、半壊した客席でのびている試験監督のもとへ駆け寄った。
「すみません! 起きてください!」
ぐるぐると目をまわしていた試験監督の肩を揺さぶり、無理やり目を覚まさせる。
試験監督ははっと目を覚まし、
「い、いま、なにが起きて………………これ、きみがやったの?」
呆然としつつ、訊いてきた。
「はい! 俺がやりました!」
俺は自信満々に答える。
すると、試験監督はますます呆然とした。
「そ、そう……。なんていうか、その………………すごいのね。声を大きくさせる魔法を使ったんでしょうけど……それでも、普通こうはならないと思うのだけれど……」
試験監督が言っているのは『拡声魔法』のことだ。
偉いひとがスピーチのときとかに使う魔法である。
どうやら試験監督は、俺がその魔法を使ったと思いこんでいるらしい。
実際はただの大声なんだけどね。
まあ、本当のことを言っても信じてもらえそうにないので、黙っておくけど。
「とにかく、合格ですよね?」
俺は期待をこめてたずねる。
「そ、そうね。この展開は予想外すぎるけど……おめでとう、アッシュくん。文句なしの合格よ。あなたの今後の活躍を期待しているわ。……まあ、拡声魔法は今後なるべく控えてほしいのだけれどね」
試験監督の言葉に、俺は再びガッツポーズを作るのだった。
次話は明日の18時頃更新予定です!